4 変態魔法少女(中身男)、親友に惚れられてしまう



現実は、時に残酷である。



「お前も見た?新しい悪の組織の…………」

「リカだろ?早速スマホの壁紙にしたわ」

「どちゃシコじゃね?」

「どちゃシコだな」



クラクラする頭をどうにか動かし、高校へと歩む道。



「あの子、めちゃめちゃえっちだよね〜」

「同じ女の子として尊敬するね〜」

「リカちゃんのせいで男どもの性癖壊れないと良いんだけどね〜」

「ね〜」

「まぁ可愛いから許すけどね〜」

「ね〜」



歩む人々の声色は様々だが、話題は案の定俺―――というかリカ一色に染まっていた。



「むふふ………極秘ルートでリカたそのえちち写真を入手したぞ………」

「流石我らがサークル代表………!!」

「ワイの情報網によれば、昨日のうちにリカたそのグッズが発売決定したとのこと………」

「買わねば!!」



教室に着いてからも、この調子である。

男子どもは可愛い上にスケベなニューヒロインの誕生に歓喜し、女子たちは歩く18禁に戸惑いつつもモデルを見るような憧れの視線を向けている。




極めつけは。



「あー………実は昨日先生な、2年付き合った彼女と別れたんだよ。

 理由なんだが………じゆヒスの推し活について喧嘩してたら、例の変態魔法少女が現れてよ。

 先生じゆヒスガチ恋勢だから興奮して早口になったんだけど、その瞬間腹パンされて出ていかれた」



とあるじゆヒスガチヲタ教師が、衝撃の暴露をしていた。


―――え?俺このカップルの別れの責任も請け負うの……??







「あ"〜ほんとやばいわ…………」



そんな頭痛の種を全方位から投げられながら、迎えた昼休み。

俺は心労が祟り、机に突っ伏していた。




「ねぇ梨央?大丈夫?体調悪い?」



そんな俺に声をかけてくる、少女の声。



「…………皐月」



その主は、昨日俺を振った女、あるいは俺のクソデカ感情の行く先、八木皐月。



「昨日はその………ごめんね。けどさ、やっぱり梨央も大切だから、付き合えないけどまだまだ仲良くしてたいって話をしたくて………」



うっほー。何この子素敵。惚れちゃう。いや惚れてたわ。



「お願い。これからも一緒に仲良くしよう?」



あらもう。振った相手でもまだまだ仲良くしてたいんだってよ。どれだけ慈悲深いのかしら。すき。好き好き大好きもっと好き。ぎゃふん。




《どう見てもキープ扱いじゃないですかね……》




うるさいなぁ。ぶっころすよ?



《やだこの人。どっぷりクズ女の沼にハマってるわ》



そこが良いんだろ?それを承知の上で攻略計画練ってるんだよ。たった一度の失敗で諦めるか?最後に勝ちゃいいんだよ最後に。



《ほんっと、じゆヒスって女神チームも人間チームもホントに恋愛感情が極端なヤツしかいないのよねぇ…………》



こちとら人生棒に振る覚悟で恋愛やってんだぞ?勉強時間削って恋愛の計画練ってんだぞ??舐めんなよ??




