第37話 連携
菊池先生の体が宙を舞う。そして打ち放たれるのは雷によって超電磁砲の要領で超加速された拳は黒龍の鱗に突き刺さる。
轟音を打ち鳴らしながら放たれた拳はしかして黒龍の鱗を貫くことはできず、ダメージを与えられない。
それでもなお菊池先生は黒龍の攻撃を持ち前のスピードで回避しながら至る所へと攻撃を加える。
「向井、お前は休憩してろ」
「そうだな」
既に力の大半を使い果たしたのだろう。すぐにその場で座り込むと、黒龍と戦う菊池先生へと目を向ける。
「にしても菊池先生、強ええな」
「雷の異能だしな」
どんな物語においても雷の能力を操る登場人物にハズレは無い。大抵は主要人物になる程に強い。
「一時はランキングにも入ってたらしいからね」
「え、そうなのか!?」
白崎の言葉を聞いて俺は驚く。ランキングに入ったことがあるのならば相当な手練れだ。
それでどうして一高校の教師になったのかが不思議である。
「だな。一説によれば学校の教師にならずに探索者を続けてたらランキング常連になるくらいには強いって言われてっからな」
もちろん探索高校の教師っていう時点で既に強いんだろうなぁとは思っていたけどまさかそんなに強いとは思っていなかった。
ただの美人じゃなかったって訳か。
今でも他の先生たちが遠巻きでしか攻撃できていないのに対して菊池先生だけが黒龍の懐に潜り込んで戦い続けている。
「押出君。私達も菊池先生に続くよ」
「おう」
俺と白崎も黒龍に向かって走り出す。そして攻撃を終え、地上へと着地した菊池先生の下へ向かう。
「菊池先生!」
「すまない白崎。生徒であるお前を戦わせたくはないのだが、私だけではあいつを倒すのは無理だ。手伝ってくれるか?」
「もちろんです」
そう言うと白崎は目の前に巨大な氷塊を作り出し、勢いよく黒龍に向かって打ち出す。
それに対して黒龍は口から黒いブレスを吐き出し、いっぱしの魔物程度の大きさのあった氷塊は一瞬にして消し飛ばされ、有り余った力がこちらへと向かってくる。
黒いブレスが迫りくる時、横から黒い塊が飛んできて俺達を守るように包み込んでいく。
「大丈夫ですか!?」
その瞬間にその黒い塊が黒田さんの力によって操られた砂鉄の塊であることに気が付く。
砂鉄の分厚い盾が空中に作り出される。
しかしそれをも打ち砕いた黒龍のブレスは最後には白崎の氷で作り出された盾で完全に防がれる。
「こんなに強いだなんて」
威力と防御力で言えば『挑戦者の塔』の門を抜けた先にある『ユグドラシルの試練』1階層目に出てきたあの湖のドラゴンよりも強い。
でもこの調子なら体力もあいつより多いんだろうな。
30階層って俺達が通った時はこんな奴居なかったよな? この数十分程度で一体何があったっていうんだろうか?
「聞いた感じですと戦えるのは私たち姫ケ丘三人と先生方が菊池先生を含めて二人。後は……」
「私と押出君ね」
思ってたより少ないな。まあ最悪身バレ覚悟で本気出すしかないな、コレ。
「現状仕留めるのは難しいだろう。一応探索者協会へ救助要請はしておいたから私達は出来るだけこの場を乗り切る事だけ考えよう。押出、天草、付いてこられるか?」
「行けます!」
菊池先生の合図とともに俺は地面を蹴り、黒龍の方へ向かう。
「私達は後方で三人の支援をしましょう!」
「はい! リンネちゃん、付与するね!」
白崎と黒田さん、そして佐藤さんは後ろから異能でカバーしてくれる。
こちらへ襲い来る黒龍の爪は強靭な氷で阻まれ、足は凍結させられる。
爪と脚が使えなくなった黒龍は尻尾を振るうもそれを砂鉄の塊が大きな盾となってそれを防護する。
「押出は右、天草は左から攻撃してくれ」
「「了解です」」
菊池先生の指示で俺は右方へと方向転換する。空中だからムズイな。
俺が少し苦労している中で、天草さんは「加速」の異能を持っているからか、一瞬で手際よく指示された位置へと飛んでいく。
「せーの!」
凍結と砂鉄で作られた巨大な腕が絡みつき、完全に身動きが取れなくなった黒龍めがけて三人同時に俺と菊池先生は拳を、天草さんは刀を振るい、攻撃を放つ。
全身全霊を込めて放った俺の拳は黒龍の鱗を打ち砕き、ダメージを入れることに成功する。
「よし! まずは一撃」
まずまずの収穫に満足して俺は飛びのき、黒龍から少し距離を取る。残りの二人も俺の隣に着地する。
「くっ、駄目だな。表面を焦がすことしか出来ない」
「私も少し傷付けただけで終わりです」
そう言うと二人は俺が拳を放った方を見る。
「そんな防御をあんなに軽々と貫く奴が居るか」
「私なんて詩織から付与までもらってるのに……」
そして何故だか俺の方を恨みがましい目で見てくる。なんでだよ! 防御貫いたのは喜ばしい事だろ。
「この様子だと押出中心に動いた方がよさそうだ。押出、お前は気にせず黒龍の急所を狙え。私と天草は奴の足を狙う」
「「了解です!」」
そうして俺は攻撃に怯んだ黒龍を見やる。どことなく苦悶な表情を浮かべているその龍は何故だか分からないが、何者かに怯えているような、そんな気がするのであった。
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