第56話 要塞
「任せました」
「承知いたしました」
五階層に到着し、少しして天院さんが探索者協会から派遣されてきた男性の職員にそう声を掛けると、その人が俺達の前まで出てきて地面に手を当てる。
「はあっ!」
その男性が力を込めた瞬間、次から次へと何層にも及ぶ壁が広範囲にわたって形成されていく。
「彼、草壁の異能は『秘密基地』。異能によって地面から鉱物等をコピーしてそれを使って建造物を造ることができます。ただ、力を使い過ぎるとダウンしてしまいますので気を付けて調整しないと……」
「あ、もう無理……」
天院さんが説明を終える前に草壁さんがその場で崩れ落ちる。何てタイミングで倒れてんだよ。
因みに今は配信を切っている。元々の約束としてダンジョン攻略風景だけなら配信しても良いけど、こういう探索者協会お抱えの能力者の中には秘匿されている技術力もあるため配信しないでほしいと言われているからだ。
まあ確かにこんなにすごい異能、他の企業が欲しがらない訳が無いよな。
今でこそギャグ漫画みたいなタイミングで倒れて情けない感じになってるけど、この短時間で一つの大きな要塞のようなものが出来かけている。
こんなの建築業界の勢力図崩壊すんだろ。
「……言った傍から倒れてしまいましたね。すみません。彼はステータス数値がそれほど高い訳ではありませんので」
「なるほど、彼がちゃんと活動できるように殲滅部隊が必要なのか」
「それもありますが、大きな理由はやはり安全地帯の創出ですね。どれほどの規模か分からない未知のダンジョンを攻略するには中継地点が必要だと思いますので」
俺は転移石があるから中継地点は必要ないが、転移石が無い人達は一階層からぶっ続けで攻略するか、力が尽きたらいったん帰らないといけないもんな。
ていうかそんなに有用なアイテムを報酬で貰えるってあん時の俺、大分ツイてたんだな。
……そういやあれから殆どクエストの声聞いてないけど元気かな、あの声。そういう概念があるのか知らないけど。
「まあ一応、殆んどは出来ているみたいですのでここからは中でお話ししましょうか」
そうして俺達は草壁さんを背負う天院さんの後に続き、目の前に聳え立つ要塞へと足を踏み入れるのであった。
♢
「すごいわね」
いつもは冷静な白崎が思わずそうこぼしてしまうのは無理もない。ただ外側だけを建造したのかと思えば、どこから製造したのか絨毯やら照明器具などが飾り付けられていたのである。
流石に電気が供給されていないためか、明かりはついていないがそれでもかなりの装飾が施されている。
「彼は以前にコピーした素材であれば記憶することができますのでそれで造り出したのでしょう……と言いますか装飾にこだわったから倒れたのですね。倒れるのが早かったので少々おかしいなとは思っておりましたが」
あー、そこはプロ魂みたいなもんがあるのか。なるほどね~、この階段とかやけにディティール残ったデザインしてるよな~。そこの壁とかも。
もしかしてこんなにこだわらなかったら外装は完成していたんじゃ……。
「ひとまず先行部隊の部屋と殲滅部隊の部屋は用意させていただいておりますので、一度中を見ていただいた後、再度このエントランスに集合していただいてもよろしいでしょうか、ジョーカーさん」
「承知いたしました」
一応、俺が先行部隊のリーダーになっているから聞いてきたのだろう。俺はそれに頷くと、先行部隊の部屋として案内された部屋へと向かう。
「ここの突き当りの部屋が先行部隊の部屋兼会議室となっております。ダンジョン攻略中は自由にこちらの部屋をお使いください」
「分かりました。ありがとうございます」
部屋の前で天院さんに別れを告げると早速先行部隊の部屋の扉を開く。
そして飛び込んできた景色に驚愕し思わず立ち止まってしまい目を見張る。
「おいおい、デカすぎんじゃねえか?」
「うん? こんなもんだろう?」
「うるせえ、ここで金持ちアピールしてくんじゃねえよ、道玄」
殲滅部隊のおじさんたち、西園寺さんと斬月さんがそんな感想を述べながら中に入っていく。
俺はもちろん、斬月さんの反応と同じだ。部屋があまりにも広すぎる。
正直、広くて15畳ぐらいかなとか思ってたらまさかのその倍以上の大きさがあって困惑している。
そんな大きさの部屋の手前の方には会議が出来るような長机と人数分の椅子があり、その奥の方にはまた人数分だけ扉がある。
もしかしてあの先、個人の部屋になってんじゃねえか? やばくね?
「ふふ、流石のジョーカーさんも驚いたかい?」
「これは少々驚かされましたね。まさかこれほどとは」
最近かなり親しくなった龍牙さんに対してジョーカーモードで話すの、なんか恥ずかしいなとかそんな事どうでも良くなるくらいには目の前の景色に圧倒されていた。
こんなでけえ部屋、初めて見たぞ。
「リーダーさん。呆けていないで準備しておいた方が良いと思うわよ」
「失礼。見慣れないほど豪華でしたのでつい」
「ハッ、天下のジョーカー様も感性はまだまだ庶民みてえだな!」
「道玄。庶民じゃなくとも普通は驚くぜ、これは」
「そうか? 俺は驚かねえけどな」
「お前は異常だからだよ」
おっさんたちの言い合いをよそに俺はアイテムボックスの中からとある石を取り出し、眺める。
うん、やっぱり何も反応しないな。
「そろそろエントランスに向かいましょうか。天院さんが待っていらっしゃいますので」
先行部隊に与えられた豪勢な部屋を少しの間堪能すると、俺達は集合場所であるエントランスへと向かうのであった。
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