「ごめん、私舐めたこと言ってたかな………??」


「え!?今の口に出てた!?違う違う!!」



脳内に響いたクソ女神の声に反応していたら、どうやら口に出ていたらしい。

今にも泣き出しそうな皐月の手を取り、俺は言葉を吐く。




「皐月は付き合ってようが付き合ってなかろうが大事な人だから!これからも一緒に居たいからさ!今後も仲良くしようよ!」


「梨央………!!」




………一応言っとくけど、前半部分は嘘である。だって絶対落とすから。コイツと一緒にバージンロード歩むって決めてるから。


しかし、泣き笑う皐月もかわいいなぁ。やっぱりどちゃクソ可愛いよなぁ。

てか俺チョロすぎるな。まるでクズホストにハマった女の子のような……。








「おーおー、どうしたお前ら?ようやく登校できたと思ったら、いきなり感動の名シーン見せられたのか?」



そんな青春の1ページをしていると、乱入者が現れた。

二人きりの邪魔してくんな。どっか行け。死ね。



《うーん、やっぱりヤンデレ気質なのよねぇ……》



あとさっきからイシュタルのツッコミうるせぇ。お前どこに居るんだよ。






「―――早都!!!」



………で、その不届き者の正体は、皐月のキラッキラした瞳ですぐに判明した。



「…………げッ」



しかし、俺は彼を直視できない。



「おいどうした?俺とお前親友だろ??ん??」



親友こと二条早都は、いつものように俺の首に手を回し、肩を組んでくる。





………それすなわち、首元やら耳やらが至近距離にあるというわけで。





―――フラッシュバックする、昨日の記憶。

舐めた耳、噛みついた首、数々の甘い声。





「ギャア!?うえっぷッ!!」



俺は思わず早都を突き飛ばし、必死に吐き気を抑える。

なんということだ………。昨日の黒歴史がモロに刺さってくる………。



「手荒な真似すんなよぉ梨央。ただでさえ昨日の傷が癒えてないんだからよぉ」



動じずにひひと笑う早都。

しかし彼は首筋の傷を指で撫でると………満足気に笑っていた。



「なぁ、それって………」







「ああそうだよ。偶然出会った運命の好敵手ライバルから受け取った、愛と絆の象徴だ」




そう言って、早都は恋する少年特有の切ない顔をして―――







「ハァ………ハァ…………!!」



やっちまった。完全にやっちまった。



いや言い訳させてほしい。昨日のアレは、早都に迫る女の子を演じて、皐月から早都への恋愛感情を抑制する、というのがゴール。


しかし、魔法少女への変身で愛情と性欲が暴走したことで行動がエスカレートし、結果早都が魔法少女リカに恋してしまった。

思いっきり、親友の性癖を歪ませてしまったのである。


少女漫画的に言うなら―――


「好きな人に振られたと思ったら、親友が俺に恋してた!?」ってところである。


何だよそれ。意味わかんねぇよ。







「あぁ………終わった………!!」



情報の洪水が止まらない中。

俺は天を仰ぎ、倒れ込む。







―――しかし、それを後ろから支えてくれた人が居た。



………もしかして、皐月かな。それなら最高だな。神シチュエーションだな。さっきまでの悩み全部吹き飛ぶな。





「ね〜梨央。大丈夫?」



しかし、その声は皐月のアニメ声ではなく、凛とした大人な声。



「やっぱ昨日の疲れ溜まってんじゃない?」

「これはこのまま連れ帰ってあやしてあげるべきです」

「ついでにこの子のこと持ち帰っていいかな?」

「まだお昼ですよ〜」



さらに高めでお淑やかな声も聞こえてきて、俺は後ろを振り返ると。









「こんちは〜!!」


「2年生がおじゃましてます〜」




赤眼の黒髪ボブでピアスだらけの先輩と、紫髪おさげ姫カットでゴスロリブレザーの先輩がいた。

ナチュラルに、1年生の教室に入ってきてた。




「「いや、なんで先輩いんの!?」」




早都と皐月が驚きの声を上げ、教室中も謎の出来事にざわつく中。


俺は、全てを察する。





―――昨日の撤退間際、『明日学校で会おう』と言っていたこと。

俺はまともに話したことが無いのに、あちらは俺の名前を知っていた点。

そして、どう考えても見たことのある黒髪ボブと紫の姫カット。



それらは、ひとつの結論へと導かれる。








すなわち、こういうこと。





「どうも〜!!風紀委員長の浅井雪菜あざいゆきなだよー!!今日は梨央のスカウトにお邪魔したの!!」



「同じく副委員長の足利あしかが沙夜歌さやかです。梨央くんは貴重な人材なので、迎えに来ました〜」










その口上に………クラスはざわめいた。





「やべーぞ!!風紀を守らない風紀委員長と副委員長だ!!」

「校則破り上等なのに人望と能力だけで風紀委員を乗っ取ったおもしれー女」

「教師が呆れて校則破りを黙認したという………あの伝説の2人か」

「もともと有名だったけど、まさかうちのクラスに来るとはね〜」

「どう考えてもピアスの量がヤバいわね。校則をアクセル全開で踏み越えちゃってるわ」

「いや紫に染め切った髪色の方がヤバいでしょ。校則でブリーチ禁止になってるんだよ?」




何故なら、この2人は元々この高校でも有名人………というか問題児なのである。

クラスの奴らの反応を見れば、一目瞭然。




「朝倉………強く生きろよ………」

「1ヶ月後には金髪クソヤ◯チンになってそうだなお前」

「辛くなったら………いつでも帰ってくる場所、あるからな?」



普段オタトークやら与太話をする男子共が、俺に近寄っては励ますレベルで。




「おー………そうなんだ、梨央って風紀委員さんと知り合いなんだね………いやまぁ良い人たちって聞くんだけど………びっくりだよ………」



皐月はもう困惑通り越して言葉を失いかけてるし。




「梨央お前この人たちと仲良いのか…………なんかよく分かんないけど、俺この人たちクッソ苦手なんだよな………」



早都に関しては苦手オーラを全面に押し出している。そりゃぁ毎回ボコられてたらそうなるよなぁ………。









「あの、ユキさんサヤさん」

「こらこら、変身してないんだから雪菜さんと沙夜歌さんだよ?」

「じゃあ、雪菜さん沙夜歌さん」

「なーに?」

「どうしたんですか?」







「あんたら、どこでもこんなおもしれー女扱いなんですね…………」








「梨央。昨日から君もこっち側だからね?」

「1人だけ逃げるのは良くないですよ?」

「…………やめてください現実を突きつけないでよ………」



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