第52話 決闘開始

『皆さん、こんにちは。シロリンです。まあ言ってしまえば前座ですね、前座。とはいえ命を助けていただいたジョーカーさんのために今日は精一杯歌おうと思います』


 そんな会場の様子を部屋に設置されているモニターで眺める。あいつ、はっきり前座って言いやがったな。

 てか俺もせっかくなら生で見たかったな。


「急なお願いでしたのにシロリンさんには快く引き受けていただいて有難いです。西園寺さんは試合だけを行うつもりだったみたいですけど」

「まあ私もそう思っておりましたね。彼女が出演するのは今日初めて知りましたし」


 何故だか俺の部屋に居る天院さんとそう言葉を交わす。探索者同士の戦いというものはこれまでそんなに開催されるようなものではなかった。

 だからこそ会場を温めてもらうという役割を絶対的に果たしてくれるシロリンにお願いをしたという事なのだろう。

 まあ雰囲気をやたら大事にしていたあのおっさんがそれを良しとしているのかは謎だが。


「結果的に西園寺さんもすごく喜んでいらっしゃったので結果オーライですね」

「ほう? そうなのですか? 意外です」

「私もまさかあそこまではまるとは思いませんでしたね。売店でシロリンのグッズの在庫が余ってないか聞かれてましたよ」


 グッズも買うぐらいだと!? おっさん、一丁前に女子高生にはまりやがって。


「それはそうと今の曲がシロリンさんのラスト曲なのでそろそろジョーカーさんの出番ですかね」

「そうですか。では少し準備を始めましょうか」


 天院さんにそう言われた俺はアイテムボックスの中からリボルバーを取り出す。


「西園寺殿は近づかない方が良いのですよね?」

「……あまりどちらかに与する発言をするのは良くないのですが今回は西園寺さんが一方的に仕掛けたので仕方ありませんね。近づかない方が良いのはもちろんです。ただ、とは思いますよ?」

「……近付かざるを得なくなる?」


 それ以上は何も発さずにこちらに微笑みかけてくる天院さん。おそらくこれ以上の情報を彼女の口から聞くことはできないだろう。

 

「取り敢えず行きますか」

「はい! ではご案内いたしますね?」


 天院さんに連れられたまま俺は部屋の外に出る。さっき言ってた近付かざるを得なくなるってどういう意味なんだろう?

 例えば西園寺さんが途轍もなく早くてその半円内部から外に一生出られないという事を言っている可能性。

 あるいは領域が広すぎて会場内部では常に半円の内部に居ざるを得ないという可能性。


 後者に関して言うとこれほどデカい会場を覆いつくすほどの能力範囲を誇るだなんてトンデモないチートっぷりである。


「お、怖気づかずに来たか」


 ちょうどステージへの入り口に到着した時、聞き覚えのある声が耳を撫でる。見なくとも誰かはわかる。


「まあ怖気付く要因がありませんからね」

「ほう、言うじゃねえか」


 ニヤニヤしながらこちらを見つめてくる大男。喧嘩を売られたあの時の雰囲気とは違い、あの時には感じられなかった大人の余裕が醸し出されている。

 こいつ、もしかして俺の事を復活の前座にしようとしてわざと喧嘩吹っ掛けてきたんじゃねえだろうな?

 妙に決闘の準備が手っ取り早かったことも相まって余計に疑念が深まっていく。


 まあいいや。カメラ回そう。


「天院さん、そろそろ配信しても大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫ですよ」


 天院さんに確認を取ると、俺はドローンカメラを宙に浮かべて配信を始める。

 元々、この決闘に俺の利益は無い。そのため、事前にカメラを回してもよいか確認を取っていたのである。


「ふん、そんな俗物に気を取られていて俺と勝負できんのかい?」

「さあ、それは是非ショーで確認していただきましょうか」


 その言葉と同時に扉を開くとそこに広がっていたのは大いなる人の海である。体育館の壇上に立つのとは比べ物にならないほどの注目が俺と隣のおっさんへと降りそそぐ。

 眩い光に目を細めながらゆっくりと会場の真ん中へと歩いていく。観客席は何かの異能なのか、戦闘の余波が届かない様に薄いシールドのようなもので覆われている。

 それでも感じる人の視線、そして怒号にも近いほど大きな歓声は背筋を奮い立たせてくる。


「さて、入場してまいりました。今回の目玉である西園寺道玄さん、そしてジョーカーさんです」


 白崎、いやシロリンの言葉に更に一層観客の声が大きく響き渡ってくる。ていうかお前、まさか実況もするのか?


「おいおいジョーカーなんて初めて見たぜ。あんな感じなのかよ」

「ジョーカー様ー! こっち向いて~」


 流石にこれほど注目を浴びれば隠密者の装束の効果は意味がないらしい。ジョーカーの名を呼ぶ声がちらほら聞こえてくる。


「ふん、人気者だな」

「それはお互い様でしょう?」


 俺の名前を呼ぶ声は多いが、一方でおっさんの名前を呼ぶ人もそこそこ多い。あまりメディアに露出してなかった中、復帰一発目でこれだけの声援を受けるのは中々だろう。


「両者、位置についてください」


 シロリンに言われて俺と西園寺さんはそれぞれ真ん中を境目にして反対側に立つ。そして俺はアイテムボックスの中からリボルバーを、西園寺さんは腰に差していた刀を取り出し、構える。


「それでは皆様お待たせいたしました! 旧世代の王、西園寺道玄VS新世代の王、ジョーカーの試合を始めます! はじめ!」


 シロリンの掛け声とともに俺はリボルバーに力を籠める。


「Let's show time♪」


 そして打ち放たれた極大のレーザーによって戦いの火蓋が切られるのであった。

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