巨大な空気の渦を超えて

@bigboss3

第1話

 その日、恐ろしく頑丈に改修されたコックピットの内側のはめ込み式の窓の向こうは、CGでできていると思いたくなるほどの恐ろしい光景だった。まるで、蜘蛛の糸か綿菓子かと思うほどの風の塊が本来目には見えないはずのものを視覚化して雨粒やそれが冷却された小さな個体を窓に叩きつけて、ここは人間の踏み込むことが許されない領域だと、言わんばかりの抵抗をしていた。その抵抗はすさまじい〇コンマ単位の揺れとなり飛行機全他を揺さぶっていた。俺と相棒の森脇、そして科学研究班の十二名を乗せた、旧式のターボドロップ式航空機を動かしている。

 俺の名は加藤、防衛大を卒業したばかりの怖いもの知らずで、元シスコン気味の飛行機乗りだ。隣にいる同期の森脇と共に妹の通っていた有名大学院の研究員を乗せて異常発生した、異常な暴風雨を調べるために飛んでいる。

 俺達が向かう先は、衛星軌道から見て巨大な渦上の中心にある目の中だった。そこにあるはずのこの異常な嵐の先に何かを観測するために、十二人の命がかけられた。

 俺達がこの雲の壁の中に突入することになったのは半年ほど前の事である。太平洋とインド洋の境目、赤道のちょうど中間地帯に小さな渦巻き状の雲が発生した。多くの気象学者が、これが台風の卵、もしくは熱帯低気圧の一部とされたものとみなされていたものだった。しかし、普通ではなかったことと言えば、いつもの台風シーズンから完全に外れていたこと位であった。しかし、多くの気象学者はそんなことは稀にあることだと言って最初は見過ごされていた。この台風が招く本性を知らずに。

 やがて熱帯低気圧は、予想通り徐々に発達して台風の進化していった。ここまでは予報士の予想通りであった。しかし、ここからこの台風の異常さが際立ち始めた。台風はその成長速度を速めわずか二日足らずで、かつてアメリカ大陸に牙をむいた、ハリケーン「カトリーナ」とタメ線クラスにまでに巨大化。それは予報士をはじめ多くの学者知識人の常識というメーター針を完全に振り切ってしまうほどの成長速度と大きさだった。そしてその異常に発達した台風の皮をかぶった異常な雲の怪物はその進路をまずは東南アジアのジャカルタに進路を向けた。ジャカルタは今まで経験したことのないような猛烈な嵐の洗礼を受けた。それの状況は人々の好奇の目でSNSや動画投稿サイトに投稿されて世界中に拡散さていき、出された。しかし、その直後ジャカルタとの通信網が完全に途絶え、一切の連絡ができなくなった。そして、ジャカルタとの連絡が取れたのは嵐が別の方向に行った時だった。そこで世界中はあり得ないという声を一斉に噴出させた。

 ジャカルタは一面、白い氷に覆われ、外に出た人々は勿論、熱帯系の動植物は氷の彫像になるか、あるいは新しく形成された分厚い氷の下に埋まるかの二者択一を強いられてしまった。そして家の中にいた人々も、凍死をするかもし生き残っても低体温症や凍傷に陥ってしまったものばかりであった。それはあたかも一昔前の映画が現実のものになったと言っても過言がないほどの惨状であった。

 さらに科学者たちの予想外は続く。その嵐の成長速度はまさに異常なまでに大きく強くなり、それは地球上ではありえない、一言で言えば木星か土星の大赤飯の中で一番小さなサイズになろうかというところまで成長するとまで言われた。

 しかし科学者が悩ませたのその嵐の予想進路であった。その嵐は一見するとでたらめに動いているとしか思えないほどに移動していたのだ。いや正確には高気圧にそって移動しているのだが、勢力が全く衰えず、都市を襲ったかと思うと別方向に移動していくのだ。そしてその雲の怪物は通った後を凍り付かせて、都市部を次々に襲い、次々に氷に戸田佐々された死の街に変えていった。その結果、東南アジアをはじめとした国々は南極や北極の世界に早変わりしたのだった。


