第43話 会長室へのご案内
「うわぁ、テレビで見たところだ」
式場に着くといつもテレビで映されていた景色が目の前に広がる。
ここの事だったんだここってと謎の感想を抱きながら俺は遅れて入場する。
扉を開けた時にこっちに集中した視線が恥ずかしくて俺は身を縮こまらせながら向井の隣に並ぶ。
「よっ」
「相変わらずだな、お前は」
コソコソッとそう会話を交わす。多分俺待ちだったのだろう。
天院さんがヒールの音を鳴らしながら式場の前へと行くとくるりとこちらを振り返り、お辞儀する。
「皆様お待たせいたしました。柳生はただいま留守にしておりますので私天院なぎさが表彰の儀を務めさせていただきます。よろしくお願いします」
それからは淡々と式が進んでいく。基本的には代表者だけが前に行くものだと思っていたが、案外全員名前を呼ばれて前に行く感じだったからちょい緊張したけど。
まあ何とか乗り切れたなみたいな感じでボーッと立っていると、天院さんからこんな言葉が飛び出す。
「……と、表彰はここまでの予定だったのですが、柳生より追加で表彰せよとの話を承りましたのでここで表彰させていただきます。まずは白崎瑠衣殿」
「はい」
白崎も知らなかったようで少し目を見開きながら前へ歩いていく。
まさかテレビが入っている表彰式でかましてくるなど誰も思わなかった筈である。
そしてこの流れはもしや。。。
「……そして押出迅殿」
「あ、はい」
やはり光の戦士を倒した面々が呼ばれるのか。俺は後ろの方だったため、いそいそと前へ歩いていく。
うひゃ〜、テレビカメラが全部こっち向いてる〜。こんな事、なかなか無いからめっちゃ興奮するな。
「白崎瑠衣殿、押出迅殿両名は此度の戦いにおいて多大なる貢献を致しましたのでこれを表彰します」
そう言って天院さんから表彰状とバッジをそれぞれ一つずつ貰う。
「この功績を讃え、両名を『特級探索者』と認めます。こちらのバッジは特級探索者の証でございます」
「ありがとうございます」
粛々と受け取りながら俺の頭の中では疑問が走っていく。
特級探索者って何? 上級なら知ってるけど。
「以上をもちまして本式典は終了となります。皆様にはこの後、懇親会を設けておりますのでそちらでより一層の親交を深めていただければと思います。また、白崎瑠衣殿と押出迅殿につきましては会長室でまた表彰が御座いますので足を運んで頂ければと思います」
そうして俺の疑問は解消されないまま式典が終わりを迎える。
廊下に出るとまた係員の人に白崎と一緒に控え室へと連れていかれ、声が掛かるまでここに居てください、と言われる。
「はーっ、つっかれたー」
「それにしても不思議だね」
「ん? 何が?」
「こんなに大々的に表彰されることが、だよ」
「そりゃー、だって結構強いイレギュラー倒したし、光の戦士とかいう訳の分からん強い奴も倒したじゃんか」
「でもわざわざテレビを入れたりましてや特級探索者だなんていう
やっぱり特級探索者って新しい称号だったんだ。でも元々上級探索者だった白崎はともかく上級探索者ですらなかった俺が飛び級で特級探索者になるのは変だよな。
さっき貰ったバッジをちらちらと眺めてみる。
そしてふと、携帯を覗いてみると大量の通知が届いているのが見える。
「あ、やべ。母さんに言うの忘れてた」
通知のほとんどが母さんからの連絡であった。
『あんたテレビ出てるけどどういう事?』
『ちょっといつの間にこんな事になってるのよ! 今夜はパーティね!』
何やら一人で盛り上がっているみたいだ。ちょっとむず痒い思いを抱えながら返信する。
『今日、精肉店で肉買って帰るよ』
そう返信すると同時に部屋の扉がノックされる音が聞こえる。
「お二方とも、お待たせしました。柳生の部屋までご案内させていただきます」
「「はい!」」
俺はすぐに携帯をポケットの中にしまうと、天院さんの後ろに続く。
「そういえば柳生さんって今朝のテレビ出てたよな?」
「え? そうなの?」
どうやら白崎は知らないらしい。まあ朝の時間を優雅に過ごして遅刻した俺とは違い、ちゃんと集合時間前までに到着しているような白崎が知っているはずもないのである。
「テレビ局からは近いですので走って帰ってきたと申しておりましたよ」
「走って!? そりゃご苦労様で……」
軽く2駅分くらいはありそうなもんだけど走って帰れるのか……。どっかの誰かさんと同じことをしている会長に共感を覚える。
あの時と同じく二階に上がり、奥の方の部屋へとたどり着く。
