第4話 二十石積み船

大槌城 大槌孫八郎


 南部が攻めてくるかもしれないということで慌てて戦支度を進めていたのだが、なんと南部の本拠である三戸が大火に見舞われたとか。噂では地から火が吹き上がったというから多分若様がなにかしたのだと思う。


「とりあえず戦にはならずにすんだようだな」


「すわ戦か!となりまして船造りどころではございませんでしたからなあ」


 なんかしらんがとりあえず戦にならなくて済みそうなんで船の開発にリソースを突っ込める。


 とりあえずは帆掛け船を作ったのでもう少し大きく、二十石ほどを積み込める程度の船の試作を始める。と言っても今までの船を大きくしたようなものなのでこちらはそんなに難しくはない。そして本命は小型のスクーナーだ。竜骨と肋材を使った今までの和船にはない構造でこれの建造には時間がかかるだろう。


「しかしなんですか?この太い木を組み合わせるって家でも作るんですかい?」


「そんなもんだ。大きな船を作るなら骨を作ってから板を貼っていけば大きくもしやすくなる」


「そんなものですか?」


「魚と一緒だ。骨がしっかりしておれば身も大きくなる」


「あーなるほど。そう言われれば納得するような」


 とりあえず納得はしてもらったので早速山から木を切り出してくる。本当は乾かした方が良いのだろうけど、とりあえずの試作として乾かさずに角材を作って火で炙りながら曲げていく。


「へぇ、火で炙ると曲がるのか」


「まあこのあたりは細工とそう変わり有りませんな」


 そういうものかと感心しながら作業を眺める。しかし船が増えるとなれば木材をもっと有効活用できないともったいないな。弥太郎さん呼んで水車を作ってもらうか。


「それじゃあ船は任せる」


「あいよ。大将は大将の仕事やっててくれ」


 城に戻って弥太郎さんかもしくは製材用水車小屋を作れる者をよこしてもらうよう殿と孫四郎様に文を書く。


 いくら船を作ろうったって角材や板材がたくさん作れないんじゃあどうしようもない。まあそのあたりの細かい差配は若様やら弥太郎さんに任せるか。


 とりあえず縦帆の扱いに慣れさせるとして、麻をどうするか。あと米やら麦やらだな。年貢を考えるのとか面倒くせぇ。米も麦もどうせ計画通りに穫れねえんだから適当にしたいが後でバレても困るからなあ。さっさと海の仕事だけに専念できるようになりたいね。


 木が消えてしまった城山を見ながらそう思う。 

 船を作る、家を立てる、薪を燃やす、湊を整備するために杭を打つ。今は城山を伐採禁止にし、小槌川の南斜面から木材の切り出している。


 そろそろ暮れが迫ってきた頃に造船の進捗を見に船工場にやってきた。


「木は足りそうか?」


「まあ問題は無いでしょうな。いざとなれば大槌川の奥までいけばなんとかなりましょう」


「ならいいか。それより船は何時頃にはできそうか?」


「帆掛け船を大きくしたあの船はまああと十日もあれば進水出来るでしょう。ただこの一本太い骨を使う船はなかなか難しいですな」


 炙っては少し曲げてを繰り返すのだが、左右を同じように曲げなければいけないので中々難しいのだとか。


「まあ任せるしかないが、早めに頼むよ」


「無茶を言ってくださるねぇ」


「この大海原を何処までも行こうって言う無茶に較べれば可愛いものだろう?」


「そりゃまあそうかもしれませんがね、その無茶を叶える船を造れってのもなかなかの無茶だと俺ぁおもうんでさ」


「はっはっは!まあそれはオメエ等を信じているからこそだよ。できたら言ってくれ。若様に掛け合って美味い飯と酒をせしめてくるからよ」


「はあ、しゃあねぇなあ。じゃあ頑張らねえとなぁ!」


 棟梁が薄くなった頭を掻きながらそう言ってくれる。


 それから約束通り十日後に二十石積みの船ができ、御神イレを行いたいので来てくれと言ってきた。


「明後日は晦日なんだがな」


「おう、正月を迎えるのにこれほど良い日はねえだろ?」


「歳神様と舟神様は同じなのか?」


「さあ?おれは知らねぇが船乗りに取っちゃ船が家みたいなもんだろ?」


 それもそうだな。じゃあ神様を招き入れるのもなんらおかしくはないか。


「じゃあやるか!」


 近くの社で航海の無事を願い、正月に撒く予定だった餅を撒いて船を海に入れて軽く湾内を一周する。


「どうでぇ、良い船に仕上がったろう?」


「いむ、文句のつけようもないな!」


「がはは!あっちのでかい船も大船に乗った気で待っていてくれ」


「まだ骨しか見えないがな!」


 陸に戻って皆で盛大に祝って二日酔いの晦日に、正月の挨拶のため横田城へと向かった。

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