3-3
実習3日目の朝も、天気予定の通り青空が広がっていた。細くたなびく雲が幾筋も引かれ、まるで空を舞台に絵を描いているようであった。
屋代の心とはまるで裏腹なその景色に、ぼんやりと視線を彷徨わせる。
「はぁぁぁ」
そうして深くため息を吐いた。
「あ~………やっちまったな」
その胸を満たすのは重い後悔。もし周りに人が居なければ頭を抱えて項垂れていただろう。
「ため息なんてらしくないね。何かあったのかい?」
「東雲か……」
顔に暗い影を落としていると、征徒に肩を叩かれた。屋代と同じく軽い服装、いつも通りに整えられた髪型と眼鏡が何故かまぶしく見える。
「いや、ちょっとあってな……」
「僕でよければ相談に乗るよ?」
その言葉にありがたいものを感じるが、しかし素直に口にするには憚られた。なにせ、屋代が落ち込んでいる理由は生徒として致命的な問題で、かつその問題を説明するには祈相術の仕組みを解説しなければならないからだ。あの魔力を見通せる不思議な眼鏡がないのにそんな話をしても、ただの勘違いだと笑われるか痛ましい瞳を向けられるかのどちらかだろう。
「大した話じゃないから気にするな」
加えて、今朝は朝食も食べずに飛び出してきてしまった。
昨夜の醜態を思い返して顔を合わせられなかった屋代は、白穂神様に引き取られてから初めて朝食を食べずに登校してきたのだ。おかげで先ほどから胃が食べ物を食べさせろとがなり立てている。低血圧の頭がうまく働いていないのもそのせいだろう。手のひらをお腹に当てて、音を抑えようと無駄な努力をして見せる。
「どうせ昨日、疲れを抜けきれなかったんでしょ。慣れないマネなんてするからそうなるのよ」
隣で呆れた視線を送ってくる波嬢は、屋代と違い気力に溢れているようであった。言葉通り、1日の休みで十分な英気を養ったのだろう。その有り余っていそうな元気を少し分けてほしいと思う。
「そうだったね。昨日はソーサーさんを案内したんだったね、どうだった? 彼女は喜んでた?」
「あ、ああ。そこそこ楽しんでたぜ?」
最後は屋代が逃げてしまったので別れの挨拶もまともに交わせていないが、途中まではしっかり紹介できていたのでそう頷いておく。目を泳がせながら返事をする屋代がどう見えたのか、波嬢は鼻をならしてせせら笑った。
「まともな案内ができるわけないでしょ。どうせ神職関連の道具屋とか紹介して彼女を呆れさせに決まってるわ」
「波嬢さん。いくら屋代でもそれはないと思うよ? 屋代は言動は荒いけど、こと仕事には誠実なんだから。しっかり案内したはずさ」
「……人の目の前で随分な言い草だな」
特に波嬢の物言いはたぶんな偏見が入っている。しかし、過去の言動を振り返って否定しきれないのも事実なので強く出られなかった。
不服気に唇を曲げた屋代に、それ見たことかと波嬢が笑う。
「案内の途中で怒られでもしたんじゃない? まったく、あんな可愛い子と逢引しようだなんて考えるから罰が当たったのよ」
「…別にそんなこと考えてねぇよ」
「へーそう? なら興味があったのは彼女が使った祈相術のほうかしら?」
ぐいっ、と顔を近づける波嬢。好奇心をのぞかせる目の中に、執着の炎が揺れていた。
「で、どうなの? 彼女の祈相術の話とは聞けた?」
「なるほどな。そっちを聞きたかったのか。あいにく教えてくれなかったぜ?」
「……ちっ」
肩をすくめた屋代をつぶさに観察し、本当に何も知らないのかと波嬢は軽い舌打ちをした。その素直な反応に、屋代は怒りよりも感心を覚えてしまう。どんな時でも祈相術を理解し習得しようとする貪欲さ。波嬢の姿勢は、人によって節操がないといわれかねなかったが、屋代はむしろ好ましく思えた。あらゆる知識を、そこにある技術を習得して神職を目指そうとする波嬢は、屋代と似ているからだ。
「………」
「何よ?」
じっと波嬢を見つめ、次いで嘆息する征徒に視線を移す。彼らは、いや、この浄環ノ神の神社に集まっている生徒の中で、術の正体を知っている者は何人いるのだろう。あるいは、神様ならば把握しているかもしれない。術には魔力が必要で、型とはその魔力に指向性を持たせて変質させるための手順に過ぎないと。そうして生成する魔力の量によって、術が発動する速度や威力に違いが生まれる
