第45話 探索者たちの会合
「それじゃあ僕行ってくるから。またね」
連絡先も交換して龍牙さんと別れる。何気に向井以外の男子とこんなに親密に話し合ったのは初めてかもしれない。
何となくウキウキした足取りで歩いていく。目指す場所はもちろんどこかのダンジョン。ダンジョンの中なら隠れて着替えるスペースが山の様にあるため、そこでジョーカーへと変身を遂げるつもりなのである。
「確かここら辺に……あ、あった」
探索者協会のすぐ近くにある少し大きなダンジョン。そこへ入ると、一回層の奥の方で着替える。
着替えるといっても『隠密者の装束』と『ジョーカーマスク』を着けるだけであるため、たいして時間は取らない。
「さて、向かうか」
そうして俺は完全にジョーカーとなった姿で初めてダンジョン外へ出るのであった。
♢
道を歩いていく。しかし、誰も俺の姿に気が付くことは無い。決して俺にそれほどの魅力がないわけではない、と信じている。
『隠密者の装束』。こいつは装備者の気配を隠す装備。クエストの報酬で昔に出た装備だが、かなり優秀だ。
どんなに特徴的な奴が着てものっぺりとした特徴が全くない人物へと変貌させる程度には認識を阻害させることができる。
ただ、一度認識してしまうか感覚がかなり鋭い奴が目を凝らせば気付かれてしまうっちゃ気付かれてしまう。
あとは自分が認識してほしい対象には認識させることも可能であるため、結構優れモノなのである。
誰にも気が付かれないままジョーカーとして歩いていき、本日二度目の探索者協会の門の前に舞い戻ってきた俺は入り口に居た警備員の一人へ声をかける。
「すみません。探索者協会から召集を受けたのですが」
「承知しました、ジョーカー様。それでは中の方へ」
俺が話しかけると一瞬で警備員が中へ通してくれる。認識させるようにしておいてよかった。
ていうか姿が分かっただけで俺のことがジョーカーと分かるようになっているとは……。
これが有名人って奴なのか、とじんわりと感動を覚えながら協会の中へと入っていく。
受付に行き、どこに行けば良いのかと質問すると受付の係員の人が俺の姿を見てしばらくの間口をぽかんと開けて傍観した後、ご案内しますと言って連れて行ってくれる。
そしてコンコンコンッとノックを鳴らして部屋のドアを開ける。今回は会長室じゃないんだな。
「ジョーカー様がいらっしゃいました」
「初めまして、ジョーカーです」
中に入るとそこには結構広い会議室のような場所に十数人程度の探索者らしき人たちがすでに集まっていた。その中には白崎の姿もある。
「あれが噂の」
「まさか生で見ることができるとは」
「本物なのか?」
俺が入って来るや否や探索者たちの方からそんな声が聞こえてくる。うーん、実に気分が良いぞ我は。
「よく来てくれましたな。ジョーカー殿。まさか画面外でお会いできるとは思いませんでしたよ」
少し立ち往生していると柳生さんがこちらに歩いてきて手を伸ばしてくる。俺も手を伸ばし、握手をする。
「ジョーカー殿。適当に空いてるところにお座りくだされ。さてと、これで全員揃いましたかな。さっそく本題に入りたいとは思いますが、まずは自己紹介からですな。私から時計回りにお願いします。柳生誠二と申します。探索者協会で会長をやらせていただいております。皆さん、どうぞよろしくお願いします」
柳生さんが挨拶をしてぱらぱらと拍手の音が鳴る。自己紹介か。俺は何て言おうか。あんまり素性は言いたくないしなぁ。
「天院なぎさです。探索者協会で副会長を務めさせていただいています。よろしくお願いします」
天院さんは天院さんで人気があるらしいよな。最近ネットで見かけた。副会長としては最年少なんだとか。
「白崎瑠衣です。普段は配信者をやってます。よろしくお願いします」
サッと立ち上がって早口で告げるとサッと座る。相変わらずの白崎である。
それから探索者たちの挨拶が続いていく。皆、主にランキング入りしている人達らしく、自分の順位を言う人が多い。
ていうかやっぱりダンジョン配信者ばっかりだな。
でも誰も知らないな、と思っていると龍牙さんの番が回ってくる。
「
って龍牙さん、天院さんの弟だったんかーい! 全然知らなかったんですけど!?
二人して美形でランキング上位……あまりのも恵まれている。これが格差社会って奴なのか……。
そうこうしている内に俺の番が回ってきそうだな。よしよし、声のチューニングをして、と。
久しぶりに声を出すと掠れてしまい声が出せない現象を緩和するために口の中を潤す。
そんな事を考えていると、まさに和風みたいな服装に身を包んだ、ひときわ異彩を放った男の人が立ち上がる。
「俺の名は西園寺道玄だ」
西園寺道玄、そう言われて俺はピンと来る。確かランキング3位の人ってそんな名前だったよな。
もしかしてその人か?
「言ってもまあ、若い世代のお前さん等には分からんだろう。ほとんど隠居しておったからな。風情というものは何物にも代えがたい。余生は時間のあそびを噛みしめながらゆったりと過ごすつもりだったのだが、とある事件が起き、考えを一新した。よろしくな」
何があったんだろう……最後の方でだいぶ憎悪のこもった声音に変わってたんですけど。
と、俺の番か。まあ白崎と同じ感じで良いか。
「どうも皆さま。初めまして。ジョーカーと申します。申し訳ありませんが本名は控えさせていただきます。白崎さんと同様にこの場では数少ないあのダンジョンの経験者ですので、気軽にご質問いただければと思います。本日はどうぞよろしくお願いします」
あーっ、気軽にご質問をとか偉そうなこと言っちゃったー! 絶対ほかの人たちの方が先輩なのに!
ていうかダンジョン配信者ですとかもうちょっと言う事あっただろ。何でそれを言った!?
ジョーカーになりきる際は役に入りすぎていつも勝手に言葉が出てきてしまうから困りもんだな。
「ふむ? ランキングに入っていれば本名はいずれバレる。ここで隠すのは意味がないのじゃないか?」
そこで西園寺からそんな質問が飛んでくる。この人多分ジョーカーの事を知らないんだろうな。
「私はランキングには名前が載っておりませんので、本名がバレることはありませんよ」
「ランキングに名前が載っていない? ほう、それは妙だな。会長から日本のトップ探索者たちを集めたと聞いたのだが?」
ギロリとこちらに向ける視線の当たりが強い。
「西園寺殿。間違いなくここに集まっている探索者は日本でトップクラスです」
「ふーん。そうかい。それにしてはこいつからは何の力も感じねえけどな」
失礼ではある。でも確かにこのおっさんがこんな態度になるのも仕方ない。弱い人が一人でもいた時、それがダンジョン探索で一番の足枷となることもある。
「知らないのか? 道玄。そいつは今世界で話題になってるくらい強い探索者だぜ?」
「当真、お前は俗世に毒されすぎなんだよ。真の実力者ってぇのはそんなに表に出てこない奴の事を言うんだぜ?」
さっき自己紹介をしていた
どうやらこのおっさんと仲が良いらしく、互いに下の名で呼び合っている。
「本当に強いのか?」
「はい、強いですよ。少なくともあなたよりは」
あ、スゴイ。この姿だと何しても平気って思っちゃうからすんごい煽っちゃったよね。
まあこのおっさんの方が悪いから良いか。
「ほう、言うじゃねえか。試してみるか?」
「別に良いですよ。後ででしたら」
そうして合同ダンジョン攻略の面々の会合は不穏な空気感から始まるのであった。
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