第48話 決闘場所

「おいおいマジかよ」


 DMで西園寺から送られてきた決闘場所に戦慄する。それは誰でも知っている、国立競技場だったからである。

 つらつらと理由が書かれているが、俺たち探索者の決闘は広い場所でないと意味がないからってのが主な理由らしい。

 いや、すぐにそこを借りられるってどんな経済力と権力を持ってんだよ。


 まあ俺が支払わなくて良いらしいからそこは安心できるけど。

 チケット代金は一人一万円。採算は度外視しているのか、今日と当日のみ販売とのこと。

 こんなので誰が来れるんだよ。有料なら配信して良いって言われてるし、みんな普通にそっち見るだろ。


「よっ、何見てんだ押出」

「ん? これだよ」


 トイレから戻ってきた向井に携帯の画面を見せる。「ジョーカーVS西園寺道玄」とでかでかと書かれたポスターの中ではいつの間にか取られている俺の写真がデカデカと張り出されている。

 いや一応許可出したけど、まさか死にそうになってるこの写真を使われるとはな。


「へえ、こんなのあったんだ……ってチケット販売が今日と明日だけ!?」

「な、ヤバいだろ?」


 これがどれだけ常軌を逸していることなのか。普段アーティストのライブチケットを買っている者なら容易に理解できるだろう。

 

「やべえ、早くしねえと売り切れちまう!」

「いやいや流石に売り切れはしないだろ」


 焦って自分のスマホを開き、早速チケットを購入しようと画面を開いているようだ。

 俺も様子を見てみようと画面を開こうとする。しかし、ロード中画面が表示されたのちに、「申し訳ありません。ただいま込み合っております」という画面が表示されるだけで終わる。

 うん? 俺達は特別な事情で学校には行ってないが、普通に今の時間学校とか仕事があるはずなんだけど?


「よっしゃ! 突破したぜ! 押出も行くよな? 押出の分も買っとくぞ」

「いや俺は白崎からもうチケット貰ってるから大丈夫だ」


 実際は逆だけど。


「だから余裕そうだったのか。よし、これで購入完了ッと。よしよし、あれ突破できたのツイてんな」


 向井の言う通り、ロード画面から突破できているのは中々にすごい事なのかもしれない。

 俺の携帯の画面では更新してもなお突破できないままでいる。

 そしてついには「サーバーがダウンしました」という文言が表示される。


「おいおいサーバー落ちるってマジかよ。あっぶねー」

「こんな時間でもここまで混むことあんのか」

「そりゃそうだろ。久しぶりに『沈黙の王』が姿を見せたってのとその最初がジョーカーとの対戦だなんてさ」


 西園寺は『沈黙の王』っていう二つ名があるらしい。表舞台にはもう出ないって宣言して隠居したのちも常に世界3位、日本1位を保ち続けたことからそんな二つ名が付いたのだとか。

 

「西園寺ってどんな異能を使うんだ?」

「『絶対領域』って異能だ。透明な半球のドームを展開するんだけど、その半球内に足を踏み入れた敵は最後、一瞬で切り刻まれるらしいぜ?」

「マジかよ。そんなに殺傷能力高いの?」


 じゃあどうやって戦えってんだ? 遠くからリボルバーを撃ち続ける? いや、そんなのつまらねえだろ。


「ジョーカー初の舞台に沈黙の王の久しぶりの露出。楽しみだぜ」

「楽しみ楽しみ」


 目立ちたがりの俺としては国立競技場でのパフォーマンスという事に心を躍らせてはいる。

 だが純粋に喜べはしない。あんなデカい場所で負けたら今まで築き上げてきた非常にスタイリッシュ! なジョーカーの印象が大分変わっちまうし。

 いや、負けるとは思ってないんだけどな。あくまで可能性の話だ。


「……ま、アーティストになったと思えば楽しみ、か」


 向井の後ろを半歩遅れて歩きながらそう独り言ちる。

 ちなみに今俺達がどこに向かっているのかというと、ダンジョン探索者のための武器屋である。

 向井が武器を新調したいからと言ってきたため、ちょうどいいと思って俺もついてきた次第である。


 何故ちょうどいいかって? そりゃあ、もうそろそろ向井の誕生日だからだよ。


「らっしゃい」


 武器屋の中に入るとそれはもう結構な数の探索者がいた。

 物騒だと思うかもしれないが、探索者が豊富なこの時代、探索用武器を売っている武器屋はかなり人が多い。

 一応ダンジョン以外では武器を安全装置から外すのは法律で禁止されているが、犯罪者からすればそんなことは関係ないため度々問題は起きている。

 

「どれにしようか」

「向井が使ってんのって剣だろ? これとか良いんじゃないか?」


 そう言って俺が見せたのは炎が出せるという剣。炎の異能を使う向井にピッタリなんじゃないかと思って選んだが、対する向井の反応はあまり芳しくない。


「こういうのは実際に炎が使えない人が使うには有用だけど俺が使うとただの劣化版の炎が出るだけだから意味ねえんだよな」

「なるほど、そういうのがあるのね」


 あくまで炎を出すためだけの剣ってことか。それなら確かに向井が炎を出せば済む話だから要らねえよな。


「てことは切れ味が良い奴とかの方が良いってことだな?」

「そうだな。あとは耐熱性か。戦闘中に溶けられても困るし」


 金属を溶かす炎なんてよっぽどだぞと突っ込もうと思ったが、向井の炎は確かによっぽどだと思い直して寸前で言葉に出すのを止める。


「おいおいおい、ガキ共が一丁前に武器選びか?」


 切れ味の良い剣か。なら奥の方にあるあの剣とかよさそうだな。


「向井、ここら辺は多分見栄えの良い奴しか置いてなさそうだしあっちの奥の方が良いんじゃないか?」

「確かにそれもそうだな」

「っておい! 無視すんな……」

「ほら見てみろよ。これとかめっちゃ良さそうだぞ。素材に超レアな魔物の素材を使ってるって」

「おい、お前ら」

「なるほどな。だけど今持ってる奴とどれくらい違うか分からねえから買っちまうのは怖いな」

「店主に言えば試し斬りくらいさせてくれんじゃねえか?」

「おい!」


 なんだ? さっきからうるさいな。

 これ以上付きまとわれても面倒だし反応しておくか。


「なんだよさっきから。うるせえな」

「や、やっと反応してくれた……じゃねえよ! 無視してんじゃねえよ!」


 何なのだろう。見た感じ良い年齢のくせにこんな子供に絡んでくるとはよっぽどだろ。

 面倒くさいけど、ちょっと荒事になるかな。そう思ってアイテムボックスの中に手を入れた時であった。


「テレビで見たぜ、クソガキども! サインしてくれ!」

「「は?」」


 そして俺と向井は思わずそのチンピラの言葉に耳を疑うのであった。

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