第47話 会議終了後
「なんか壮大な話だったな」
「だね」
帰り道、着替え終わると白崎と合流し一緒に歩く。会議で話された内容はどうにも理想にしか思えないほど大きな話だった。
何せダンジョン内部に普通に人が行き交うような安全地帯を作り出すというのだから驚きだよな。それもそんじょそこらの難易度ではないあの『ユグドラシルの試練』で、だ。
まあでも他のダンジョンとは違ってボスであろう魔物は一度倒せば現れなくなるという特徴があるため、案外作りやすいと考えているのか?
もしかすればレッドドラゴンとかはそれほど脅威ではないのかもしれない。
「先行部隊がボスを倒して、殲滅部隊が安全地帯を築く階層の魔物を一掃するって言ってたけど、俺はどっちになるんだろ」
「あなたは間違いなく先行部隊ね」
「やっぱそう思う?」
先行部隊と殲滅部隊。一見すると殲滅部隊の方が大変そうに思えるが実際のところは先行部隊の方が大変だろう。
何故ならあの強大なボス達を倒さなければならないのだから。
せっかくボスを倒すんなら配信したいよな。配信はしてもいいのか? 今度聞いてみるか。
「というかあなた、大変そうだったわね」
「何が?」
「ほら、西園寺さん」
「あー、あれのことか」
結局会議の後、西園寺に絡まれたんだよな。「後でだったら良いんだろ? 逃げるのか?」とか言われて会議の最初の方にそんな事を口走ったのを思い出したんだよな。
今すぐは面倒だから後日にしてくれって言ったら、「後日なら決闘場所を用意しとくぞ。恥をかいても知らないからな」とか捨て台詞を吐いてどっか行った。
恥をかくっていう動詞からして明らかに公然の面々で試合するのだろう。
「リボルバー使ってもいいかな?」
「良いんじゃない? 向こうが一方的に喧嘩を売ってきたんだし」
まあ一方的って言っても決闘に関しては俺が煽りはしたんだけどな。いちいち突っかかってきて鬱陶しかったし。
「……あーあ、俺はいつになったら配信が出来るんだ」
「決闘の時に配信すれば? 許可くらい出してくれると思うよ」
「おお! それはナイスアイディアじゃねえか!」
現世界三位で日本では二位の男との決闘。それはそれは良い絵が取れることであろう。
「探索者同士の決闘だからね。会場は多分、覚悟しておいた方が良いかも」
「覚悟?」
白崎も白崎で西園寺と同じような事を言ってくる。何だ覚悟って? どうせ二日前にとれる会場なんて知れてるだろ。
「白崎さん……と押出さん?」
そう思って歩いていると後ろから女性の声が呼び掛けてくる。振り返るとそこにいたのは天院さんの姿があった。
♢
「今日は来ていただいてありがとうございました。それにジョーカーさんも呼んでいただいて」
「いえいえ。探索者協会があってこその探索者ですから」
今、俺はなぜか白崎と天院さんと共に喫茶店に入っていた。昼間に天院さんの弟である龍牙さんと喫茶店へ行ったため、天院家と喫茶店に来るのは今日だけで二回目である。
そして兄妹だからか選ぶ店も同じ。あの個室喫茶店にて軽い会話をしながらお茶を楽しんでいるのである。
「そういえば押出さんは白崎さんが用事を済ませるまで待っていらっしゃったのですか?」
「はい。帰りに一緒にカラオケにでも行こうと思いまして」
「え、カラオケ行くの!? 行きたい!」
天院さんの問いかけを受け流すためだけについた嘘が白崎に掬われてしまう。
いやいやそこはちょっと誤魔化そうとしたって分かりますやん。
俺のカラオケ行きが決定したところで天院さんがフフッと微笑みを浮かべる。
「それにしても災難でしたね。まさか西園寺さんがああもあなたに突っかかるとは思いませんでしたので、私もフォローが遅れてしまいました」
「いや~、ホントそうですよね。あのおっさん、俺に何の恨みがあって……あ」
隣に座っていた白崎が俺の服をグイッと引っ張ってくることでようやく気が付く。
完全にジョーカーとしてやり取りしてたよな、今。
「やはりあなたがジョーカーだったのですね」
「いやいやいやジョーカーとは背丈も声も違いますし、俺じゃないですよ!」
手遅れかもしれないと思いながらも俺は必死の抵抗をしてみる。実際、ジョーカーマスクのお陰で外見や声が全く違うから逃れる手はある。
しかし俺のその目論見はまだまだ詰めが甘い事を次の言葉で思い知らされることとなる。
「ジョーカーが身に着けているあの仮面。以前そのような仮面が出土したと記録がありました。何でも声や身長を変えることができるみたいです」
ぎくぅっ! ジョーカーマスクはアイテムボックスの様に調べても名前が出てこないから大丈夫だろうと思って使ってたけどよく考えたら攻略者のクエスト報酬ってダンジョン産だもんな!
そりゃバレる時もあるよな!?
「それに押出さんがクラスメイト達を助ける際に黒田さんへ『ダンジョン内部を自由に転移できる石』を渡されたと聞きました。そしてジョーカーにはダンジョン内を転移しているのではないかという話もあります。一致する点があまりに多いと思うのですが?」
ぎぎぎぎくぅッ!?
ドラマでよく見る犯罪者ってこういう気持ちだったんだろうな。まさか現実世界で味わう事になるとは思わなかったぜ!
「そ、それだけじゃまだ俺がジョーカーだなんて断定はできませんよ」
「そうですね。あくまで状況証拠だけですので。だからこれはただの推理ですよ。そしてそのただの推理を聞いたあなたの反応が見たかったのです」
してやられたり。天院さんの表情を見て俺がジョーカーであることは確信しているんだろうなってのが分かる。
「あ、そういえば二日後の決闘楽しみにしてますよ? 西園寺さん、とんでもない場所を貸しきろうとしておりましたので」
「へ?」
そして最後にとんでもない情報を爆撃したのちに天院さんはその日一番の意地悪な笑みを浮かべるのであった。
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