第42話 遅刻

『突如現れた神からの刺客、『光の戦士』達。彼等による被害は全国的にもかなり大きく、ランキング内の20人は残念なことに塗り替えられてしまう結果となってしまいました。この事件を受けて本日は探索者協会会長の柳生さんにお越しいただいております』

『探索者協会会長の柳生誠二です。よろしくお願いいたします』

『柳生さん。本日はよろしくお願いいたします。早速ですが今回の件を柳生さんはどのように見ていらっしゃいますか?』

『そうですね。今まではダンジョン外に被害が出ることはありませんでした。しかし、今回の一件はダンジョン外にも被害が及んだわけです。いよいよ我々の生活圏が脅かされることとなりました。これには迅速な対応が必要だと思います』

『迅速な対応とは具体的にどういったものなのでしょうか?』

『まずダンジョン攻略を進める事。今、神からの試練というものに最も近いとされているのが『挑戦者の塔』の大扉の先にあるダンジョンです。ここを探索者合同チームで攻略していきたいと思っております。次に現実世界での防備についてです。今回はランキング内の者しか狙われませんでしたが、次もそうとは限りません。こちらに関しましても何らかの対応が必要かと思います』


 テレビで先日の事件について報道されている。因みに学校はあの一件でしばらくの間休校となっているため、今日テレビの見過ぎで遅刻するという事は無い。安心してくれ。

 時間など気にせず、優雅にコーヒーを飲みながら俺はテレビ画面を見ていた。

 は~、なんて素晴らしい時間なんだ。こんな時間がいつまでも続けば……うん? 何だ? 電話か?


 まったく俺が優雅な時間を送っているというのに。誰だね一体。


「はいもしもし」

『白崎です。押出君! 今日、探索者協会に来る日だよ!』

 

 優雅……それはいつの間にか儚く消えゆく理想郷。

 

「だーっ!? 忘れてた!」

『待ってるから早く来てね!』


 そこでプツンッと電話が切れる。

 そうだった。今日はあの光の戦士とイレギュラーの黒龍の討伐に恩恵したとか何とかで表彰される日だった。

 そしてさらに言えばジョーカーとして探索者の合同チームの作戦会議を聞きに行く日でもあった。

 何から何まで一日に集約しすぎて逆に忘れてたぜ☆!


「母さん! いってきまーす!」

「どうしたの? そんなに慌ただしくして」

「用事があったの忘れてた!」


 俺は扉を思い切り閉めながら母さんにそう告げる。今の聞こえたか? んなこたどうでも良い。

 くそ、今日は学校が休みだから遅刻なんて無いと思ってたのに普通に遅刻しちゃいけないモンに遅刻しそうになってんじゃねえか。

 これは周囲への影響とか考えていられねえ。俺の全速力で向かうぞ!


「キャアッ!」

「何だこの突風は!」

「わ、わしのカツラが~」


 町衆よ、すまん。俺は今過去最高に急いでいるのだ。

 全速力を出している今、目で追えないほどの速度になっている。そのため、周囲への被害が大きくなってしまうのである。

 しかし、目で追えないため誰による犯行かは認識されない。つまり完全犯罪という訳である。


「お、お待たせしました~!」

「おっそいよ押出君! 行くよ、もうみんな待ってるから」


 探索者協会の前に着くと白崎が外で待っていてくれていた。そして白崎に強引に腕を引っ張られて連れていかれた先は探索者協会の大広間。


「よっ、押出。やっと来たか」

「やっほー、押出君」

「押出、遅いぞ」


 そこには向井や姫ケ丘の三人、そして菊池先生達もいた。あの黒龍の戦いに貢献した人は全員呼ばれているのだろう。


「それでは全員お集まりいただいたようですので式場の方にご案内いたします」


 あれって天院さんじゃなかったっけ? うわ~、心なしか俺の方を睨んでる気がするよ。すんません。


「それと白崎さんと押出さんにはあとで会長室に来て貰います。光の戦士を倒した表彰がそこでありますので」

「はい」


 なんだそれで見られてただけか。よかった。


「あと押出さん。ちょっとお着替えの方ご用意しておりますのでこちらへ」

「あ、はい」


 天院さんにぞろぞろと生徒と先生たちが付いていく。皆、礼装を着ている中、俺だけが私服だったため、他の人達は係員に連れていかれ、俺だけ天院さんに連れていかれる。

 もちろんながら沈黙のまま歩いていくと、途中天院さんからこう声を掛けられる。


「お久しぶりですね。押出さん」

「お久しぶりです」


 俺がそう返事をすると天院さんは歩みを止めて、くるりとこちらへ振り向く。

 何だろう? 俺が疑問に思っていると天院さんが口を開く。


「あなたのご活躍は先生方から伺っております」

「ど、どうも」

「そのご活躍からしてあなたがランキングに入っていないというのは流石におかしいと思うのです」

「いえいえ、俺なんて知れてますから。白崎よりも弱いですし」

「……まだ隠すのですか?」


 そう言われて俺はドキリッと胸が跳ねる感覚を覚える。もしかして俺が誰なのかを確信して言っているのか?

 それとも俺がファーストなのではないかと疑っているのか?


 ファーストが俺っていうのは自惚れかもしれないけど殆ど間違いはないと思う。ただ、あの戦闘でそこまで分かるとは思わないんだけど。

 そうこうしている間に天院さんは再度歩き始め、とある部屋の前でピタリと止まる。


「こちらがお着替え用の部屋です。中に礼服が一式ございますので、お着替えくださいませ。お着替えが終わりましたら私にお声掛けしてください。式場へご案内しますので」

「あ、ありがとうございます」


 そう言われて俺は逃げるように着替え室の中へ入っていくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る