第50話 巨大な試し斬り人形

「なんだか変なことになっちまったなぁ」


 トントンッと肩に剣の柄を当てながら目の前にそびえたつ巨大人形を見やる。

 因みに今肩を叩いている剣は店主から貸してもらった剣だ。何でも特級探索者として表彰されている俺を見てぜひともこの剣を使ってほしいと取っておいてくれたらしい。

 そんなに強そうには見えないけど、俺のために置いておいてくれたと聞いたらやるしかねえ。


「これって斬っちまっても賠償金とかならない?」

「大丈夫ですよ。あ、いえ斬り倒せないとかそう言いたいんじゃなくてですね、どれほどのダメージを与えられるかが見たくてですね」


 そう言う店主の顔はどこか自信ありげだ。多分よっぽどの猛者でも斬り倒せなかったのだろう。

 まあちょっと試されているみたいで嫌だけど、タダで店頭に出してない武器をくれるっていうなら儲けモンだな。


「なんだったら斬り倒せたらそれ全部無料で良いですよ」

「え、向井のも?」


 そう聞くと店主はにやりと笑みを浮かべ縦に首を振る。


「そりゃあ良いな」

「押出、頑張ってこい! 俺のために!」

「おうよ! もし斬り倒せたら高級ホテルの飯奢ってくれよ」

「それじゃ今無料になる意味がねえじゃねえか」


 剣を柄から取り出す。黒剣? だが、どこかブルー味の光沢がある。

 さっき見てた剣みたいな特別な効果は今のところ感じられない。ただ明らかに軽い。何なら柄よりも軽い。


「へえ、これは振りやすそうだな」


 一振り、二振りしてみると地面に少し傷が入る。あ、これ弁償とかにならない? 黙っとこ。


「さてと、やってみますか」


 力強く剣を握りしめる。リボルバーに力を籠めるのと同じ要領で剣にステータスを乗せようとしてみる。

 うん? これリボルバーと同じ感じで自分のステータス数値に従って威力が増していく仕様だな。

 これでリボルバーみたいな力を使えたら正直買いだぞ。あ、もう貰えるんだった。


「それ打っちまって大丈夫か?」


 青白い光が剣から漏れ出し、全身を覆いつくすほどにまで大きく膨れ上がっていく。

 光の粒子が試し斬り場を飛び交っていく。


「ちょ店主さん、これって本当に大丈夫なのか!? 押出、もう何も聞いてねえぞ」

「いや、大丈夫……なはずなのですが」


 周囲に飛び交ったすべての力を一つに集中させ、一気に剣を振るい放つ。

 刹那、青白い光の粒子を纏った斬撃が巨大人形に食い込んでいく。

 巨大人形に剣が刺さった瞬間、途端に剣へと宿した力が少しずつ霧散していくのを感じ取る。

 なるほどな。こういう作用を施してたから向井の炎が消されてたのか。


 だがこの程度なら俺の力を完全に消し去ることはできない。


 バキンッという激しい音が鳴り、一気に手応えがなくなると止まることを知らず、勢いよく剣が振りぬかれる。

 そうして有り余った力はそのまま武器屋の壁へと衝突し、深く大きな斬撃の跡を残す。


「あ、やっべ」


 やり過ぎた、そう思うももう遅い。深々と切り刻まれた店の壁を見て俺はゆっくりと剣を柄に収める。


「う、嘘だろ。あの巨大人形が……真っ二つに……西園寺さんでも無理だったのに」


 恐る恐る店主の方を振り返ると、店に付いた大きな傷跡よりも別の事が気になっているようだ。

 ていうか西園寺さんって言ったか? あのおっさんも確かそんな名前だったよな?

 よし、取り敢えずこうなったら店主さんが気付く前にさっさと帰ろう。


「店主さん、ありがとうございました! これ、置いていきますね」


 思いの外、俺の攻撃方法に合ってたからジョーカー用じゃなくて押出迅用の武器としては少し後ろ髪が引かれる思いをしながらも剣を置きそそくさとその場から去ろうとする。

 持っていって良いとは言われたけど流石にここまでやっといて黙って持って帰れないだろ。


「あ、いえいえ是非持って帰ってください! 貴方みたいにこの剣を使いこなせる人は居ないでしょうから!」


 



「今日はちょっと慣れない日だったな」


 自分の部屋で店主からもらった剣を眺めながらそう呟く。最近テレビに映ったっていう新鮮さもあってあの後も結構な人に声をかけられた。

 とはいっても俺に声を掛けてくるというよりかはテレビで見た超絶イケメンの向井に声を掛けてきてるって感じだった。

 途中で芸能事務所からスカウトとか来てたし。


「んでコレなんだよな」


 結局貰うことになった何の変哲もない少し綺麗な石。帰ってから気付いたけど、光ってないだけで形は転移石そっくりなんだよな。

 まあ、転移の力がある訳じゃ無いみたいだけど。何かしたら転移できるようになるのか?


「ま、取り敢えず西園寺のおっさんとの決闘に備えるか」

 

 そうして俺はベッドの上に寝転がるのであった。

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