第6話 蝦夷に行ってきた

十勝沖 大槌得守


 現地民と遭遇したときは冷や汗ではあったが、我らの言葉がわかるホヌマが居たおかげで何事もなく村に案内され、長老等とやりとりすることが出来た。さらには脇差しに反物などの贈り物に気を良くしてくれて大量の鮭を手に入れた。


 続いて釧路へと向かうと丹頂鶴の群れに率いられて釧路川の河口に到着する。


 東に岬がありこの時期の風よけには悪くない。この時代の釧路にどれだけ人が住んでいるかはわからないが戦闘にならなければいいなと思うが、砦があると報告されると流石に緊張した。

 

 ここでは流石に言葉が通じなかったが、身振り手振りと気合いでなんとかコミュニケーションを取り、贈り物を見せることで集落に招かれた。生憎と霧により数日を釧路で過ごした。


「漸く晴れたか」


「やっと船が出せますなあ」


「積み込みは終わってるな?」


「へい!万事問題なしです」


「では世話になった。またきっとくるぞ」


 長老と挨拶を交わし集落を離れようとした時に声が掛かる。


「あのぅ済みません。あっしはここに残りたいのですが」


「構わんが、どうするのだ?」


「こちらの言葉を覚えるのと、我らの言葉を教えておこうかと思います」


「む、そうか。そういえばお前さん、春雄だったか。ここの者たちとずいぶん仲良くなっていたな」


「へい。ですのでここに残れば次皆様が来たときのお役に立つかと」


「それもそうだな。では春雄頼んだぞ。くれぐれも無理はしてくれるなよ」


「はは!お任せください」


 そうして春雄を一人置いて帰路につく。


 帰りも天候に恵まれて無事大槌に帰り着いた。わずか一ヶ月にも満たない短い航海ではあったが懐かしく思う。


「おう、帰ってきたか。無事そうだな」


「よう親父。無事もなにも土産もたんまりだぞ」


「鮭か」


「他にも毛皮をたくさんもらってきた。次の時には船を増やしたいね」


「船大工には俺から言っておこう。おまえは波江に顔を見せてやれ。毎日のように神仏に祈って居ったからその顔を見せて安心させてやれ」


 館に戻って母上に帰還を告げると「そうですか。何よりでした」で終わった。


 翌日、船員皆で荷を担いで笛吹峠を越えて遠野に入る。田植えも終わって稲が青々としている。


「いやあ海もいいがこういう田んぼを見るのも良いもんだな」


「全くですなぁ。大槌では米ができませんからもうやめてしまいましたしね」


「魚を取ったほうが早いからな」


 程なく横田城に到着すると俵や筵に包んだ鮭や鱈の干物や毛皮を庭において、殿や若様の御成を待つ。


「どうやら順調だったようだな」


「おかげさまで交易で得た産品をこちらに持ち寄るのに手間取りました」


 庭に置いた鮭や毛皮などを見せ、さらには明の服のような絹のものを差し出す。


「おお、これは立派な絹の服じゃな」


「この錦はクスリという川のそばにあります、モシリヤという集落の酋長から頂戴したものでございます」


 そういうと若様が「これくらいの絹が作れるようにしたい」とかいう。まあ蚕とかはよくわからんからそのあたりは若様に任せよう。


 その後は宴会をして皆出雑魚寝をし、翌朝井戸で顔を洗っていたら呼び出された。


「すまんな用があるのは俺じゃ無くて雪なんだ」


「雪殿が?」


 一体何だろう。


「ええ、まあ若様のお願いほど面倒じゃないわ」


 なら安心かな。まあ殿の依頼は船を作れとか湊を整備しろだとかだが、俺の目的とも合致しているので大変だが面倒では無いな。


「寒天を作って欲しいの」


「「寒天?」」


「ところてんは今の時代でも食べられているのだけれど、寒天はまだないの」


「ところてんから寒天ってどうやるんだ?」


 若様ナイスです。寒天の作り方なんて知らないから聞いてくれるの助かりますね。


「ところてんを凍らせて干して乾かせばできるわよ」


 へえ。そんな簡単なのか。


「ええとそれでその寒天を何に使うんで?」


 たしかお菓子とかには使ってたからそういうやつかなと思えば菌の培養に使うとかなんとか。それを使うと美味いことすれば大鋸屑で椎茸栽培が出来るようになるんだとか。椎茸ってそうやって作ってたのか知らんかった。


「まあ分かりました。ようは寒い時期にところてんを干してりゃいいわけですな。承知しました。作るってぇので思い出したんですが、時計はどうなってます?」


「もうすぐ出来ると聞いていたんだが」


 若様が一郎を呼びつけ聞いてみると試作品はあるってえので皆して研究所に見学に行く。


 すると蒸気機関の研究をしているのか弥太郎さんが苦闘している。ありゃあ船に乗せるのはまだまだ先になりそうだ。一郎に連れられて時計工房に入ると大きな柱時計みたいなものが置いてある。


「これが時計一号機です。振り子時計にしております」


 そう言って一郎が重りを話すとカチカチと小気味良い音が響きはじめる。


「でもこれじゃあ船には乗せられませんな」


 船の揺れで振り子がめちゃくちゃになってしまう。


「クロノメーターですね。なら動力はゼンマイにして……脱進機を少し調整して……なるべくシンプルなのがいいかな」


 一郎さんはなんだ前世は学校の先生だって言ってたが時計職人の方が肌に合ってたんだろうな。


「いずれ船団を組んで遠洋航海に出たいのですね」


「どの辺りまでだ?」


「北はカムチャッカ、南はマリアナ諸島、西は琉球あたりをまずは目指したいです」


 行けるならベーリング海を越えて北米、或いはオーストラリアあたりまでは行ってみたいね。

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