第41話 一方その頃

「ケッ、つまんねえ奴らだったな」


 そう言うと世界でも屈指の巨大な肉体を持つ男は手に抱えている光に包まれた人型の何かを空中へ放り投げる。

 するとその人型の何かは空中でパアッと霧散し、消滅していく。


「さ、流石は人類最強だ……あんな化け物を一人で倒すなんて」

「イグナイト・ライオンハート……力が強すぎるがあまりに大国が揺るぐほどの国家権力を握るまさに生ける伝説。その実力の一端をこんな間近で見ることが出来るなんて」


 周囲に居る者達ももちろん普通の探索者から見れば桁違いに強い猛者たちである。

 何故なら彼らは全員がランキングに名を連ねているからである。

 しかし、真ん中で今全ての敵を倒しつくし、大きなソファにドカッと座った男には誰も敵わない。

 空間転移? 異能が効かない? そんなものはこの男には全く通用しないのである。


「おい、ブラッド」


 偉そうに座った男はずらっと周囲の人物を一瞥すると、近くで立って見守っていた米国探索者協会会長の名を呼ぶ。


「どうした?」

「全員不合格だ」

「なっ!? お前正気か?」


 イグナイトから発せられた言葉にブラッドは慌てる。わざわざ世界各地からかき集めてきたランキング入りの精鋭たちだ。

 彼らの中からダンジョン探索のパーティを選出しようとしていたところをイグナイトが試験する前に不合格と言い渡したのである。

 それを聞いた周囲の者達の中には不機嫌な表情を浮かべるものも居る。何て言ったって彼らは周囲からは最強と崇められてきた者ばかりだからだ。

 しかし、次のイグナイトの一言で、喉元から出かかっていた不満の声は一気に消失する。


「さっきのを見て誰を選べってんだ? あの光の戦士とやらに太刀打ちできねえ異能頼りのボンクラ共なんざ足手纏いにしかならねえんだよ」


 そう、イグナイトが五人分を仕留めたというのだ。つまり、ここに居るほとんどの者が倒せなかったという事だ。

 

「それはお前が倒してしまったからだろう?」

「俺が一瞬で十体片付けたんならその話は通用するが、別にそうでもなかったぜ? お前も見ていたからよく分かるはずだろう? 俺は帰る。こんな事ならジョーカーの配信でも見返したほうが有意義だ」

「待て」


 ソファから腰を上げ、帰ろうとするイグナイトにそう声を掛ける者が居た。

 

「俺をそこらの有象無象と一緒にするなよ?」


 イグナイトとは正反対の細身の男性。一見するとあまり強そうではないが、この男性の経歴を一度でも知れば侮ることはできないだろう。

 攻略不可能と目されたダンジョンをソロ攻略したこと三度、途中からはペアを組み数多くのダンジョンを攻略達成へと導き、何よりランキング4位という高順位に到達している。

 クロウ・エルスリッジ、その名を聞けば誰もが尊敬し、崇めるだろう。


「お前が取ったせいで数は少ないが、俺は三体葬った」

「それを言うなら私は二体倒したわよ」


 そしてクロウと聞けばこの女性。ベアトリス・ボーン。途中からクロウとペアを組み、クロウ同様数多くのダンジョン攻略に寄与したその女性のランキングは6位である。

 

「ああ? 有象無象じゃねえか」

「試してみるか?」


 そう言うとクロウはスッと鉤爪かぎづめが異様に発達した手甲を構える。


「私もそう言われて引き下がれないわよねぇ」


 クロウの隣でベアトリスもイグナイトに対面する。


「そこまで言うならまあ良いが……粋が良いだけの雑魚じゃねえことを祈ってるぜ」


 その瞬間、イグナイトの力に応じて大地が吠えるのであった。





「たくっ、散々な奴等だった」


 一振り、刀を振るうとそのままゆっくりと腰に差す。先程まで戦闘があったためか風情のあった中庭は最早ぐちゃぐちゃ、更には家までもがかなりの損傷を受けている。


「おい、若いの」

「は、はい」


 西園寺は怒りがたっぷり籠もった声で天院を呼び、天院はそれに答える。


「神とやらに少し腹を立てた。探索者協会の話、受けてやろう」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 西園寺が求めていたのは世俗から離れた場所でゆっくりと時を過ごす事である。探索者でなければそれが可能であると信じていたが、今回で遂にそれは打ち砕かれた。

 かといってランキング外になるというのは今の西園寺にとってかなり難易度の高い事となる上に、本人にとってそれは不本意な事であった。


 それが故に選んだのはもう一度探索者に戻るという、探索者協会が彼に求めていたことであったのである。


「そうと決まれば早速協会に向かうぞ」

「ちょっと待ってくださ~い」


 そうしてあまりに腹を立てていたためか、最早天院を置いていき、自らあれほど毛嫌いしていた探索者協会へと向かう西園寺。

 その時、間違いなく世界の歴史は動いたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る