 俺がこの危険な任務に志願したのには理由があった。それは上海沖で氷の彫刻になった、妹の存在であった。妹は安上がりのクルーズ客船で船旅を楽しみ、その光景をSNSに投稿していた。そして俺との会話も電話では馬鹿にならないくらいに値段が跳ね上がるために、メールなどでやり取りしていた。そして妹との最後のやり取りと携帯端末でとらえた写真が彼女とも永遠の別れの手紙となった。俺の端末に送られた最後の言葉はこうだった。

『雪の女王に選ばれた』

 そして添付された巨大な雲の目の晴れ間。そしてその青空の下に次々と襲いかかってくる、冷却の空気。俺へ送られた直後に彼女の思考も魂もタンクウからの冷たい風で凍り付かせたと予測された。そして、俺が妹と再会したとき、彼女は冷凍されたマグロのような状態で自分達の前に運びだされた。それは苦悶に苦しむ者ではなく、まるで演劇をするかのような表情で液体窒素をかけられ固め抜かれたような状態になっていた。お袋は泣きじゃくり、親父がやり場ない怒りを壁にぶつけた。俺は妹がこんな状態になったことを激しく悔やみに悔やみきれなかった。そんな時だった。妹が通っていた大学院の研究チームが謎の台風のアプローチを計画していることをネットで知った。妹への弔いとこの異常な台風の形をした氷結の怪物の憎悪を胸に電話を研究室につないだ。電話の相手は驚いたようだが同時に狂喜乱舞する声が耳に届いた。どうやらこの命がけの任務に志願するものがほとんど見つからないか拒否られるかで、頭を抱える問題となっていたようだった。翌日、俺は朝一のバスで大学院に赴きこの異常な台風の観測グループと面会した。その人物は研究熱心な物から事態の器具を抱く者の二グループに分かれていたが共に謎の異常台風への解明問い目的で一致団結していた。最初、不安こそあったが、志願した以上逃げるわけにもいかず、かりそめの面接を受けた。

 飛行機は民間の飛行機を使うことになった。それは今では珍しいターボドロップ式のレシプロ四発機であった。それにさらなる補強と観測機器を載せて強力な観測機に早変わりした。現代の飛行機は軽量化による燃費改善のためにきょうどぉ低く見積もる傾向があったが今回は怪物に負けないためあえて軍用機以上の強化を施した。そして超低温にも耐えうる対策を施され、多少短めの氷結にも対応できるようにされた。

 そして、大学の教授をはじめ一〇人の専門家と大学院生は普通の飛行機には乗りなれているようではある。万一に備え遺書の記入と酔い止めの服用を進め、彼らもそれを同意した。

 しかし、それでもその効果はまるで無意味であった。彼等は死の覚悟は頭の中では理化していたが、それ以外の体と心がそれに伴っていなかったようで、飛行機酔いに苦しみ、紙袋は最後に食べた朝食と胃酸のブレンドされたものでパンパンに膨れ上がっていた。そんな様子を俺は理系の人間は頭ばかり使って体力がミイラに毛が生えた程度だからこんな状況ではひ弱だなと思った。


 風の中に突入して二〇分経った。相変わらず風は向かい風か横殴りの方向ばかり襲い掛かって、機体の振動を小刻みに揺らしていた。耳の中に備え付けられた三半規管が乗り物酔いのシグナルを脳に伝達して、それを吐き気という形になって襲い掛かるなら、今がその時だろう。普通の乗客は勿論のこと防衛組織の新人になりたての人間であるならば、口の中から、気持ち悪さを感じるところかもしれない。森脇も俺もこんな振動は訓練でしょっちゅうなため慣れてはいた。実際にさっきも言ったが、他の一〇人は、封鎖されたコックピットのドアの向こうから、『気持ちが悪い』もしくは『紙袋とってきて。』という小言を叫んでいた。特に一番の年上で妹が助手をしていた、俊世教授は飛行機恐怖症と閉所恐怖症と高所恐怖症の三重奏で飛行機に乗る前に食べた食事の逆流をして、搭載された機器を悪臭と胃酸まみれにしてしまった。それで生徒や職員に冷たい視線を向けられ、しかたがなくコックピットに引っ込んで来た。森脇はコックピットを汚さないのであればと紙袋代わりにビニールを渡してここにいることを認めた。