「ちょっと、何か言いなさいよ」
「屋代? どうかしたかい?」
居心地悪げに体を揺らす波嬢の傍で、征徒が訝し気に両眉を上げた。二人の反応に、屋代はしばし沈黙して首を横に振った
「いや……何でもない。それより今から何をするんだ? 急に集められたはいいんだが、何も聞いてないぞ」
だが、たとえ祈相術の原理を知ったところで事実は変わらない。屋代が祈相術を使える可能性がゼロであるという現実は何一つ。改めて思い浮かべると足に力が入らなくなり、その場に座りこんでしまいそうになるが、それでも意識して全身を支えた。
屋代にはもう、神職しかない。それ以外の道など思い浮かばないがゆえの破れかぶれだということは自覚していた。だが、ほかの実技など比べ物にならないような実績を上げられたなら、もしかすれば道が開けるかもしれない。期待などという言葉では表せないほど天文学的な確立であったとしても、屋代はそれに縋りつかなくてはいけなかった。でなければ、心が折れてしまう。
「僕らも知らされていないんだ。今日は境内の掃除や雑務を経験するはずなんだけど、どうもそういった様子じゃなさそうだ」
「まあ、外回り担当も集められているからな」
眷族によって店が壊されたことも関係しているだろうが、一昨日の屋代たちと同じように外で活動するはずの班も境内に集められていた。予定と違う行動に、どこか浮ついた空気を感じる。
「何でもいいからさっさとしてほしいわ。こうして待たされてるのも退屈なのよね」
手足を曲げ伸ばし、体をほぐしながら波嬢が愚痴を口にする。
すると、その言葉が聞こえたわけでもないだろうが、絶妙な時機で教師と筆頭巫女である藤芽が御社殿から出てきた。
「おー、お待たせ。今から実習内容を伝えるからちゃんと聞いておけよぉ」
「ん?」
おしろい教師じゃない? 昨日までと違って声を出しているのが白石だと気づき、屋代は首をひねった。疑問の理由を考えるより先に藤芽が生徒たちの前に立つ。
「皆さんおはようございます。本日の実習ですが、事前に予告していた業務はすべて取りやめ、私たちと共に外で眷族を鎮める手伝いをしてもらいます」
「はあっ?」
波嬢の驚く声が響いた。一拍遅れて周囲の生徒からも似たような声が上がりだした。
「おーい、静かにしろ。話はまだ終わってないぞー」
「落ち着け」「静粛に!」
残りの教員たちもそう呼びかけるが、生徒のざわめきは収まらない。屋代もまた、その気持ちは十分すぎるほど理解できた。驚愕に固まる征徒に目を向ける。
「なあ、本気だと思うか?」
眷族を鎮める、などという藤芽の発言を冗談ではないかと疑ってしまう。それほどまでに、納得することが難しい内容だった。
なにせ、屋代は実際の眷族を見ている。その暴れる姿、破壊性を実感しているのだ。そんな相手を鎮めるという、にわかに信じられない実習を提案した藤芽を二度見してしまう。
「手伝い、と言ってはいたけど……」
征徒もまたひどく困惑しているのか、眼鏡の奥がせわしなく揺らしている。
「落ち着いてください。ひとまず最後まで私の話を聞いてください!」
聞く体勢になったから、というより楚々とした藤芽から放たれた大声に驚いた生徒たちは声を途切れさせた。大勢の人間から凝視される藤芽は頬を赤く染めながら息を吐いた。
「皆さんの中には知っている方もいるでしょうが、一昨日から神の悪戯が頻発しています。組合の手だけでは足りず我々近隣の巫女たちにも声がかかっていましたが、それでも対応しきれていません。そこで、後方支援として皆さんの手もお貸しいただきたいのです」
「そんな」
絶句する征徒を横目に、屋代も息を止めた。本物の神職である藤芽たちでさえ手が回ず、学生の屋代たちまで動員されるなど尋常な事態ではない。
「すでに皆さんの上級生たちにも声がかかっています。彼らもまた皆さんと同じく、後方支援として動いてもらっています」
「そういえば教師の数が少ないわね。もしかしてそういうこと……?」
