3 歩くセンシティブ、無事ヒーローの尊厳を破壊



「さてさて、リカは初日だし撤退が1番いいと思うけど……」

「かと言って、何もしないで逃げ帰るのも癪ですね」



身構えるヒーローたちを視界に入れ、ユキさんとサヤさんが言葉を交わす。



「普段2人でも戦えてるんだから、3vs5になったらほぼほぼ勝てるよね」

「ボコボコのボコにできちゃいますね」

「なら一泡吹かせるしかないよね」

「オギャーって言わせるしかないですね」

「一発殴ってから帰ろうか」

「さんせいです〜」



そして彼女たちは頷き合い。


ヒーローたちに向け、走り出す。




「リカ!ついておいで!!殺戮だよ!!」

「お待ちかねのお仕置きタイムですよ!!」




先人の魔法少女たちにエグい招き方をされ、わたしもつられて駆け出す。




「わたしの愛を受け止めてくれるの、だ~れだっ♡」











「ナイトメアパーティー、はじめましょ♪」

「ヒィッ!?」

「くらえ、私の血が染み込んだ包丁(ドスッ)」

「ずっと不思議だけどなんで自分を傷つけてから攻撃すんだよ………!?」

「痛みを共有するのが男をオトす恋のテクニック♡」

「こんな彼女重すぎて嫌だよ!!」

「女の子の貴女には………怒りの鉄拳!!死ねッ!!」

「ユキあなた女子にだけ当たり強いよね!?酷くない!?」



前方では、主に自分の血で汚れた赤眼のバーサーカーがヒーロー2人を巻き込んでМに浸り。




幻想世界まじゅつ発動―――《分娩室》」

「………!?ここは………赤ちゃんが産まれる部屋!?」

「ほら、赤ん坊はオギャーって言わないと駄目じゃないですか(パァン!)」

「ひいっ!!お尻叩かないで!!」

「産声が足りませんねぇ………そちらの双子ちゃんも一緒に保育しなきゃですねぇ??」

「〜〜〜〜!!!」

「おぎゃおぎゃが聞こえないですよ〜??ん〜???」

「ぷはぁっ!!口を思いっきり握り潰すのが保育な訳ないだろ!!あと人のこと勝手に双子扱いしちゃダメでしょ!?」



後方では、ゴスロリ纏った魔術系ドS助産師が赤ちゃん(高校生)に暴力的教育を行っている。




その姿に、ギャラリーは悲鳴を上げるが。

ちらほらと歓声やら興奮やら拍手やら、ポジティブな反応も垣間見える。




―――あれがセーフなら何やっても許されそう。


てかギャラリーの寛容度がすごい。中継のアナウンサーが見るからにハァハァしてるし。






「なるほど………俺の相手はリカ、君か………!!」



さて、ヒーロー軍団【ヤングアダルト】で余っているのは、約1名。

高身長イケメン、動画サイトで大人気の剣士、あるいはわたしの親友こと二条早都。



「正々堂々戦おうじゃないか……!!」



ヒーローの中でもトップクラスとまで呼ばれるアイツの剣の威力。

真っ正面から戦ったら勝てる訳が無いんだけど……あいにく、こちらには搦め手がある。



「さっきのようにはいかないぞ………ってんんッ!?」



威勢よく構える彼を尻目に、わたしは。










「…………かぷっ」


「やめろ!!首噛むなッ!!!」



のらりくらりと接近し、首元を噛んだ。

割と強めに。



「変態!ドスケベ!クソ野郎!!」

「そう言う割には心臓の音高鳴ってるけどなぁ〜??」

「そ、それは戦いに興奮してるからで………!!」

「言い訳しちゃって可愛いねぇ」



顔を赤らめるヒーローくん(笑)に、わたしは更に追撃を仕掛ける。





「今度は何を………!?」




わたしは間髪入れずに彼の目を覆い隠し、耳元で囁く。




「早都ってこういうの好きだよね………」




そして、視覚を奪ったことで鋭敏になった彼の嗅覚へ、フローラルな刺激を加える。




「…………!!この香りは………!!!」




早都の鼻先には、わたしの髪がほぼゼロ距離で密着している。




「女の子の匂い、ってやつだよ〜?」




「くっ………こんなもので俺が屈するなど………」

「諦めたほうが早いよぉ?ほーら、息を吸う度に頭がピンクになってくよ??」

「なんでコイツは俺の好みばかり突いてくるんだ………!?ストーカーか!?人気出過ぎてストーカー生まれたのか!?」



連続攻撃で脳内ピンクヘロッヘロの早都。わたしはまだまだ攻撃を緩めない。






それもそのはず、これらの攻撃はほぼ全て早都好みのシチュエーション。



―――アイツが休み時間によく話す、『理想のシチュエーション』の一例だからである。



曰く、彼は受け身になることが性癖で。

