第34話 合同訓練当日

 ダンジョン合同訓練当日、授業が無い分少ない荷物で登校する。

 一度我が高校、天満探索高校で集まってからバスで街頭ダンジョンへ向かうらしい。

 気分は遠足気分だ。俺の鞄の中には主にお菓子が入っている。


「お、押出。珍しく早いじゃないか」


 俺が教室の席に座って今日の合同訓練のしおりを読んでいると、聞き馴染みのある声が話しかけてくる。

 無論、俺に話しかける男子は悲しい事に向井しか居ない。

 振り返ると向井が自分の席に鞄を置く姿が見える。

 俺が向井よりも早く来たのが初めてだから、新鮮な景色だな。

 

「おっ、向井か。そりゃそうだろ? 姫ヶ丘探索高校と組めるんだし」

「お前、白崎と組んでる時点でそもそも勝ち組だろ」

「いやだってあいつは俺に眼中にないじゃねえか」


 接し方からして向こうからしたら友達感覚だろう。それならこっちがやましい気持ちを持つわけにはいかない。

 これでも俺の中にある全ての理性を動員して友達として接しているのである。


「いや、そんな事ねえだろ。少なくとも話しかけられてる時点でこの学校じゃ一番眼中に入ってるだろ」

「馬鹿め。女の子は気になる人には恥ずかしくてあまり話しかけないものなのだよ」

「どの口が言ってんだか……」


 誰が年齢イコール彼女居ない歴だよ!って返そうと思ったけど、目の前のイケメンモテ男に言うと更に惨めになる気がしてやめておく。

 お、俺が彼女居なかった理由はずっとダンジョンの最深層に篭り続けてたからだからね!

 決してモテない訳ではない! 今は別に篭ってないのに彼女どころか白崎以外に喋る女子居ないけど……。


「てかお前、結構軽装だな。学校の訓練とはいえ一応ダンジョン探索だぞ?」

「ん? あー、俺これ持ってるから」


 そう言って俺は向井に懐から取り出したアイテムボックスを見せる。


「それってまさかアイテムボックスか? 100万以上する奴だよな? お前ってもしかして金持ち?」

「まあ別に間違ってないけど、こいつは買ったんじゃなくて普通に俺の異能の力で貰えた」

「あー、なんか前に言ってたクエストの報酬って奴か? そんな良い物貰えるのかよ。凄くね?」

「いやでも最初の方の報酬はゴミばっかだったし今でもちょっとクエスト達成を怠けたらすぐに報酬がゴミになるしそんな凄くねえぞ?」


 まあステータス数値が馬鹿みたいに貰えるってのは凄いかもしれんけどクエストの内容を考えたら妥当かもしれない。

 だって当時は何も思わなかったけど、今考えればダンジョン探索者初心者なのにあの『挑戦者の洞窟』に潜らされるというかなり鬼畜なことを要求されたんだから。

 それに運も良かった。

 『挑戦者の洞窟』での最初のクエストがあのダンジョンの最深層に生息しているペガサス一頭の狩猟であったのだが、この時俺は罠に引っ掛かり運良く最深層までワープできたのである。

 ――――いや、やっぱこれ運悪いな。これでもしステータス数値が報酬としてもらえなかったら今頃死んでただろ。。。ちなみにその時、ペガサスは死に物狂いで倒した。


「そういや向井の班ってどこのダンジョンに潜るんだ?」


 実はこの合同訓練、グループごとに潜るダンジョンが異なるのだ。まあそれもそうだろう。

 複数の学校が合同で訓練を行うんだから人も多いし、いかにダンジョンが広いと言えどあまりにも人口密度が高ければ訓練にならないだろうし。


「『大樹の泉』ってところだな」

「おっ、俺と一緒じゃん」


 そう言うと俺は前日に菊池先生から届いたメールを向井に見せる。


「マジかよ」

「向こうで俺が死にかけてたら助けろよ」


 とにもかくにも同じダンジョンに喋れる奴が二人いるというのは非常に心強いものだ。


「てかお前の班の担当、菊池先生なんだな」

「そうなんだよ。これがまた運良いよな?」


 生徒の間でもしばしば話題になる程の美人なウチの担任。その先生が俺の班の引率となる。

 そして俺の班は姫ケ丘高校の三人の女子生徒と組むことになる。まさに男子一人女子五人のウハウハランドそのものなのだ!


