第8話 所領が増えた
横田城
初陣で一番槍で敵将捕縛とまるでお話の主人公のような活躍をいきなり見せてしまったわけだ。
「では先の戦の論功を行う。まず大槌得守、そなた初陣でありながら一番槍を努め、挙げく一戸政明を捕え、甚だ功、大なり。よって千徳の地をそなたに預ける」
「ははぁ。ありがたく存じます」
まあ所領が増えるな。ということは仕事量も増えるわけだ参ったな。しかしそうなると領地替えで大槌が空いてしまう。
「続いて、水野工部大輔弥太郎。そなた大筒にて城門を破り、千徳城落城せしめた功、誠にあっぱれである。よって大槌をそなたに預けよう」
ああ弥太郎に任せるのか。うんまあ弥太郎なら大槌を任せてもいいだろう。
「殿、大変ありがたく存じます。ただ某は新しきものを作れればそれで良うございます故、所領は必要ございませぬ」
評定の間が静まり返る。俺も思わず黙ってしまった。いやいやいくら転生者といっても……若様もびっくりしているじゃないか。
「う、うむそうか。ではそなたの研究所の扶持を増やすこととしよう」
「ありがとうございます。某は引き続き物を作ることにて殿や若様をお支えいたしまする」
研究所への扶持が加増され、俺は千徳が加増という形になった。また、旧南部領の将たちをうまくまとめたとして小国彦十郎忠直に山田村が与えられた。
その後若様の私室に集まって話をする。
「所領を頂いても、領地管理などしていたら研究の邪魔ですので」
などと弥太郎が嘯いている。くそぅ俺もそう言えばよかった。いやもともと武士ではない弥太郎ならともかく俺がそういうのは難しいか。
そして弥太郎が大砲を使ったのが見れなかったのが、若様には残念だった様子。いま見なくても今後いくらでも見る機会はあるだろうに。
「ところで孫八郎……ではなかったな得守よ、そなた一番槍だったのか」
「工部大輔殿が大砲の音に敵も味方も腰を抜かしておりましたので。初陣で一番槍の名誉は実に簡単でございました」
見たこともない大砲の攻撃に目を白黒させていたわけだから、その隙を付けばたとえ赤子でも敵将を捕縛できたっだろう。
「しかし、弥太郎殿が所領を拒否されたのには驚きました。そういう考えもあるのかと、まさに青天の霹靂でございました。私も今から返上したいくらいです」
「それは遠洋航海を見据えたことか?」
「それもございます。が、一番はやはり面倒なのです」
「そうはいっても一定の地位にあるものはそれなりに書類仕事があるだろう?」
「船のためならいいのですが、所領関係までとなると厄介でございます」
いっそのこと所領と仕事を切り分けられればいいのだから。
「一度所領内の税はすべて主家に集めて、集中投資できるようにした方が良いのでは無いでしょうか?」
そうすれば俺の仕事がだいぶ楽になるし、港の整備に使える銭も増えるかもしれない。
「それは確かにそうだが、皆が納得せんだろう」
「まあそれはそう……ですな」
今はまだだな。今後航海を推めていって実績を積めば納得してくれるかもしれない。あとは何かいいタイミングが来れば領地返上してしまおう。
◇
大槌城
大槌に戻り政務を片付け、港湾整備と船の建造、そして航海の計画を立てていたある日遠野から早馬がやってきた。
「そんなに慌てて如何なさった」
「そ、それが斯波が攻め入るようだと!」
「なんだって!」
斯波かあ。南部亡き今はこのあたりで一番でかい勢力だったな。見た目の面積だけなら阿曽沼も大したもんだと思うけど何分米が取れないから人が少ない。
「それで殿や若様はなんて言っている?」
「待ち伏せにて一戦交える覚悟だとか」
「待ち伏せか。数の不利を埋めるにはそれしか無いか」
「それで大槌殿には浜通りを攻められぬよう備えをと」
むう、妥当ではあるが歯がゆいな。
「念の為なにかあったら若様だけでも連れて逃げられるよう支度はしておく」
逃げて再起を図れるものでもなかろうが、隷従するくらいなら逃げて自由に暮らして野垂れ死ぬってのも一興だろう。若様が受け入れてくれるかわからないけども。
「葛屋が一緒なのは?」
「は、若様からのお言いつけで食料を得てきてほしいと」
「なるほどな。まあ俺達が今できるのはそれくらいか。ところで葛屋よ、もし万一があったら俺は若様連れて蝦夷かどっかに逃げようと思うんだがお前さんはどうする?」
「そうですなあその時になったらと言いたいところですが、一緒に商いをやりませんか?」
「それもいいな。船で商いするってなれば面白そうだ」
前世でも貨物船に乗ってたしそっちのほうがいいかもしれん。
「まあ私としましては若様に全額賭けておりますので」
「商人が全額賭けるって怖いねえ」
それしか無いかもしれんがオールチップはずいぶんと豪気だな。
「若様のお知恵と工部大輔様の絡繰があれば必ずや勝てると思っておりますよ」
「ずいぶんと信頼したもんだな」
「ときには分の悪い賭けをするのも商いには必要でございます」
「なるほどな。俺には到底できそうもない仕事だな」
遠洋航海のほうがよほど分が悪い気はしたが多分気の所為だろう。
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