第58話 攻略開始

 ドローンカメラを追従させながらダンジョン内を走り回る。普通だったら体力温存のため、そして敵に音という情報を与えないようにするために歩いて探索するのが定石なのだろう。

 ただ俺は白崎たちと別れた後ひたすらにダンジョン内を走り回っていた。理由は単純。早く攻略したいからだ。

 いつもならクエストを気にして魔物を倒しながら攻略していたが、今はそのクエストも10階層に到着するまでは更新されない。

 そして俺の異能は恐ろしい事にクリアできない日数が経過する度にどんどん報酬のレアリティが下がっていく。

 そのクエストが表示された当時は最高級のレアリティまで上がっていたのに今では上から三つ目くらいまでレアリティが下がってしまっている。

 それもあって俺は早めに攻略を進めたかった。


『あれ? 他の人達はどうしたの?』

『まさかの単独行動ww』

『流石に集団行動中に顔隠しながらダンジョン攻略続けるのはしんどいからじゃない?』

『それなら仲良いシロリンとかと一緒でも良いのに』


 コメント欄では予想していたコメントが流れてくる。正直に言うとちょっと顰蹙買っちゃいそうだからな。

 どう言おうか。まあ顔隠しながら集団行動しつづけるのが困難だからっていうのも理由の一つだしそれでいっか。


「皆様コメントありがとうございます。私が単独行動している理由は仰る通り、私が顔を隠しながら集団行動を数日間するというのが難しいというものと二手に分かれた方が効率が良いという二つの観点から私とそれ以外の皆さんで分かれました」


『まあそうだよな』

『え~決闘で戦った沈黙の王との連携とか見たかったのに~』

『ジョーカーは正直単独攻略しているのが見たい俺にとって良采配』

『そもそもジョーカーは単独でボス撃破できる唯一の探索者だし実際そう分けるのが一番いい気はする』


 それから流れていくコメントに答えながらダンジョン内を走っていく。時折現れる魔物はフルシカトしながら。

 本来なら追いかけてきた魔物を放っておくと前からやってきた新しい魔物と挟まれて面倒な事になるからちゃんと倒しながら攻略した方が良いんだろうな。

 俺は雑だからいつも潜ってた『挑戦者の洞窟』の時と同じように走りで振り切るぜ。


「しかし大きなダンジョンですね」


 今まで潜ってきたダンジョンの中で圧倒的な広さを持つこのダンジョン。流石は神の声が試練と称するだけはある。

 試練にしてはちょっと鬼畜過ぎない?って思う。


『そういえばジョーカー。イグナイトはもう9階層だぞ』

『三人体制になってからめちゃ攻略早くなったよな、イグナイト』


 三人体制? そういえば配信で見たな。男の人と女の人が一人ずつ。

 ていうか結局手こずってた6階層のボスは突破したらしい。


『あのドリームチームすげえよな。実質1位と4位と6位の全員ナンバーズっていう』

『それならこっちだってそうだろ。沈黙の王も砲台もあるんだし』

『ていうかジョーカーは何位なんだよ』

『知らねえ。ランキングに載ってる誰かなんだろうけど』


 沈黙の王は西園寺さんの事で砲台は天院なぎささんの事だ。

 まあ向こうみたいにそのランク帯が連携してるわけじゃないから見劣りするんだろう。

 イグナイトっていう最強の矛、そしてそれらを支えるのに十分すぎるくらいの強者である二人の従者。


 画的には向こうの方が良い。でも俺は思うんだ。特に天院さんについてだけど。

 向こうの人達はダンジョンに通い続けてあのランキングを維持している。

 でも天院さんは最近協会での書類仕事ばかりでダンジョンに殆ど赴かずに5位とかいう化け物。

 多分だけどあの人はちゃめちゃに強いぞ。


「まあまあ落ち着いてください皆様。向こうの配信に負けないSHOWをお見せしてあげますから」


 取り敢えずコメント的にボス魔物はイグナイト達によって駆逐されてる筈。

 それなら俺たちの前に現れる事はない。その筈であった。


 突如として右方から凄まじい衝撃音が聞こえ、それと同時にビリビリと空間が震える。


『ジョーカー。多分ボスが現れたわ』


 そしてシロリンからそんな連絡が入る。おかしいな。ボスはイグナイトが既に倒している筈なのに。


「向かいます。皆さんは転移石ですぐにその場から退避してください」


 おかしい。一度倒されたらボスはもう二度と出現しない筈。

 実際イグナイトの配信でも、今回の俺達の遠征でもそうだった。

 今日突然変わったとでも言うのか?

 そういえばあの時も、番人の時もそうだった。それまでは何もしなければ襲ってくる事はなかったのにあの日急に動き出した。


「まさか……な」


 やたらと神しか知り得ないような情報を与えてくる俺の異能が頭に過ぎりながら俺は音のした方へと走り出すのであった。

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