山のもの
夕暮れの山で、少女が一人佇んでいる。
鮮烈な朱と濃い影が山を染める刻限に、黒い犬を撫でながら鼻歌を歌っている。
足元にはオレンジ色のリュックが一つと、ビリビリに破れたハイキングウェアに、泥まみれのスニーカー。それらには真新しい血がこびりついており、もしこの現場を人に見られれば、何の言い訳も出来ない有様だ。
更にその近くには、赤いリュックと緑色のジャケット、グレーのパンツの切れ端が落ちている。それらは土にまみれて色がくすんでいるものの、ストックも傍に落ちているため、知る人が見れば登山客のものとわかる色と形をしていた。
「シロ」
【ごちそうさま】
「はい、よく出来ました」
ヒグマのような体躯の犬は、一つ舌舐めずりをすると常識的な大型犬のサイズまで縮んで少女の足元にお座りをした。
「ちゃんと忠告したのにねえ。夜雀は危険だって」
【ねー】
お座りしたまま小首を傾げて尻尾を振っている様は愛らしいが、その口元は幼児が滅茶苦茶に口紅を塗りたくったような紅がべったりとついている。
「川でお口と足洗ってから帰ろうね」
【はーい】
カチリと白い犬の首輪にリードをつけ、少女はその場を去った。
その背後では、小鳥がチッチッチッと高い声で歌い続けていた。
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