「あとどのくらい飛べば中心に着くのだ?」

 俊世教授は科学者として既にこの怪物が自分の許容範囲、もしくは限界点がすでに見えていることを口にした。それは俺達自身も同じであった。どこまで行っても度超え行っても見えるのは鼠色の塵や冷やされた白い雲をまとった風ばかり。その中には高密度に増やされたあられも混じっていた。雨雲レーダーも真っ赤に染まり、方位もコンパスや機首方位危機が使い物にならなくなれば、自分がどの方角にいるかなど全く分からないと叫びたくなるほどに、認識が分からなくなっていた。それほど、この雲は人の感覚を失う状態になっているのだ。

「いったいどこまで続くんだ?」

 俺も教授の気持ちと同調してそう毒ついた瞬間だった。第二エンジンの異常を示すランプが点灯して、ブザーが鳴り響いた。

「何だ、なにが起きたのだ?」

 慌てる教授をよそに俺達はすぐに原因の特定に急いだ。どうやらこの凄まじい嵐に耐久性を重視したエンジンでも負荷に耐えることができず、オーバーヒートの末に自爆を起こしたようだった。森脇は冷静に火災消火装置を作動させてエンジン火災を沈めにかかった。

「教授、すまないけど窓越しで火災が収まったか見てくれませんか?」

 教授は恐怖と気持ち悪さでしわだらけになった顔をしながらも心の中に残った勇気をぞうきんのように絞りだしコックピットのドアを開けた。開いたドアからは九人の人間が物珍しさと恐怖の叫び声の合唱をしていたところだった。教授はみんなをなだめすかせる声を掛けながら扉を閉めた。

「みんな、パニクッてるぞ?」

「仕方がないだろう。普通の人間なんだから。俺らだって叫び声をあげたいところなんだぞ」

 訓練で何度も経験とシュミレートをしてきた俺らにとって、エンジン火災への対策など朝飯前ではあった。普通の人なら火災が起きれば即墜落という直球丸出しの思考が襲うところだろう。そんなタフな心臓をと思考を俺達は持っていた。

二分ぐらいたった時、教授が戻ってきて安どの顔をして報告に来た。

「火災は収まったようだよ。でもなんかプロペラがぐらぐらして今にも外れそうな呑んだが」

「心配ない。まだエンジンは三発残ってる。少なくともこの嵐の中心につくまでは持つ翕はずです」

 教授をなだめすかせた。実際にエンジンが死んだくらいでは、今の飛行機は落ちたりはしない。最もそれはこの嵐ではなく普通に快晴の空であったらの話ではあるが。

 俺達三人は本来雷雲などを避けるために取り付けられた気象用レーダーを見つめた。気象用レーダーはこのような嵐で機体がダメージを受けるのを防ぐために緑から赤色に嵐を表示して搭乗員たちに伝えるレーダー装置である。今回はそれを逆に嵐の探知と突入に使い、自分の居場所の確認やこの嵐がどこまで続くのかなどに使っている。レーダーはどこを見ても、真っ赤に染まり、それは血桜のように画面を煌煌と照らしていた。森脇はそれを見てうんざりした表情で腰を伸ばす。

「もうそろそろ目に入るのだがな」

 教授はそうつぶやくのだが、どこをどう見たって激しいですよとレーダーが自己主張を繰り返していた。俺達パイロットもそれをうのみにして、レーダーがそう言ってるじゃないかと教授に訴えようとしたとき、不意に上のレーダー画面が黄色く表示し始めた。それはだんだんと緑に変わり最後には黒く、ここには何もないと僕らの目に訴えかけた。

