第39話 光の戦士

 天から降り立つ光の衣をまとった戦士。その姿は全世界で目撃されていた。

 『光の戦士』と呼ばれたそれらは人の形をしてはいるものの一切の表情を見せる事は無い。

 そしてそれらは神の声通り、ランキングに名前が記載されている者の前に降り立っていた。そしてその数はランキングに応じて変わっていた。


「何なのこいつら?」

「あああああ!? 俺の大事な盆栽がああああ!」


 天院なぎさと西園寺道玄の前にもそれは現れていた。その数は二人。両者ともにランキング入りを果たしているため、そのせいであろう。

 そして今、西園寺の屋敷にて盆栽を粉砕しながら現れたという訳である。

 

「とうとうダンジョン外にまで脅威が訪れるようになったのですか。ここ最近は特に目まぐるしいとは思っていましたがまさかここまで」

「……許せん」


 天院が冷静に分析をしている中で横に居た男はギランッと鋭く目の前に現れた光の戦士たちを睨みつける。


「お主ら……俺が大切にしていた盆栽を壊した罪の重さを分かっているんだろうな?」

「西園寺さん?」


 天院が声を掛けようともその声は西園寺には届かないようだ。怒りで我を失っている西園寺を中心として半透明の球体が展開される。

 その半透明な球体は光の戦士たちをも飲み込んでいく。

 そして西園寺は部屋に立てかけてあった刀を手にすると、腰を低く落とし、居合の構えを取る。


「春夏秋冬、長年の歴史が積み重なった尊い芸術を貴様らには分からんか? 神とは余程風情が無いもんだと見受ける」


 その様子を見た天院は最早自分の役目など無くなったと判断する。この状態の西園寺を止められる者など見たことが無いからだ。


「花鳥風月流、森羅斬承しんらざんしょう


 刹那、光の戦士たちの体が真っ二つに分かたれる。その斬撃は西園寺の力の中にいる敵の防御力を無視して切り刻む。

 そしてまさに西園寺が展開した半透明の半球の中に存在した光の戦士たちはまさにその餌食となったのである。


「……お見事でございます。西園寺さん」

「いや、まだだ」


 先程真っ二つになったように見えた光の戦士たちはしかして次の瞬間にはまるで何事も無かったかのようにその場に漂っていた。

 

「どういう事ですか?」

「恐らく俺の能力が効いておらん」


 そう言うと西園寺は自身の力の展開を止める。これがあっても無駄であると悟ったのであろう。


「異能が効かない相手という事ですか?」

「そこまでは分からん。だが少なくとも俺の異能は効いておらん」


 冷静さを取り戻した西園寺は一瞬の思考だけでそれを導いたのである。相変わらず頭の回転が速いと感心した天院は同時に異能が使えない相手という脅威を再認識する。


「天院君、頼れるのは己がステータス数値のみだ! 付いてこい!」

「は、はい!」





「はあっ!」


 氷で作られた槍が天から現れた光り輝く二体の敵に降り注ぐ。白崎の放ったその攻撃が刺さったかと思った次の瞬間、その場には無傷で何事もなく漂っている光の戦士が居た。


「おかしいわね。能力が全然効かない」

「私もだよ」

「マジかよ」


 異能が効かない魔物なんて聞いた事が無い。黒田さんも先程打ち出した砂鉄の槍が光の戦士の身体を貫いたかと思えば、今みたいに元通りになっていた。

 神だからって何でもありかよ!

 こちとらさっきの黒龍との戦いでヘトヘトだってんのに。

 救助はまだ来ないよなぁ。っていうか探索者協会も探索者協会でさっきの神の声の対応に追われてそうだし。

 仕方ないか。


「白崎、これを渡しとく」

「これって」

「転移石だ。これで黒田さんと一緒に皆を連れて帰ってくれ」

「……もしかして一人で戦うつもり?」

「そうだ」


 白崎も黒田さんもほとんど体を動かせないだろう。黒龍までなら救援が来るまで待ってようとか思ってたけど、追加でしかも黒龍より強そうな敵が来るなら話は変わってくる。

 これが今俺が思いつく最善の策だ。今思えば、あの時と逆の立場だな。


「転移石ってなに? 名前的に移動できそうだけど」


 あ、そういえば転移石って全然一般的なもんじゃないんだった。黒田さんにそう言われて気が付く。

 ジョーカーの時しか使ってないからな。


「ダンジョン内で攻略した階層だったらその入り口に一瞬で飛べる便利な道具なんだ。これで黒田さんと白崎は皆をダンジョン外に連れ出して欲しい。俺がその時間を稼ぐから」

「あー、だから一人で戦うとかどうこうっていう話になってたんだね」

「そういうことだ」


 ひしひしと伝わってくる光の戦士とやらの強者感。この間もこっちを見ているのかよく分からない無表情で空中を漂っている。

 このまま逃げられるんじゃないかなんて考えたが、背中を見せた瞬間に死ぬ気がする。


「私は残るわ」

「白崎?」

「異能が効かないだけで異能が使えなくなるわけじゃないもの。足場として氷は使うとして一応、ステータスはある程度高いし戦えるよ。それに転移石には定員があるんでしょう? だったら脱出の人員は一人でも少ない方が良い」


 確かに一理ある。白崎ならランキング入りしてるくらいステータス数値も高いし。

 断る理由は無いか。


「じゃあ黒田さんに渡しとくよ。これで皆を連れ出しておいてくれ」

「了解。終わったらまた駆けつけるから」


 そう言うと黒田さんが倒れている人たちの下へ向かう。そして俺と白崎だけがその場に残る。

 俺達の選択肢はこうだ。黒田さんが全員を連れ出している間に倒しきる、もしくは黒田さんが全員を連れ出し終えるまで生き残り、最後一緒に転移石で逃げ切る。

 まあでもこいつらの現れ方的に多分空間を移動できるだろうから、転移石で逃げても追いかけてきそうだからできれば倒しきりたい。


「白崎、倒れんなよ」

「お互い様よ」


 そうして俺は地面を蹴り上げ、白崎は氷で道を作り、光の戦士へと迫るのであった。

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