第51話 会場入り
「さてと、着替えるか」
とあるダンジョンの端っこの方にやってきた俺はジョーカーの姿へと着替える。
今日は決闘の日だ。それに備えて体を慣らすために俺が元々ずっと潜っていたあのダンジョンへと来ていたのである。
ていうか以前と違って、上層部の方に結構な数の探索者が居てちょっとビックリした。来ない間に変わったもんだな、ここも。
まあ相変わらず最深層の方には誰も居ないままだけど。
「そろそろ行くか」
こうして粗方体を動かした俺は会場へと向かうのであった。
♢
「おいおい、すっげえ数だな」
会場に続く道を隠密者の装束の力を存分に発揮させながら練り歩いているが、すれ違う人皆、俺や西園寺さんの話題で持ちきりである。
二日しかチケット販売してないのにこんなに集客できんのかよ。あのおっさんの影響力すげえな。
「見て見て~、これジョーカーのペンライト!」
「へ~、赤色なんだ~」
「このボタンで色変えられるんだって」
どうやら俺の知らないところでジョーカーのグッズが売られているらしい。いやホントにどんだけ爆速でグッズ作れてんだよ。
そういう異能の持ち主が居るのか? 『グッズ大量生産』みたいな。
「ここから入るのか」
関係者用入り口を通り抜けて歩いていく。始まるまでまだ後1時間くらいはあるか。ていうか会場に入ったのは良いとしてどこに行けばいいんだ?
「お待ちしておりました、ジョーカーさん」
どこに行けば良いのかと俺が辺りをウロウロしているとそんな声が聞こえてくる。振り返るとそこに居たのは天院さんであった。
「どうしてあなたが?」
「実は探索者協会も今回のイベントに協力しておりまして。どうぞ、こちらへ」
天院さんに言われて後に続く。俺の素性が知れ渡るのを阻止してくれているのか、誰ともすれ違わないまま『ジョーカー殿』と書かれた部屋の前に辿り着く。
そしてそれはもうでかでかと名前が書かれている部屋を前にして、先程の配慮のように感じた行動はすべて偶然であったことを察する。
「それとシロリンさんがお訪ねになっておりますけど」
「あ、では私の部屋まで呼んでおいてください」
「承知しました。それでは」
そうして天院さんが部屋から出て行ったの見送ると部屋に置かれているパイプ椅子に座り、アイテムボックスの中から先日武器屋でもらった石を取り出す。
「こいつ、本当に転移石なのかな?」
転移石だとすれば探索者協会で言っていた作戦で、俺が配属されない方の部隊に渡せば両方の部隊で転移が使えて便利になるんだけどな。
まあでも見た目が似てるだけだし、正直こいつが転移石になるのかも定かではないし。考えるだけ無駄なのか?
「てか暇だな……そういや“あいつ”は何してんだろ?」
暇な時間が出来た俺は携帯を取り出し、とある人物の配信を開く。
「あれ? 三人になってるじゃん」
とある人物というのはイグナイトの事。既に4000万人を超える超大型配信者となったイグナイトの配信には見たことのない人物が二名写っている。
前まで一人で攻略してたよな? 記事でイグナイトは一人でしか行動しないとか書いてたのに。
流石のイグナイトもあのダンジョンは一人じゃきついのかな?
配信を開いたまま、「イグナイト 新しいダンジョン 攻略階数」で検索を掛ける。
「ゲッ、もう5階層までいってんのかよ」
最近まで忙しくてあれから殆ど攻略できていないため、かなりの遅れをとってしまっているみたいだ。
何かDMとかでイグナイトに煽られてるぞとか言われてたのはこれが原因だったのか。
あ、今配信でカメラに指さしながら何か言ってる。自意識過剰とかじゃなくて絶対俺に向けて言ってんだろ。
翻訳してみよ。
『おいそこ邪魔だ! どけカメラ! 俺のが拳がうなるぜピーナッツ!』
全然俺のこと言ってなかった。配信してるくせにカメラに向かって邪魔とか言う訳ないじゃん、普通。予想できねえよその変化球は。あと最後の方の言葉、配信サイト特有の翻訳バグ起こってるし。
あ、翻訳がバグってるんだったらもしかして本当は俺の事を言っているのでは……いや、それはねえな。
「おーい、入るよー」
俺がイグナイトの配信を見始めてから五分程度経過した頃、白い派手なドレスに身を包んだ白崎が俺の部屋にやってくる。
「よっ……ってなんだその恰好?」
「何か決闘始まる前に歌ってくれって言われて」
「え? シロリンって何か曲出してたっけ?」
「……見てくれてないの?」
あ、やべ。
「いやいやいや、そうじゃなくてあれね!? どの曲を歌うんだろうって奴ね!?」
「……一曲しか出してないんだけど」
「詰んだよね」
「それを口に出しちゃったら駄目なんだよ」
二重に失敗してしまったらしい。とはいえ、MVでも聞いてないシロリンの歌声を生で聞けるというのは意外と楽しみなのかもしれない。
「そういえばここに来る時、向井君と会ったよ」
「そういやあいつも観に来るって言ってたな。後で会いに行くか」
「その姿で?」
「……電話にするか。ていうか歌うんだったら白崎も部屋あるんじゃないのか?」
「あるけど暇だったから。出番まで1時間くらいあるし」
そう言うと白崎は俺の向かいにある椅子に座り、机の上に置いてあるペットボトルのジュースを飲み始める。
「お前、声出しとかしとかなくて良いのかよ」
「あなたが来るまでに散々リハーサルしてたのよ」
いや何で主役じゃない奴がリハーサルして主役はリハーサルしてないんだよ。
普通にシロリンの生歌とか初だし、そっちの方が盛り上がるんじゃねえか?
そんな事を考えてより一層緊張感を増しながら本番を待つのであった。
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