「天院です。お二方をお連れ致しました」
「どうぞ」
そうして中に入ると、いつぞやに見たザ・ダンディみたいなお爺さんがそこに座っていた。
さっきテレビで見たよなこの人、なんて思いながら促されたままソファに座る。
「この間ぶりですな。白崎殿、押出殿」
「そうですね。まさかこんなに早くまたお会いするとは思いませんでした」
最初は軽い世間話から入る。式場の時とは違い、テレビが入っていないためどちらかと言えばラフ寄りなんだろうな。
「一応、形式ばった物は最初の方に済ませておきますかな。天院君。証明書を」
「はい」
そう言うと天院さんが二枚の紙を持ってくる。
「ありがとう。こちらがお二人が特級探索者としての証明書となります。どうぞお納めくだされ」
「「ありがとうございます」」
俺と白崎はそれぞれ柳生さんから印鑑が押された証明書を受け取る。書かれている内容は「この書類を持つ者に特級探索者としての地位を認める」と書かれている。
「何かご質問はありますかな?」
「はい」
「押出殿。どうぞ」
「特級探索者って何なんですか?」
「上級探索者の中でも特に優秀な探索者に与えると最近取り決めた地位ですな。上級との違いは主に探索者協会が主催する攻略難度が遥かに高いダンジョンの合同探索への参加を許可されておる点です」
合同探索……そう言えばジョーカーとして呼ばれてるのも確かそんな感じの奴だったよな?
「でもそもそも俺って上級探索者でもなかった気がするんですが」
「光の戦士とイレギュラーを主体となって倒したというのだから特別処置で飛び級させておいたのです。そう、その光の戦士についてこちらからお聞きしたいことがあるのですよ」
おっとそう来たか。こちらの質問ターンから一転して柳生さんが更なる話題を切り出し始める。
「皆さんもご存じの通りだと思いますが、あの光の戦士はランキングに名を連ねている者にだけ送られております。ただ、それはランキングに名を連ねている者一人に対して一体しか送られていない筈なのです。私共の調査では」
それが何故俺達の前に二体も現れたのかという疑問か。まあ予想はしてたか。
「押出殿。正直に申してくだされ。ファーストはあなた様なのではないでしょうか?」
これについての回答は俺の中でもう出ている。
「……正直言いますと俺から見ても文字化けしているので俺がファーストなのか、確信はないんですよ。それにジョーカーも居るじゃないですか? 確証は無いですけどジョーカーがファーストだっていう方があっている気がするんです。俺の力じゃイグナイトには到底勝てそうもありませんし」
半分ホントで半分嘘。ジョーカーになった時の俺は背丈も違えば声も違う。どうやっても俺とジョーカーを同一視するのは無理があるだろう。
そしてそれが分かっているからなのか柳生さんは難しい顔をする。
「……悔しいですが押出殿の仰る通りですな。ファーストが誰なのかはファースト自身も分からぬ事。ただ、光の戦士が二体現れたことも考慮すると……まあ後者については確信はありませんし、たまたま白崎殿の前に二体現れただけの可能性もあります。すみませんな、また面倒な質問をしてしまって」
「いえいえ、俺もあんまりよく分からなくてすみません」
「それと白崎殿。今日は合同探索についての顔合わせをしておきたいと連絡させていただいていたと思うのですが、ジョーカーは来られるのでしょうか?」
「えっと……多分はい。来ると思います」
俺の方は一切見ないようにして白崎がそう答える。まあ事前に大丈夫だって言ってあるからな。
「よかったです。それでは白崎殿はこの後、顔合わせがございますのでこちらへ残っていただけますかな?」
「はい、大丈夫です」
「ありがとうございます。あ、そうでした。押出殿も特級探索者ですし今回の合同探索、参加なさったりしますか?」
「あ、すみません。俺この後用事あるんで」
ジョーカーになって顔合わせしなきゃならないからな、と半分後ろめたい気持ちになりながらそう答える。
「そうですか……それでは押出殿はこの辺で。本日はどうも長い事お付き合いいただきありがとうございました。またいつの日かお会いしましょう。天院君。押出殿をお送りしてあげてくれ」
「承知しました」
そう言うと天院さんに連れられて俺は会長室を後にするのであった。
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