波嬢の呟きに、屋代も内心納得した。教師の数が明らかに少なく、おしろい教師の姿も見えないことから、おそらくほかの学年生徒を率いて動いているのだろう。つまりこれは、何ら冗談でもなく本気の緊急事態を意味している。
「辛気臭い顔してるわけね。そりゃ自分たちの不甲斐なさを生徒に押し付けてるんだから」
「波嬢さん。先生たちに罪はない」
「分かってるわよ、うるさいわね。けどアタシたちまで動かすっていうんだから愚痴くらい許しなさい」
苛立たし気に吐き捨てた波嬢は、流石に緊張しているようだった。もし今起こっている神の悪戯が、屋代たちが遭遇したものと同等以上の危険性を持っているならそう言いたくなる気持ちは理解できた。
「か、神様は止めてくれないんですか!?」
一人の生徒が上げた声に、周りの者たちが顔を見合わせた。
「そうだよ、ほかの神様は何をしておられるんだ」「まさか私たちを見捨てたわけじゃ」「馬鹿、そんなことあるわけないだろ。俺たちは神様に祈っておけばいいんだよ」
波のようなざわめきが再び広がり始める。
「……そうだよな。どうしてほかの神様は止めないんだ?」
そも神の悪戯が起こされれば、他の神や神を統べる大神によって粛清される。大抵は組合や神職が原因となった神様を特定してから行われるが、今は状況が状況だ。いっそどこぞの神に願って神の悪戯そのものを止めてもらえばいい。
屋代はそう考えたが、その答えは白石教師からもたらされた。
「おいおい、しっかり勉強しろよ。世界を管理してる神が動くってことは、その分世界の調整が崩れるってことだぞぉ?」
「で、ですが少しくらいなら―。調整が乱れても他の神々が支えてくれればいいんじゃないですか?」
そういった男子生徒に、白石のみならず、藤芽たち巫女の視線が突き刺さる。
「ふーん。つまり、神様に人の都合で動いてもらおうって言いたいわけだ」
「!? ち、ちがっ。僕はそういうつもりじゃ――!」
まるで自分たちを助けてくれる都合のいい道具だと、そう捉えられることに気づいた生徒が顔色を悪くした。それまで同調していたはずの生徒たちも数歩距離を取る。
神の庇護下にいる者でありながら神を貶めるような発言だったと、青白くなった生徒に征徒は厳しい視線を送った。
「多くが人に対して友好的だけど、神の本質は自らの在り方に忠実なところだ。それを人の都合で押さえつけて、人の社会に無理やり合わせて貰ってる。前提として、神に無理強いしているのは人の方だ」
一拍はさみ、白石が心の底から吐き出した。
「神の悪戯っていうのは、言ってしまえば人が受け入れるべき罰であり、清算するもの。なのに、それさえも神に縋ってしまうなら、私たちは人であることを放棄したのも同然ってわけだ」
それが世にいう善神であれ悪しき神であれ、もっとも己に忠実な存在である神様が、人間社会を尊重してその枠組みの中で納まってくれている。それがどれほど奇跡的なことなのか、屋代はこの時になって初めて実感したように思った。神様を道具などと考えたことはなかったが、人の命を一息で消せるような存在が、人を尊重してくれているこの国の在り方を改めて認識した気分だ。
征徒が瞳を潤ませ、波嬢もまた茶化すことなく真剣な目で白石を見つめた。
「あ、あと言っとくけど、仮に神様に救援を求めたとしても、お越しになられるまで誰が人を守る。それとも守ってもらうつもりだった? 生活を、財産を。神の悪戯を鎮め続けて人を守るのは私たちしかいないってわけ。分かったかな?」
屋代たちの国は、島国といっても億に近しい人口を支えられる面積を有している。当然、そこを治める神々は各地に点在することになるので、近しい場所から駆けつけたとしても時間が必要になる。その間、暴れる眷族から人を守るのは神職の使命だと断言され、屋代は知らずこぶしを握り締めていた。
「さっき藤目さんが言ってたように、やってもらうのは後方から祈相術を打つことだけ。危険がないなんて言わないけど、前には出させないし、危うく成ればすぐに退避させてやる」
そこまで言い切った白石は、大きく息を吐いた。生徒たちの間で空気が変わったことを敏感に察した。