五感、特に聴覚、触覚、嗅覚を責められることが大好きらしい。

………とは言っても、早都が付き合った女の子はお淑やかばっかりで、性癖が成就したことはないとのこと。



で、今回。

敵の激かわ巨乳銀髪美少女に、性癖どストライクのストレートを投げられたという形。


ついでに言うと、彼の影響で脳内シミュレーションは何度も行っていたせいか、わたしのプレイも完璧に近い。



………あ、相手はもちろん皐月だよ。現実で成就しないから脳内補完しただけです。非リアはこうするしかないの。






で、そんな性癖ど真ん中のことを完璧にやられ続けたムッツリスケベ早都くんは、当然―――




「あぁ…………!!ここはエデンだったのか………!!Oh、YES………」




情けない顔で昇天していた。




「ざっこ♡よわよわじゃ〜ん」

「そこで責められるのも完璧だ。素晴らしい………!!」




敵であるはずのわたしに、満面の笑みでサムズアップしている。プライドどこ?





「リカ〜!!そろそろ帰るよ〜!!」

「良い子は宿題やってご飯たべる時間ですよ〜」



すると、同じようにヒーローを完封したユキさんとサヤさんがわたしを呼ぶ。



「このゲートの先がみんなの自宅に繋がってるから、ここ通れば無事帰宅なのだ!」

「わたくし達はみんな同じ高校ですし、よく寝てまた明日学校でお会いしましょう!」

「え?なんでわたしの素性バレてるんです??」

《ごめんわらわがバラした。そっちの方が都合がいいのよ》

「わたしのプライバシーどこ??」

《自分から進んで全裸になるヤツにプライバシーとか要る?》

「それもそっか!」



そうしてわたしたちはゲートへと足を踏み入れる。




「それじゃみんな、またねぇ♡」

「ばいばーい!!」

「ごきげんよう〜」




颯爽と去っていくわたしたち。

そしてわたしは、耳にしてしまった。






「…………リカ!!待ってくれ!!まだまだ俺は………!!


 お前に責められたいッ…………!!!」




親友による、わたしへの公開告白プレイの懇願を―――。


















「なんなんだ、これは………!?」



ゲートを通ってひとり自宅に着き。

男に戻ったことに安堵した途端に疲れが襲ってきて爆睡した、翌朝のこと。

両親の長期出張で絶賛一人暮らし中の俺は、眠い目をこすってテレビを付けると………とんでもない光景を目にしてしまった。





『―――というわけで、この時間も変わらず、メンヘラ狂人魔法少女軍団こと【自由とヒステリー】、通称じゆヒスに加入した少女・リカについての特集です』



それは、テレビに映る、銀髪巨乳ド淫乱の姿。



『一夜のうちにヒーローとの交戦動画は200万回再生を超え、『新たなダークヒロインの登場』と言われております。

 明らかに子どもの教育に悪影響な彼女ですが、ヒーロー省大臣は『えちえちな娘、めっちゃよくない?』と無規制の方針を貫いており―――』



アナウンサーの原稿読み上げも貫通する、淫語の数々。



「………ぁぁ………俺は本能のままになんてことを………」



嫌な予感しかしないまま、ネット掲示板を開くと………案の定。




『【速報】ド淫乱、降臨』

『【朗報】魔法少女、やっぱり頭おかしい【おもしれー女】』

『【変態】最初はかわいいと思ったのに中身がR18だった新米魔法少女リカさん【逮捕しろ】』

『なんで自由とヒステリーってやべーやつしかいないの……?』

『某変態軍団のせいで他の悪の組織たちが風評被害を喰らっている件』

『【討論】じゆヒスのせいで子どもに悪の組織について教えられないんやが【外れ値】』

『【悲報】相対的に残り2人がマシに思えてきた件【じゆヒス】』

『【御三家】ドMメンヘラとドSママと歩く18禁から1人選べ【まさに蠱毒】』

『不審者と不審者と不審者、3人合わせて魔法少女!いいから早く防犯ブザー鳴らせ』

『【悲報】最強剣士(笑)早都くん、完堕ち』

『二条早都とかいう俺等の同類www』

『【ワイも襲って】リカちゃんファンクラブ Part12【淫乱薄幸美少女とかいう新ジャンル】』



「Oh、YES………」



どのチャンネル、どの動画サイト、どの掲示板を回っても目に入るリカの暴走劇。

そしてその中身は、他の誰でもなく、朝倉梨央。すなわち俺。




それは、俺の黒歴史の爆誕。

平たく言えば、ネットのおもちゃと化していた…………。

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