第49話 武器屋

「まったく、紛らわしい奴等だな」

「ホントだぜ。もうちょっとマシな話しかけ方をしてくれたら構えなくて済むのに」


 結局クソガキと呼んできた奴等に「そんな無礼な奴らにサインする義理なんてない」って言ったら謝ってきたので渋々ながらも二人してサインを書いた。

 特に俺に関しては白崎と二人で特級探索者として認定されていたからか、しつこく質問してきた。

 

 まあそもそもあの出来事に関しては探索高校の実習中に起きた事故なだけだし、あそこまで大々的に表彰される謂れなんてなかった俺からすれば今のちょっと顔を知られている状況っていうのが違和感しかない。

 流石にシロリンくらいの知名度は無いため、日常生活に支障をきたすことはないが、今みたいにちょっとビックリさせられることが増えた。


「これとかどうだろ」


 向井がごつい両手剣を手にとってそう言う。


「流石にそれはでかくねえか?」

「いいんじゃね? 俺ってスピード重視って感じじゃないし。一撃の威力を高めたいんだよな」

「そうなのか」


 見るからに重いその両手剣を眺めると、向井は店主の方へと歩いていく。


「すみません。試し斬りしたいんですけど」

「はいよ、こちらへどうぞ」


 そうして店主に連れていかれた先は少し大きな部屋。その真ん中に立っているのは大きな木の人形であった。


「小せえカカシだと一々替えるのが面倒でしてね。いっそのことデカくしてやろうって思いましてこれにし始めたんですよ」

「いや、試し斬りに費用かかり過ぎだろ」

「国から補助金貰えるんでね」


 まあ今は政府も主導となってダンジョン探索を推奨してるくらいだしな。

 武器屋とかは仕入れが大変な分、それらの恩恵を多く受けてそうだ。


「まあでも今まででこいつを斬り倒せた奴なんていねえし、毎回買い替えるより安いぜ?」

「へえ、それは楽しみだ」


 そう言うと向井は両手剣を構える。今まで誰も斬り倒せた奴が居ないと聞いて火が付いたのだろう。

 あ、なんか炎の異能とかけたみたいになっちまった。


「行くぞ!」


 両手で大きく後ろへ剣を引くと、その筋肉のしなりを利用して勢いよく横に薙ぐ。

 ブオンっという重厚感のある音を鳴らしながら振るわれたその剣はしかしてその巨大人形を断ち切ることなく半ばで止まる。


「くっそー、やっぱ無理か」

「そりゃあお客さん、異能を使わねえと」

「え? 異能を使ってもいいのか?」

「当たり前だ。そいつは特別製だからな。むしろ異能を使わねえと意味がねえ」


 でも向井の異能って炎を操る力なんだけどな。藁人形とは相性が悪いと思うけど。

 

「そうか。じゃあそうさせてもらうぜ」


 半ばまで斬りこまれた藁人形から剣を引きぬく。

 すると、先程まで入っていた切れ込みはその後、何もなかったかのようにその傷を消していく。

 自己補修機能付きの藁人形か……なるほど特別製だな。

 

 そういえば姫ケ丘の生徒の中に一人、力を付与する異能を持つ子がいたな。あんな感じの異能使いが作った人形なのだろうか?


「それじゃあ今度こそ!」


 焔が纏われた両手剣が先程よりもすさまじい威力で巨大人形へと振り下ろされる。

 豪快に燃え上がる炎は一向に消える気配を見せないまま、むしろ威力を増しながら巨大人形へと衝突する。

 

 刹那、炎でできた壁が作り出されたかと見紛うほどに向井の異能の威力が増す。

 しかし、それは一瞬であった。


 すぐさまその炎の勢いは衰え、やはり人形の半ばで両手剣が止まっていた。


「これでも斬れないのか」


 これは果たして切れ味を確認できるのか否かってくらい斬れねえな。

 でも確かに異能と武器との相性を確かめるのだったらこれくらい断ち切れない方が良いのかもしれない。


「ほう、お客さん。なかなかの威力ですね。まさか焦げ付くとは思いませんでしたよ」

「いや、でも全然斬れてないですね」


 まさか全力でやって斬り落とせないと思わなかったのだろう。少ししょげながら向井は店主にそう答える。


「どうだ? その武器の感触は」

「威力は悪くねえけど、やっぱり使い勝手がな~」


 まあ見たまんまだけど、相当重そうだしな。これを持ってダンジョン探索をするってなると余程の体力を持っていかれることだろう。


「ありがとう。また違うの探すよ」

「はいよ」


 店主にそう告げて再度品物を見に行く。

 俺は別に武器要らないからななんて思いながら店内を眺めていると、小道具みたいなものが売られているのが見える。

 多分ダンジョン探索用のアイテムか何かだろう。せっかくだし俺も見ていこうかな。


 そう思って小道具売り場に近づいていくと、その中にあったとある一つの石に目が行く。


「何か見たことあるなコレ」


 値段はそれほど高くない。1万円くらいだ。

 だが、ちょっと綺麗なだけの石にしては高すぎる。


「あー、それですかい? そいつぁ、俺がダンジョン探索に行った時に宝箱の中から出てきた石なんですが、どうにも使い道のない商品でしてね。宝箱から出てきたもんだし、何かしら使い方を知ってる人がいるんじゃねえかと思ってここに置いてるんですよ」


 不思議そうに石を眺めている俺に店主さんが手に持っている石について教えてくれる。

 宝箱の中から出てきた? ハズレだとしても何も効果のない道具がそんなところから出てくるもんなのか?

 ていうか見た目からしてそうなんじゃないかと思ってたけど、やっぱりこの人、自分で調達しにいってるんだ。


「へえ、変なの」


 いやでも妙に見覚えがあるんだよな。何だったっけ……。


「まあせっかくだしこれ買います」

「おっ、毎度アリ!」


 こうして俺は謎の石を、向井は自分が満足のいく剣を買って武器屋を後にするのであった。


「うん? 買っていかないのですかい?」


 何か知らんけど後にできなかった。


「俺はこいつ買いましたんで」

「いえね、せっかくだったら特級探索者さんの実力を知りたくてですね。良い武器見せますから、一回試し斬りしていきませんか?」


 何か知らんけどそう呼び止められると、店主はそそくさと店の奥の方へと向かうのであった。

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