 教授は安どの表情で外を見つめるが、俺達はそれをうのみにすることは出来なかった。この影が嵐の一番激しい所だという可能性がある。航空関係の人間が言うレーダー車道という現象である。本来は嵐の一番激しい所のはずなのに、レーダーは一番安全ですよと、嘘の情報をコックピットの人間に伝える現象である。レーダーを一〇〇%せんと信じ切った人間は嵐を避けようとその方向に向かうと、その何もなかったところはあっという間に真っ赤に示して、間違いでしたとコックピットに伝えてしまう。結果として楽な道を通るはずが、とんでもない道だったことで芋ずる式にミスや不幸が重なって墜落したということがある。

 俺はその時レーダーシャドウを疑ってレーダーを見つめていた。進めば進むほど安全であるとレーダーは知らせてくる。それは甘く危険な香りを醸し出していた。俺は一瞬迷いを覚えていたが、死んだ妹の事が瞼に浮かんだ。それは、いつもSNSではいつも笑顔で撮影する彼女ためにここまで来た。罠か晴れ空かは五分五分ではあったが、もう迷っている暇などなかった。俺は森脇に決意を口にした。

「毒を食らわば皿までだ」

 それを聞いた森脇は操縦桿をレーダーが示す黒い部分に進路を向けた。



 嵐の目の中に出ると、目の前には雲の壁がそびえ、周囲を円状にして回転していた。それは宮崎駿のアニメに出てくる雲の怪物が現実の世界に登場したと形容してもおかしくないくらいに現実離れしていた。過去、台風やハリケーンが作りだす風の怪物に抗い、その果てにある無風の楽園に向かって多くの飛行機が突入した。それは命を懸けた戦いだったと聞いている。今乗っている飛行機が何機目であるかはわからないが、そのおこぼれに入ったのは間違いなかった。

「きれいだな」

 俺は思わずつぶやいた。それほど風もなく美しい光景をまじかで見るなどと思わなかったからだ。

「そうだ、写メで撮って投稿しよう」

 俺は本来の目的やこの嵐に対する憎しみを忘れて思わず撮影を始めようとした。ふと、教授が何かを指さして注意を促した。

「なんだ、あの飛行機は?」

教授の言葉を耳にした俺はその指さす方行に凝視した。それは何かの飛行機のようだった。しかし、その飛行機は明らかに自分らが乗っている物と遥かに進んだものであった。

 その飛行機は全身黒ずくめのカーボン繊維のようなものでできていて、全欲が非常に長かったが、その主翼部分には太陽電池が張り巡らされていた。動力こそプロペラではあったが、太陽電池がつけていることを察するに電気であることは容易に想像できた。しかし、何より驚かせたのはその飛行機が無人であったことである。なぜわかったかというと前方の機首部分に窓が全く見当たらなかったからだ。いったいどうやって飛んでいるのかと不思議に思った。

「博士、あれを撮影してもらえる?」

「勿論、写真を撮るつもりさ」

 そういって教授がカメラを取ってこようとした時だった。

「そこまでにしてもらおう、教授」

 突然、森脇がどこから出したのか拳銃を右手に持って教授に向かって引き金を引いた。

教授は背中に穴をあけられそこから赤い液体がワインかトマトケチャップをかけるみたいに出てきた。思わず事態に気が付いた教授の教え子たちが駆け寄ってきた。

「森脇、これはどういうことだ?」

「悪いが加藤。今回の観測はここまでだ」

「どういうことだ!?」

「俺はな、お前達が勝手な行動をしないように政府から派遣された監視人兼口封じ役だ」

 俺はどういうことだと驚きを隠し切れない。まるでこの嵐が最初から人工的なものでしかもそれが最初っから政府が主導した兵器のような言い草であった。

「ま、まさか、この嵐は人工的なもので兵器運用されているのか?」

「それは想像に任せる」

 そういって今度は俺の腹に銃口を突きつけたコース変更の催促をし始めた。

「やっぱりそうだったか?」

 それは意識を朦朧とさせながらも起き上がろうとする教授であった。

「やっぱりってどういう事だ」

「この嵐は明らかに自然の法則を完全に無視してしまっている。さらに観測してみてわかったのだが、この風の成分は自然界ではありえないミクロサイズの原子が確認された。ナノマシンという機械の」

