第38話 疲弊
「このクソトカゲ野郎が!」
俺はそう叫びながら渾身の一撃を黒龍の頭上へと打ち放つ。頭蓋を上から下へと直に伝わる衝撃、手応えはまさに会心の一撃である。
あれから何分間戦っている事だろうか。黒龍との戦いで俺達は疲弊しまくっていた。
「すまん、私はもう無理みたいだ」
何合目かの攻撃を終えた後、菊池先生が膝から崩れ落ちる。それもその筈、菊池先生は常に雷による身体強化の底上げによってかなり体を消耗していた。
今まで戦えていた方が寧ろ驚きなのである。
「キャアッ!」
「詩織!」
続けて疲弊していたところを黒龍に狙われてしまった佐藤さんを助けるために天草さんが身を挺して飛び出す。
一応、刀で防御はしているがその程度で黒龍の攻撃を緩和しきることなど出来ることもなく、二人共に吹き飛ばされる。
言わずもがな俺達の範囲外の戦力はすでに倒れているため、残された戦力は俺と白崎、そして黒田さんの三人だけってことになる。
想定外だな、こりゃ。一応俺も全力で戦ってはいるんだけどな。何せ黒龍の攻撃が苛烈で防御も硬すぎる為かなりの苦戦を強いられていた。
「押出君。前衛は後あなただけよ。いける?」
「ああ、いけるさ。でもちょっと
そう言うと俺はアイテムボックスの中からいつものリボルバーを取り出す。
前衛が二人以上居たならこいつの役目は無かったが、今は前衛は俺一人。
となれば思う存分暴れても良く、味方に当たることを危惧しなくて済むため、こいつの出番って訳だ。
「え、その武器って」
「黒田さん、集中して」
「あ、はい!」
黒田さんが何かに勘付きそうになっていたが関係ない。俺はリボルバーの撃鉄を弾くとそのまま引き金を引く。
「Ready for it?」
刹那、眩い光が黒龍を覆い隠す。
「グオオオオオッ!」
俺が放ったレーザーに向かって黒龍も同じく黒いブレスを撃ち放つ。
激しい力の奔流が周囲を巻き込み、それは徐々に瓦礫を食らい、空間を削り取りながら大きくなっていく。
巨大な二つの圧力によって形成された強大な重力場が支配する。
「なにこれ、やばっ……」
「うっ、
白崎と黒田さんがその衝撃に耐えかねて異能で防御を張る中、俺は淡々とその力のぶつかり合いの行く末を眺める。
あいつもあいつで中々やるな。
俺はまだまだ力が足りないと判断して更にリボルバーに込めた力を増加させる。それに応じて向こうから伝わってくる力も徐々に増していく。
互いに力を高め合っていくそれはやがてじりじりと片方へと押し込まれていく。
そしてその力比べは唐突に黒龍の力が弱まることによって終焉を迎える。
俺が放った光線が黒龍のブレスをも飲み込み、更に力を増幅させて黒龍へと激突する。
白と黒の力が入り混じった爆発が黒龍の身体を飲み込む。
そして爆煙から再度姿を晒した黒龍の姿は所々の鱗が消し飛ばされた痛々しい姿であった。
俺はその黒龍の目の前に立つと、アイテムボックスの中から『主神の槍』を取り出す。
「そろそろ終いだな」
俺の気配が近づいているのを感知したのか黒龍は少し抵抗しようと体を動かそうとする。
しかしそんな黒龍の右側を凍てつく氷塊が、左側を砂鉄の黒い塊が纏わりつき、動くのを阻止する。
「はああああっ!」
身動きが取れなくなった黒龍の体へ薙刀の形に変形させた主神の槍を無造作に振るう。
主神の槍から放たれた絶大な斬撃が防御の薄くなった黒龍の体を抉っていく。
これでも斬り飛ばせないなんて明らかにおかしい防御力してんなこいつ。
紛れもなくこれまで戦ってきた魔物の中で一番強い。
最後の一太刀を受けて立ったまま動かなくなった黒龍を見上げてそう思う。
「倒せた?」
「そうみたいだ」
白崎にそう答えると俺はフラッと体勢を崩してその場に膝をつく。
ここまで体力を消費したのは久しぶりだな。
倒せたのも何故か急に向こうの力が弱まったからだし。
当然の事ながら菊池先生達の力が無ければ掴めていない勝利だろう。
「大丈夫? 押出君」
「大丈夫大丈夫。ちょっと動き過ぎただけだから」
駆け寄ってきた黒田さんにそう答えると俺は周囲に視線を向ける。
今からこの倒れている人たちを抱えてダンジョンから脱出しないといけないのか……。
俺だけだったら一応転移石があるから今の体力でもいけるけど、この人数はな……多分無理だよな。
「白崎。今動けるのは?」
「現状あなたが無理なら多分居ないわね。私と黒田さんも最後ので力を使い果たしちゃったから」
「ごめんね」
「なるほどな……仕方ねえ。俺が転移石で送っていくか」
俺は力を振り絞って立ち上がる。俺自体は別に動けない訳じゃないからな。
あとは転移石の容量ずつ人を運んでいけば良いだけだ。
その時であった。俺の聴覚が突然消える。いや、消えた様に錯覚する。
嫌な予感がする。これ、前にもあったよな?
『突然だが今から選別を行う。碑に名前を刻まれし者へ光の戦士を送り込む。』
脳内にそんな言葉が浮かび上がった直後、俺は周囲に居る二人へ目配せをする。
二人も同じ言葉を聞き取ったようだという事が視線だけで分かる。
てことはこれはただの幻聴ではなくて、神の声ってこと。
そして碑に名前を刻まれし者っていうのはランキングに名前を連ねている白崎にもろに関係がある。
その時であった。黒龍の上空から眩い光が生じる。その光は球の形から徐々に二人の人間のような容貌をなしていく。
「……こりゃやべえかもしんねえな」
嫌な予感ってのは往々にして当たるものである。二体の光を纏った新たなる敵が疲弊した俺達の前に現れるのであった。
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