「はぁ―真面目は疲れるなぁ。それじゃ、あとはお願いします」
「はい……皆さんは私たちと共に動いてもらいます。いくつかの班をまとめての行動となりますので、今からいうことをよく聞いてください」
「「「―――はい!」」」
否定の言葉は上がらなかった。真っ先に恐怖を現わしていた男子生徒も、それに追従していた生徒も、みな一様に興奮で顔を赤くしいる。怖くないわけではないだろうが、意図したものか、神職を目指すものとしての矜持を上手くついた白石によって感情を熱くさせられたことで忘れているようだ。ある生徒は自分だけが人を助けられるのだと鼻息を荒くし、ある生徒は神の多大な愛を知って感動している。
「波譲さん」
「いちいち確認するんじゃないわよ。誰も嫌だなんて言ってないでしょうが……ちっ、白石のくせに変なこと言って。中てられちゃったじゃない」
そして、征徒や波嬢もまた、やる気に満ちた顔を見せていた。征徒はいつも以上に眼鏡の奥から光を放っているようだし、波嬢も眉を吊り上げて気炎を吐いている。二人とも白石の言葉に思うところがあったのか、その姿勢は負けず劣らず前のめりだった。
「…………」
屋代は、頭に血を登らせながらも声を出せないでいた。
屋代とて今の演説には中てられた。神が人の社会を尊重していると気づかされ、だからこそ引き起こされる神の悪戯を鎮めるのは己の役目であると決意も抱いた。しかし、それが不可能であることも忘れていなかった。祈相術が使えない屋代がどうして鎮めるなどといえるだろうか。
きつく引き結んだ唇は、己への悔しさで開かれることはない。
「東雲班は私と一緒に来てください」
「はい! 二人とも、行こう」
屋代が一人沈んでいる間にも、生徒が続々と巫女に続いて境内を出て行っていた。屋代が重い足を引きずりながら向かった先には藤芽が待っていた。
「皆さんは私たちと共に行動してもらいます。いいですね?」
藤芽のほかにも数人の巫女がいた。緊張からか幾分顔が固い彼女たちとは別に、藤芽は真剣な表情の中でも屋代たちをしっかり見ていた。
誰からも拒絶の声がないことを確認して、藤芽は頷く。
「私たちの担当はここからそう離れた場所ではありません。今はまだ大人しいですが、いずれ眷族が発生すると予想される地点でもあります。私たちは今すぐそこへ向かい待機します」
「住民の避難は行わないのですか?」
疑問を提示したのは征徒だ。生真面目な声色は、戦場となることを予想される場所で暮らす者たちを真っ先に案じた。
「すでに避難勧告は出ています。しかし、万が一残っている住人の方がいないとも限りません。なので私たちが行うのは住人の有無確認、そののち眷族を迎え撃つ準備です」
「承知しました」
藤芽の回答に征徒が頷く横で、屋代はこれからの動きを脳内で想像した。住民の確認はどうするか、眷族が現れた場合どう立ち回ればよいか。祈相術を使えないからといって、何もしないなどということはあり得ない。自分にできることは前と同じく囮くらいだが、他にもやれることはないかと必死で頭を悩ませる。
そんな屋代のすぐ近くから、この場に似つかわしくない声が聞こえた。
「つまらないな、眷族がいる場所じゃないのか」
軽薄な色合いを帯びた言葉に、自然、屋代の目がきつくなる。藤芽たちの視線さえ集めたその少年の名を、屋代は口に出した。
「流堂。どういう意味だ、それ」
「下らないって言ってるんだよ。てっきり俺は、暴れている眷族を倒すことが出来ると思っていたのに、まさか待機してろだなんてな。まあ、無能のお前としてはむしろ良かったんじゃないか?」
「……僕らはあくまで後方からの援護が主だ。仮に眷族と相対することがあっても前に出てはいけない」
一瞬だけ屋代を見ながら、征徒はそうたしなめた。
前に出るな、と、屋代にも向けられた忠告に苦いものを感じる。祈相術を使えない屋代は何もするなと言われているようだった。
「それはお前たちの場合だろう? この間も眷族と戦っておきながら鎮めることさえできなかったそうじゃないか」
「情けない奴らだ」「ぶふっ、まったくなんだな」
