第40話 激闘

 身体を貫く氷点下の斬撃が光の戦士へと迫っていく。そしてそれは見事貫通したかと思えば、次の瞬間には何事も無かったかのようにスウッと通り過ぎていく。

 やっぱり異能自体が効かないみたいだな。まあ、幸いにも俺は異能を使った攻撃じゃないから大丈夫だけど。


 そうして俺はリボルバーを光の戦士へと向ける。


「発射」


 刹那、空間を切り裂くほど濃密で重厚な光線が放たれる。ステータス数値も黒龍との戦いも踏まえてかなり上昇している。

 いくら疲弊しているとはいえステータス数値を用いているだけのこの攻撃は何度でも放つことが出来る。

 完全に奴等を捕えた一撃……だと思ったのだが、いつの間にか遥か彼方へと移動していた光の戦士たちの身体を掠めることすら出来ず、そのままダンジョン内の壁面を深く抉るだけで終わってしまう。


「今絶対に当たったと思ったんだが」

「多分空間に干渉できる系の能力を使うんだと思う。現れた時もどこから出てきたのか分からなかったし」

「マジかよ」


 異能が効かないうえに瞬間移動もできるなんて飛んだチートやろうじゃねえか!

 その時であった。

 俺の膝がガクリと落ち、地面へと着く。かなり限界が近い。腕もちょっと痙攣してきた。

 こんなこと、ダンジョンに潜りたての頃にしか起きなかった。それほどに疲弊しているという事だ。


「大丈夫?」

「大丈夫……多分」


 俺は足に力を込めて立ち上がる。

 いや~、さっきまで嘗めてたな。最近の俺強いし勝てるだろとか余裕ぶっこいて格好つけて転移石で先に皆をダンジョン外へ送り込んでくれとか言っちゃってたけどさぁ。

 でも俺が帰るって言ったら白崎がその時間を稼ぐって言って一人で残るだろうし結果的には俺の判断で正しいんだけど。


「白崎、剣は使えるか?」

「え? 最初の方は使ってたから人並みには使えるかな?」

「そりゃ良かった。こいつを渡しとく」


 そう言うと俺はアイテムボックスの中からいつぞやの巨人を倒して手に入れた炎の剣を白崎に渡す。


「なんかスゴイ炎が出る剣だ。多分なんか凄いぞ」


 自分で使った事がないためあまりにも解像度の低い説明をする。


「ザッツい説明だね。要は炎が出るんだよね? でも効くのかな?」


 そう言うと白崎はその剣を上へ振りかぶる。


「お手並み拝見よ」


 そうして白崎が振り下ろした炎の剣は広範に渡って燃やし尽くす炎の斬撃となる。


「え、おっきくない?」

「うん、俺も驚いてたところだ」

「なんであなたが把握してないのよ!」


 思ってたより炎の出力が強かったからかあたふたしている白崎を見て少し和む。

 ちょっと弱気になってたのが恥ずかしくなるな。


 ただ剣の振りやすさ具合を確認しただけで発生した白崎の炎の斬撃は光の戦士たちのもとへと迫りゆく。


 そして光の戦士達はサッと体を横に翻して攻撃を避ける。

 リボルバーの時の反応、そして炎の斬撃に対する反応を見て俺は確信する。

 何も物理以外が効かない訳ではなく異能だけが効かないのだと。

 だってそうだろう? 異能の時は見せつけるように回避しなかったくせにリボルバーの時は空間を移動して、炎の斬撃は普通に避けてたし。


「白崎、そいつの炎なら攻撃効くっぽいぞ」

「オッケー、これで私も十分戦える」


 その時であった。光の戦士達がようやく派手な動きを見せる。

 俺の目の前まで瞬間移動すると、いつの間にか手に持っていた光り輝く槍のような武器を振り翳してくる。


「押出くん!」

 

 あんまり攻撃してこないから油断してた。

 後ろに飛び退こうとするも、間に合わない。

 咄嗟に腕を交差して攻撃を受けようとすると、目の前を氷の板が覆っていく。

 白崎が防御してくれたのだろう。だが、俺には見えている。

 白崎の後ろにもう一体の光の戦士が槍を構えている事を。

 俺を庇おうとしている白崎はまだ気が付いていない。

 

 詰んだ……いや、諦めるのは自分の事だけでいい。


 飛び退こうとしたのを踏みとどまると俺は前へ踏み込み氷を破ってきた槍を体に掠めながら白崎の方へ駆ける。


 痛ってえ、左腕があったかい。だいぶ出血してるな、こりゃ。

 

「白崎!」


 そして白崎を狙う光の戦士の前に立ちはだかると、拳を引く。


「せこい真似しやがって! このクソ野郎があああ!」


 俺は怒りを露わにしながら思いっきり拳を振りかざす。

 後を置き去りにした一撃。


 鼓膜が吹き飛んだのかと思うほどの静寂が訪れた後に、拳が光の戦士の顔面を完全に捉える。

 手応えを感じたまま俺は拳を思いっきり振り抜く。


 その直後、確かに捉えていたはずの拳から急に手応えが無くなり、空振る形となる。


「ちっ、逃げられたか」


 寸前で空間を移動し、その場から姿を消したのだろう。

 だが、確かに直撃した感覚はあった。多分、ダメージは入ってるはずだ。


「すまん、油断してた」

「いやそんな事より腕が……」

「別にそんな深くはないよ」


 そう言って槍が掠めた左腕の傷を手で庇う。

 その傷跡には光の粒子が漂っており、どこか脱力するような感覚に囚われる。

 毒みたいな何かか?

