第35話 先頭に立つ者

「シロリン、強~い」

「最強でしかも可愛いだなんて……連絡先を教えていただいても良いですか?」

「憧れの存在です!」


 相も変わらず黄色い声援が魔物を倒した白崎の方へと飛んでいく。そして俺はというと菊池先生の隣でこじんまりとしたままである。


「先生。この合同訓練って最終目標は何なんですか?」

「うん? 一応、二十階層程度をゴール地点としようと思っているが、白崎が居るからな。もう少し潜っても良いかもしれん」


 二十階層程度か。始まってから少ししか経っていないというのに既に五階層目へと到達している。

 これもすべて白崎がぶっ放し続けているのが原因だ。ダンジョンとはいえ生徒たちが訓練として潜る程度の難易度ではランキング入りしている彼女を止めることはできない。

 そして俺はというとあまり力を出さないように努めているため、未だ目立つことはできないでいる。

 まあ殴るくらいはしても良いんだけどさ、その前に白崎が全部倒しちゃうから。

 

「押出君」


 そんな時である。白崎が俺の名前を呼んでこちらへ来いとジェスチャーしてくる。

 不思議に思いながらも白崎のもとへちゃんと歩いていく。周囲にいる女子生徒達の何だこいつ?みたいな視線が痛いんですけど。


「私先頭に立つの苦手だから押出君が先頭に出てくれない?」

「え? いや全然そんな風には……」

「良いから良いから」


 そこで俺は気がつく。そうか、俺が一人で菊池先生と話しているのを見兼ねて活躍の場を設けてくれたのであろう。

 ふっ、情けないがこれで目立つことが出来れば俺もいよいよ会話の輪に入れるって訳だ。


「あと力、気を付けてね」


 そして小声でそんな事を付け足される。分かってるって。

 俺は白崎に頷くと、前方の魔物達の群れを見やる。

 一般の高校生であればすぐさま逃亡するくらいには凶悪な見た目をしている。

 しかし、探索者高校にて普段から訓練用魔物を見ている学生からすれば、強さは中の下程度。

 

「いっくぞー!」


 地面を駆けていき、魔物達の目の前で軽く飛び上がり、勢いよく拳を振るう。


 打ち出された刹那、音が遅れてやって来る。


 打ち出された拳は標的の魔物のみならず周囲に居た魔物達も一緒に巻き込む衝撃を生み出す。

 衝撃の波は一体また一体と次から次へと魔物を葬っていき、少しの間で目の前が、すっかり更地へと化す。


「よっし、倒した」


 さっきまで力を出せなかった鬱憤を晴らすべくちょっと思ってたよりも強くなったけどまあこれくらいなら大丈夫だろ。

 ジョーカーの時はほとんど殴ってないしバレることもない。


「相変わらず威力がおかしいね」

「へへっ、つえーだろ」


 後ろから白崎が声をかけてくる。白崎から見てもかなりの威力だったらしく俺はどこか誇らしげに返事をする。

 そして他の人の反応はどうなったか気になり、白崎の後ろを見やる。


「な、何あの威力」

「どんな異能? 戦闘には直結しないとか言ってなかった?」

「そういえばあの顔……どこかで見た事があるような……」


 姫ヶ丘探索高校の三人の反応はどれも好感触である。よしよし、まずは成功だ。


「押出。前々から思っていたが上級探索者に勝るほど強いな」

「いやいや、菊池せんせー、それは褒めすぎですって」

「いや、本気だ。今の威力は私でも出せないだろう……ふむ。あれにやはり押出も入れておくか」


 最後の方は独り言みたいに呟いてたから何言ってるのかはよく分からなかったけどあの文脈で貶してる事はないだろ。


「あ、思い出した! もしかして押出君ってシロリンの配信に出てたオーディン君じゃない?」

「言われてみればそんな気がするような……」

「ホントだ! 絶対オーディン君じゃん!」


 そういえば俺って一回シロリンの配信に出ていたなという事を黒田さん達に言われて思い出す。

 あの後結構いろいろあってすっかり忘れてたぜ。

 ていうか今の一回でオーディンって分かるって事は俺の顔は分かってたって事だよな?

 その事で今までどれだけ注目されていなかったのかが必然と理解できて、少し悲しくなる。


「オーディン君、強いね。私も負けてらんないな」


 そう言って黒田さんがゆっくりと両手を広げると地面から黒い砂が一気に宙へと舞い上がる。

 確か磁力使いの異能って言ってたよな? ってことはこれ、砂鉄か?

 珍しい異能だと思ってたけどどうやって戦うのか気になるな。


 やがて地中から浮かび上がってきた黒い砂すなわち砂鉄はかなりの速さで何かの形を象っていく。

 

「磁力槍!」


 黒田さんがそう言い放った直後、槍の形と成った砂鉄の塊が凄まじい速さで少し遠くの魔物へと飛んでいく。


 それから無数に生み出され、砂鉄の槍が次から次へと飛んでいく。

 そしてそれらは尽く魔物達の体を貫き、絶命させる。

 

 一粒一粒はただの砂鉄だ。だが、その硬度は明らかに一塊の大きな鉄そのものと遜色ないくらいの戦果をあげている。


「すっご……」

「強い? やったー!」


 正直俺が霞むくらいには黒田さんは強かった。え、なに?姫ヶ丘って全員こんな感じなの?


「ふふ、私も少し体を動かすか」

「あっ、付与するよ。リンネちゃん」


 今度は天草さんと佐藤さんが動き出す。

 天草さんの加速の異能によって繰り出される居合い斬りに佐藤さんの付与が乗っかる。

 そして生み出されたのは巨大な斬撃。次々と魔物を切り裂いていく。


「流石は姫ヶ丘のトップ3だな」

「え? そうなんですか?」

「ああ。あの三人なら白崎と班を組んでもちゃんと訓練になるだろうと思って組んだしな」


 いやどうりで強いと思ったよ。これが姫ヶ丘の基準だなんて言われたら最近せっかく自信が湧き始めたのにまた萎むところだった。


「この調子ならば50階層まで探索できそうだな。ひとまずそこを目標にするか」


 菊池先生の言葉に皆がハイと返事をする。

 この時はまだ知らなかった。皆の力を見て安心していたのだ。まだまだいけるのだと。

 普通ならばいけたであろう。ただし、今日に限っては運が悪かった。

 後に起こる事をまだ知らぬまま俺達はダンジョン探索を続けるのであった。

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