「ナノマシン?」

「ナノサイズの機械の総称です。本来は体の体内とかに使うものなのですが」

教授に変わって他の観測員が代わりに答えた。彼らによるとあの巨大航空機を中心に大量のナノマシンが成長を促し、更にそのナノマシンは本ら温められるはずの空気をそのまま冷やすために空気摩擦を冷やす作用があるという。

「さすが観測員。ここまで調べていたのならもうあんたらを生かしておくわけにはいかないな」

 そういうと森脇がレバーを引くと扉が突然締まり、再びコックピットとの間を遮断した。研究員は慌ててここを開けろと叫ぶが、その直後に乗り物酔いとは違う吐き気と苦しむ声が聞こえてきた。それは死の断末魔のように苦しむ声であった。それは死目前にして死を受け入れられない人間が、ある意味生きたいという悲鳴であった。

「森脇、おまえいったい何をやった」

「本当はこの手は使いたくなかったけどな、機内に毒ガスを仕掛けていた。秘密を知ったからには生かしておかない」

「いったい何のために」

「この自然界を制御できれば人類はタイプ0.5からタイプ1になるんだ」

そんな誇大妄想のために妹は氷の彫像にされたのだと思うと、はらわたが煮えくり返った。俺は怒りのあまり親友と思っていた男に殴り掛かった。森脇も負けまいと殴り合った。もともと軍隊格闘でもともに一,二を争うほどの実力だった俺達は三〇秒もしないうちに体中青あざだらけになり、二,三分もしないうちに血を吐くほどにまでなった。追い詰められた森脇は持っていた拳銃で首を絞める俺に向けて引き金を引いた。コックピットには硝煙の匂いと爆竹のこもったような音が反響した。俺は一瞬たじろぎ腹を見た。そこに博士が流したものと同じ液体が滴りだした。俺怒りはさらに爆発させ同期の首を絞めだした。森脇は舌を出し顔全体を紫にして、かすり声をあげながらよだれをたらして血管の脈内を弱くしていった。


 生まれて初めての殺人を終えた俺は、お腹を押さえながら、閉鎖されたドアのレバーを押して、開封してみた。中では最初に撃たれた教授を含む十体の死体が白目をむいての口を押さえつけながら、目を見開いていた。毒ガスの方は空気に触れて酸化か分解化を起こして無毒化されているようではあるが、そこまで一〇人が耐え抜くことができないようだった。もうここで、生きているのは自分だけであることは火を見るよりも明らかった。そしてその自分も、失血が大きくなって、いつ果てるかもしれぬ命に生きたいと思う感覚すら、起きなかった。

 コックピットに戻った俺は、薄れゆく意識の中で持っていた携帯端末で妹のアカウントでログインをした。そして、自分が乗る飛行機の下に見える巨大航空機を撮影した後、それを投稿した。アップロードの砂時計が消えたのを確認した。俺は機体を主翼の影になるように近づき、半永久的に供給されるエネルギーの源を遮った。航空機はバランスを右に傾けプロペラが回転止めると、巨大な翼はまるでそれが脆い材質であったかを証明したかのように真っ二つに折れた。そしてその片方が刃物のように機体を切り裂き、一瞬のうちに乗っていた死体を気概に飛び出させて行った。俺自身も例外ではなく、与圧された暖かい空気から北極や南極よりもはるかに冷たい冷気が襲ってきた。俺の体はコックピットからはじき出され、瞬間的冷えて固められる感覚を覚えていく。心臓の鼓動が急速に小さくなっていく。そして、筒状になった雲のトンネルは徐々に崩壊していき、風も弱まってきている。

 そして、俺の目に何かが見えた。それは雪の女神のような気がした。そして何となくであるが、妹の顔にそっくりな気がしたように見えた。そして優しい笑みをして俺を迎えに来た気がして仕方がなかった。それを最後に俺の思考は完全に凍り付き暗闇の中に消えていった。

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