取り巻き二人が流堂に追従する。
「………どこで聞いたんだか」
あの場に流堂たちはいなかったから、誰かから伝え聞いたのだろうが。しかし、あまり吹聴してほしくない事実である。
「そうね。確かに鎮めることはできなかったわ。で、それで? その場に居なかったアンタが何を言いたいわけ?」
「…自分たちで対処できなかった結果、周囲の被害を出したそうだな? 波嬢。それでよく海浪家の一員だと口にできるな? たった一体の眷族さえまともに鎮められないなんて、俺なら恥ずかしくて悶死してるぜ」
波嬢が挑発的に口を挟めば、流堂もまた煽るような言葉を返す。視線を逸らしたほうが負けだと言いたげに、二人は睨み合った。
そんなことをしていられる状況ではないのだが、頭に血が昇った波嬢は歯を鳴らした。
「とはいえ、だ。そんなお前らにも少しは感謝してるんだぜ? なにせ眷族と戦ってくれたおかげで、俺たちにも機会が巡ってきたからな」
「偶然の結果にしては上々ですね」「だ、だな。ありがたく受け取るんだな」
「……何のことだ」
そうして吐き出された言葉は、屋代に理解できるものではなかった。反射的に疑問を口にすると、流堂は何てことないように言った。
「お前たちが、僅かといえど眷族との戦闘で成果を上げたからこそ、今回の後方支援の話が決まったのさ」
「――!」
屋代たちの目が見開かれる。まったく予想していなかった話だ。
「おかげで、こうして眷族と戦う機会ができたってわけだ。安心しろ、戦いは全部俺が持ってやるよ。お前らは後ろで震えていればいい」
絶対的な自信を伺わせる発言。屋代たちを見下す目は、そのまま流堂の矜持を現わしていた。
しかし、その言葉に波嬢は鼻を鳴らす。
「信用ないわねぇ、そんな口だけの台詞。ま、戦いたいっていうなら好きにしていいんじゃない? 泣きながら助けを求める姿を笑ってみておくわ」
「いや、波嬢さん。だから僕らはあくまで後ろから支援するだけで直接的に戦うわけじゃ……」
「はっ、お前たちじゃないんだ。そんな無様晒すわけがないだろ」
そこで呼吸を挟み、流堂が口元に笑みを浮かべた。
「それにしても……くく、眷族様様だな。おかげで俺の力を存分に示せる。どうせならより暴れている凶暴な眷族を相手にしたいもんだ。それこそ箔が付く」
あまりに不謹慎な台詞だった。今現在も各地で被害にあっている者が、そしてその眷族を止めようと足掻いている者がいる中で言っていい物言いではない。
波嬢が不愉快だと舌を打った。
「……流堂君。さっきの話を聞いていなかったのかい? 神による悪戯は僕らに対する罰でもあるんだ。それを、まるで踏み台のように語るなど無礼にもほどがある」
「……いや、お前が怒ってどうするんだよ東雲」
流堂に詰め寄ろうとする征徒を慌てて止めた。目は暗く、光のない様子は相当頭にきているのだと一目で理解できた。神様を下に見るような流堂の言葉は確かに怒るだけの内容だった。実際、普段それほど他の神を慕っていない屋代でさえ、傲慢すぎる台詞の数々に腹の内側が熱くなっている。それでも自分以上に怒りを示す人間を見ると、そんなことをしている場合じゃないと理性が感情を抑えてくれた。
何故か一触即発の雰囲気に包まれだした場で焦りを浮かべると。パンっ、と険悪な空気を断ち切るような柏手が一つ鳴った。
「――やる気があるのは大変結構。しかし、それは現場に着いてから発揮してください」
藤芽だ。若干目が据わっているのは見間違いではないはずだ。
「こうしている間にも事は起こっています。すぐにでも行きましょう――ただし、皆さんはあくまで私たちの支援に徹していただきます。危ういと判断すれば逃げることも視野に入れています。命大事に、で行きましょう」
「はい!」
「…………」
不服気な流堂を置いて、屋代は気合を入れ直す。これから向こうのは神の悪戯、その真っただ中だ。何が起こっても不思議ではない危険な場所に飛び込むのだと、歩き出した藤芽についていきながら自らを奮起させた
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