第53話 決闘

 打ち出された光線は音を置き去りにするほどの速度で西園寺さんへと迫っていく。しかしてそれを迎え撃つようにして刀を構えるとゆっくりと振るう。


「絶対領域」


 直後、展開された透明なドーム。迷わず振るわれた刀は遠く離れている。本来ならば届くはずのない距離であろう。しかして大いなる斬撃となって光線へと迫る。

 これが西園寺さんの異能「絶対領域」だ。ドーム内であれば任意の場所へと斬撃を送り込むことができるっていうやつ。


「俺の領域に入ったもんに斬れねえもんはねえ」

「それはどうでしょう?」


 ドーム内でせめぎ合う二つの大きな力。正直その程度で俺の攻撃を防げるとは思えない。

 

「なっ!?」


 そして思い描いていた通り、光線は斬撃に打ち勝ち、見事に西園寺さんの下へと迫っていく。

 西園寺さんは驚いた顔をしたものの軽くその場からジャンプして攻撃を避ける。


「なんだその力は? 俺の斬撃は防御力なんて関係なく何でも斬り飛ばせるはずだ。なのに何故斬れねえ?」

「さあ? ステータス数値の差でしょうか?」

「それこそあり得ねえ。ランキングにも乗ってねえお前が俺よりも強いわけがない」


 そう言うと今度は西園寺さんの方からこちらへと迫ってくる。流石に体を斬り刻まれることは無いだろうが、ドームに体が入った瞬間の攻撃を俺が耐え切れるのかは分からない。

 そのため、俺はドームに入らぬよう、十分に距離を取るために西園寺さんから離れ、リボルバーを放つ。


「どうした? 怖気付いたか?」

「まんまと敵の土俵の上に乗る訳がないでしょう?」


 俺の攻撃をかわしながら西園寺さんが挑発してくる。こうも軽々と避けられてしまうとどうにも有効だが与えられないな。

 そういえば俺の敵はいつも的がデカい魔物ばっかりだった。こうして対人間ともなるとリボルバーはあんまり向いてないのかもしれないな。


『ジョーカー、逃げてばっかりじゃない?』

『相手の能力が能力だけに距離を取って戦うしかないだろ』

『いやでもこれじゃ張り合いねえな~』


 ちらりと配信のコメントが目に入る。だよな~、このままじゃただのスタミナ勝負になる。

 こんな大舞台を用意してもらって、大々的にアピールしといて蓋を開けてみりゃ逃げながら銃を撃つだけ。

 流石にこんな試合は見せられねえか。


 そこまで考えると俺は逃げていた足を止め、逆に迫ってくる西園寺さんの方へと走り出す。


「おいおい、どういうつもりだ!?」

「このままじゃあまりにもshowとして不適切だと思いましたのでね」


 なるほど、天院さんが言ってた「入らざるを得なくなる」ってのはこういう事か。

 俺が決闘の見栄えを気にするのを見越しての発言だったとするならあまりにも的確過ぎる。


 即座に飛んでくる複数の斬撃。常人であれば気が付いたときには体を斬りつけられている、そんな刹那の間。

 俺はアイテムボックスの中から主神の槍を取り出すと、槍先を薙刀の形に変形させてそれらの斬撃を打ち払う。


「防御が出来ないのなら攻撃して消滅させれば良いだけです」

「ふん、小賢しい」


 そうして会場のど真ん中で主神の槍と刀が激突する。両者が纏う衝撃の波は交差した瞬間に爆発的なエネルギーを持って周囲へと伝播していく。


「凄いですね、迫力が。相変わらず無茶をします」


 相変わらずって言いたいのはこっちの方だよ。どの世界に平熱系実況者なんて居るんだ!


「ほう、驚いた。まさかこれほどまでの実力を備えておるとは。隠居していたとはいえ俺の斬撃を真っ向から受けられたのは久方ぶりだ」


 土煙の中から姿を現した一人の志士がこちらを見据えながらそう呟く。

 

「だがよぉ、油断してねえかい? ここはまだ俺の領域だぜ?」


 刹那、俺の視界が斬撃で埋め尽くされる。もしかして斬撃を仕込んでおくことも出来るのか?

 ていうかそれを俺が気付かない間に成し遂げたってのも驚きだ。流石は剣の達人といったところか。


「死ねえええええ」


 おいおい、このおっさん、本気で殺しにきてねえか? 

 咄嗟に前方へとリボルバーを放ち、突破口を作り出すと主神の槍で斬撃を捌きながら西園寺さんの下へと駆け出す。

 

「……少し当たりましたか」


 回避しきれずに斬撃が掠った箇所が少し痛む。一応、隠密者の装束で防御しているため傷は無いが、直撃すれば一溜まりもないであろうことは予想できる。

 

「まだ無謀にも突っ込んでくるか。それが慢心であると先人が教えてやらねばならぬな、若造よ!」


 剣と槍が交差する度に観客席は湧き、シロリンは一言呟く。

 無数の斬撃が襲い来るこの空間での唯一の打開策は術者本人の近くに常にいることである。


 いくら異能を使っている本人といえど、その力は斬撃を空間的に移動させるまでであり、斬撃そのものは能力者本人にもダメージを与える。

 したがって自身を攻撃しない様に考えるかつ俺の攻撃を捌かなければならないという状況により必然的に斬撃数が減少するのである。


「せぇい!」


 大振りに振るわれた刀が俺の懐に鋭く斬りこまれる。

 それを躱すために身を捩った先には領域から繰り出された斬撃群である。

 無防備に放り出された俺の体はそれの餌食となってジ・エンド……誰もがそう思ったことだろう。


「It's show time♪」


 全身の力を込めたリボルバーを斬撃の方へと向ける。銃口の先には西園寺さんの姿は無い。

 つまり思う存分、力を発揮してもよいという事である。


「Ready for it?」


 刹那、リボルバーから放たれたエネルギーの塊は襲い来る斬撃を一つ残らず消し飛ばしていく。

 そんな圧倒的な力は、西園寺さんが展開した絶対領域に激突し……そのまま消滅させた。


「は?」


 本来であれば起こりようのない事である。触れることのできない半透明のドームなど物理的に消すのは不可能だから。

 しかしそれは圧倒的なステータス数値によって可能になった。

 不可能を可能にする……まさにショーである。


「この武器は特別仕様でしてね。私のステータス数値をそのまま威力に乗せてくれるのです。そして……」

「あぁ?」


 瞬間、俺は自身の出せる最高速で西園寺さんの背後へと回ると、主神の槍を構える。


「私のステータス数値は2億を超えます」

「……かっはっ」


 そして刃が付いていない方で背後から西園寺さんを突く。虚を突かれた西園寺さんはそのまま抵抗することなく、その場に倒れ伏すのであった。

 しばらく待って西園寺さんが立ち上がれないことを確認すると、シロリンに向かって手を挙げる。


「勝者はジョーカーです」


 淡白に告げられた勝者宣言はそれとは対照的な会場がはち割れんほどの大きな歓声を導く。


『すげえええええ!』

『ジョーカーと沈黙の王はここまで差があるのか』

『強すぎ! マジ、ジョーカー追ってて正解だぜ!』


 コメント欄も会場も異様な盛り上がりを見せながらその決闘は終焉を迎えるのであった。

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