第32話 合同訓練のペアは突然に降ってくる

『ジョーカー、イグナイトの宣戦布告を受け、余裕の笑み! 勝利を確信か!?』


 デカデカとそう書かれたネットの記事を見て男は上がっていた口角をさらに上げる。

 

「フフッ、やはり面白くなった」


 まるで分かりきっていたかのように呟くと、男は配信の画面を見る。

 そこに映し出されていたのはネットの記事を見ていた男、イグナイトの配信、そして隣にはジョーカーの最新の配信である。

 どちらが強いか、その論争は配信を重ねるたびに激化していく。

 そしてそれはやがて激動の渦となってイグナイトとジョーカーを取り囲むのである。


 そんな時であった。

 コンコンと金色が散りばめられた豪奢な部屋のドアをノックする音が聞こえる。


「入れ」

「失礼する。イグナイト」


 そうして入ってきたのはいつぞや、日本にも顔を出していた米国探索者協会会長のブラッド・アルバートであった。

 彼は入室するや否やワインを片手に睨みつけているイグナイトに物怖じすることなく、前のソファに腰かける。


「何の用だ?」

「私からの要件はこうだ。前みたいに部隊を引き連れてダンジョン攻略をしてほしい。お前の力が無いと後継が育たん」

「ケッ、またその話か。そんなつまんねーことより今は楽しいことがあんだよ。邪魔すんな」

「まったく。やっとダンジョン配信を始めてくれたかと思えば……どうしてもダメか?」

「ああ。今はな。面白い奴が久々に出てきたからな。見ろよコレ」


 そう言ってイグナイトは嬉しそうにジョーカーの配信の画面を見せる。


「ジョーカーだろ? 知っているに決まってる」

「知ってんなら俺の気持ちも分かれよ。今、面白えどこなんだ」

「面白いどうこうじゃない。国の存亡が懸かってるんだぞ」

「大丈夫だ。俺がいる限りこの国が滅ぶこたぁねえ」


 そう言うとイグナイトはもう話は終わりだと言わんばかりに立ち上がる。


「イグナイト。お前がそんな感じだろうと思ったから、興味を惹きそうな催しを考えてきたのだ」

「ほう?」


 すっかり話に興味を失っていたイグナイトがブラッドのその言葉にやっと興味を持ち始めたような声を出す。


「世界中から強者を募り、お前と戦わせる。それで選抜するんだ。あのダンジョンの攻略パーティを」

「そういうことを早く言えってんだ」


 そうしてイグナイトは再度椅子にどかっと座るのであった。





『10階層を攻略せよ』


 クエストが大分鬼畜になってきた。

 俺の『攻略者』っていう異能は定期的に暴力的に難易度を上げてくる。

 最初の方でこれがあった時は何十年後にクリア出来るのだろうかと呪ったものである。


 まあ何とか死にかけながら達成してきた訳だけど、今回の場合はある程度俺が強くなっているから比較的楽ではあるけど。

 

「……押出!」

「わったっ、な、何だよ」


 考え事をしている俺の背中にとてつもない声量と肩を叩かれる感覚が襲う。

 振り返るとそこに居たのは少し不思議そうな顔をした向井であった。


「何回も声掛けてんのに返事しねえから寝てんのかと思ったぜ」

「わりい、わりい。考え事してた」

「へえ、どんな?」

「大したことねえよ。突然空から美少女が降ってこねえかなとか。そんで始まるラブストーリー……」

「え?」


 俺の言葉に予想していた方向とは全く違う方向からそんな声が聞こえてくる。

 あれ? いつの間にそっちに移動してたなんて変な事を考えながら振り向くと、今度はそこに白崎の姿があった。


「うん? あ、いや違うぞ。もしもの話だからな」

「そ、そうだよね。もしもの話だよね。そう、もしもの話……」


 別に変なことは言ってなかったよな? 白崎の反応がおかしかったから変な反応しちまったけど。


「何言ってんだお前達?」

「いや、俺も何言ってんのかあんまり分かってねえ」


 実際、何に焦っているのかも理解していない俺はまっすぐに白崎を見る。

 しかし白崎は何かの言葉を反芻しているだけで、大した収穫は得られなかった。


「そういや向井は結局何が聞きたかったんだ?」

「あれだよ。合同訓練。あれ二人一組で他の高校と班を組むだろ? お前は誰と組むか決まったか?」


 そういえばそんなのあったな。イグナイトに喧嘩売られてから影が薄くなっていたイベントを思い出す。


「忘れてたってなぁお前。姫ヶ丘探索高校にめちゃくちゃ楽しみにしてた癖に」

「そ、そうだった!」


 俺は何て馬鹿なんだ! そんな事を忘れていようとは!

 じゃあ選択肢は一択! イケメン、高身長、高スペックの向井をペアにすれば……。


「押出君は私と組むよ」

「ん? へ?」

「何だお前。やっぱ覚えてたんじゃねえか。そうか、白崎と組むのか。じゃあ俺は別を探さねえとな」


 いつの間にか俺のペアは決まっていたらしい。うん? そんなこと言ってたっけ?

 そう首を傾げている俺に白崎がこう耳打ちをしてくる。


「あなたの正体を知っている私と組んだ方が安心でしょう?」

「な、なるほど」


 さすが白崎である。確かにダンジョン探索でならぽろっと俺の正体に迫る何かを見せてしまいそうだ。

 それを俺の正体も知っていてかつランキング上位者の白崎が「大したことないわよ」と一言言うだけで危険度が下がるということだ。


「す、すまねえな。俺のペアは白崎しか考えられねえ」

「ちょっ、そこまで……」

「みたいだな。まあ、予想はしてたぜ」


 向井なら良いペアがすぐ見つかることだろう。これで余ったのがまた俺とかじゃなくて良かった。

 そう俺が胸を撫で下ろした横で白崎は謎に顔を赤くしているのであった。

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