「楽しみだ~」


 俺はウキウキとした心を胸に秘めながらその時を待つのであった。





「し、シロリンさん! いつも配信見てます!」

「シロリンさん! 握手してもらえませんか!?」

「シロリンさん」

――――――

――――

――


 現実は悲しい物である。俺が待ち遠しかった女子五人とのウハウハダンジョン攻略は、蓋を開けてみれば白崎の下へと姫ケ丘高校の三人が集まり、俺の隣には誰も居ないまさに蚊帳の外状態。

 あれ? なんでだろう? 嬉しい筈なのに目が潤んでる気がする。

 ダンジョン『大樹の泉』に着いて合流してからというもの常にこんな感じだ。


「こらこら、白崎へのアプローチするより先にまずは互いに自己紹介をしてもらうぞ。ダンジョン探索においてパーティメンバーの情報を知っておくことは極めて重要だ。名前とどんな異能を使うのかを教えてくれ」


 菊池先生の言葉で姫ケ丘高校の三人は白崎への声掛けを止める。ただ、視線はずっと白崎の方を向いているが。


「まずは白崎から頼んだ」

「はい。白崎瑠衣と申します。異能は主に氷を操ったり、敵を凍らせたりできます。よろしくお願いします」


 白崎の挨拶はいつも通りの簡潔さだ。ファンが目の前に居るからと言って過剰なサービスをする事は無い。

 ていうかシロリンの時もいつもこんな感じか。


「はいはい! 私の名前は黒田あかねです! 学校ではテニス部に所属しています! 磁力を操る異能です! よろしくお願いします!」


 白崎の次に自己紹介したのは短髪で快活な少女。

 それにしてもその感じで意外と技巧派チックな磁力の異能を使うのか……それはそれで気になるな。


佐藤詩織さとうしおりです。私の異能は付与です。それぞれの武器に適合した能力を付与することが出来ます。よろしくお願いします」


 今度は少し大人しめの長髪の女性。武器に付与できる異能か……この時点で俺との接点は消え去ったと言っても過言ではないだろう。

 何故なら今回、俺はジョーカーの使う武器は使えないため、拳のみで探索をするつもりだからだ。


「初めまして。天草リンネと申します。異能は加速です。自分の体だけじゃなく、触れたものも加速させることが出来ます。得意武器は刀です。よろしくお願いします」


 最後のポニーテールの女子は武道やってそうな雰囲気だな。それに加速の異能と刀の組み合わせってあまりにも解釈一致過ぎる。

 次は俺か。あまりにもアウェーな雰囲気は醸し出されているが、仕方あるまい。


「押出迅です。戦闘では基本的に拳で殴るだけです。戦闘に直結する異能は持ってません。よろしくお願いします」


 異能の名前は敢えて伏せておく。どうせ言っても言わなくても変わらないし。

 俺の自己紹介が終わった瞬間、姫ケ丘高校の三人からの視線が奇妙な者を見る物に変わる。

 拳でしか戦わないならただの一般人じゃないかとか思ってんじゃないだろうな、おい。

 いや、俺の言い方が悪かったな。戦闘に直結する異能は持っていないとか言ったから。


 でも事実だよな? 攻略者に戦闘へ直結する能力は存在しないし。


「私は今回この班の引率を任された菊池だ。一応白崎と同じく上級探索者でもある。よろしく」


 最後に菊池先生が話して自己紹介は終わる。そしていよいよ、高校合同のダンジョン探索が始まるのであった。

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