 だが今のでなんとなく分かった。白崎を攻撃しようと転移した光の戦士は少しの間ではあるが確かに俺の拳を避けられなかった。

 無制限に転移を使えるのなら食らう前に避けられた筈だ。

 しかし、実際は使用するのにほんのわずかな時間と言えどクールタイムがあるから逃げるのが遅れたんだ。


「白崎、あいつらの空間転移にはクールタイムがある」

「クールタイムって?」

「発動に必要な待機時間って事だ。永遠に転移し続けられる訳じゃないっぽい。だからそこを叩く」

「そこを叩くって言ってもちょっとだけでしょ? どうやってやるの?」

「それはだな……」


 そう前置くと小声で白崎に作戦を告げる。万が一にも日本語が分かる相手なら面倒だからだ。


「……上手くいくかは分からないけど理解したよ」

「頼んだぜ」


 そう言うと俺はアイテムボックスからとあるものを取り出しながら走り出す。

 取り出したものは『主神の槍』だ。取り出すや否や片方の光の戦士に向けて思い切り強く投げつける。

 投げつけられた槍はすさまじい勢いで光の戦士へと迫りゆく。光の戦士は避けることなくそのまま手に持っていた光の槍で応戦する。

 交差する二つの槍。凄まじい音を鳴らしながらせめぎ合っている。


 そんな光の戦士に助太刀しようとしたもう一方の光の戦士へと俺は飛び掛かる。


「お前はそっちじゃねえよ」


 銃口を向けて一気に打ち放つ。しかし、その攻撃は空間を転移することによって簡単に回避されてしまう。

 続けざまにリボルバーを撃ち続けるが、クールタイムよりも早く到達する事は無い丁度良いタイミングでまた回避されてしまう。

 そしてそのやり取りを何合か続けていく。何も無為な時間を過ごしているわけじゃない。これはただの時間稼ぎだ。


「はあああああ!」


 主神の槍とせめぎ合っている光の戦士の背後から白崎が炎の剣を振りかざす。

 そして案の定、光の戦士は空間転移をして回避し、同時に『主神の槍』も方向転換をして光の戦士を追いかける。

 その速度は異常なまでに早く、光の戦士が姿を現した時にはすでにそこへ到達していた。当然の事ながらクールタイムなど経過する時間はなく、そのまま光の戦士の身体を貫く。

 ただそれだけではまだ倒せないだろう。だからこそ、最後の仕上げを白崎に頼んだ。


「行くよ!」


 白崎には主神の槍が向かう方に脳死で付いていけば良いからと伝えておいた。

 主神の槍に貫かれ、苦しみ藻掻くそこのお前。転移してる暇なんてねえよな?


 刹那、絶大の焔を纏った剣が光の戦士へと降り注ぐ。まさに世界を滅ぼさんと打ち放たれたその一撃は大地を真っ赤に染め上げていく。

 そしてその渦中にいる光の戦士は炎の剣の一撃を受け、消滅していく。


 残るは俺の目の前に居るこいつだけだ。


「白崎! 投げてくれ!」

「分かった!」


 白崎は俺の指示に従い、地面に突き刺さったままの主神の槍をもう片方の光の戦士めがけて放り投げる。

 前方からはリボルバーの砲撃、後方からは貫通するまで追尾してくる大きな槍。

 

 リボルバーの一撃を回避するために空間を転移する光の戦士。しかし、そこに迫り来ているのは主神の槍である。

 やむを得ず光の戦士は持っている光の槍で応戦する。

 しかしそこに間髪入れずに撃ち込まれたリボルバーの砲撃によってその姿は跡形もなく消滅するのであった。


「……やっと倒せたか」


 敵が転移したのではなくちゃんと消滅したのを確認した俺は安心してその場で寝転がる。

 寝転がった俺の真横の地面に主神の槍が飛んできて突き刺さる。いや、危ねえなおい。


「お疲れ様」


 白崎ももう動けないのか俺の隣に来るなりペタリと座り込んでそう告げる。


「そう言えば光の戦士とか呼ばれてた奴、二体来てたよな?」

「そうね」


 ランキングに載ってる奴に一体ずつ送られるのであるならば白崎ともう一人この場にランキング入りを果たしている者が存在することとなる。

 となればやっぱり俺が……いやこれ以上はうぬぼれみたいになるから考えるのをやめよう。


「まあ十中八九あなたがファーストね」

「最近それが本当なんじゃないかって気がしてきてならないんだよ」

「あれ? まだ信じてなかったの?」


 そんなバカなみたいな目でこちらを見てくる。

 いやだって一回も俺の名前がランキング入りしてるのを見たことないからさ。いきなりファーストって出てきたイメージだし。


「おーい、二人ともー!」


 そんな時であった。黒田さんの声が聞こえてくる。どうやら全員を運び終えたらしいな。


「さて、行きましょうか」

「うんにゃ、俺は動けねえ」

「大丈夫だよ。私が動かしてあげるから」


 まさかのお姫様抱っことか!? などと無駄な妄想を描いてみるも現実は残酷なものである。冷たい氷の手でつまみ上げられながら俺は黒田さんの下へと運ばれていくのであった。

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