第31話 巨人の力
「巨人ですか……初めて見ましたね」
果たして魔物と言っても良いのか人と言っても良いのか。ただ、顔はいわゆる普通の人のようではないため、一応魔物っていう分類なんだろう。
「取り敢えずこちらに向かってきているようですのでもしも危害を加えてくるようならば応戦します」
『巨人とかマジかww』
『デカすぎんだろ』
『俺もあんくらいでかかったらモテるのになぁ』
『元気出せ同志よ。モテないのは多分身長のせいだけじゃないぞ☆』
『↑ひどすぎワロタww』
おいおい、相変わらず緊張感のないコメント欄だな。
取り敢えず俺は迫りくる巨人の下へと走り出すと、手を大きく振ってみる。
「言葉が分かるなら返事をして……」
俺が言い終わるよりも早く目の前を巨大な影が覆う。
くそっ、やっぱり魔物だこいつ!
意思疎通ができるならなんて舐めたこと思ってた。よく考えたらここダンジョンだしそりゃ無いか!
凄まじい勢いで打ち出された巨人の蹴りをすんでの所で回避する。
そしてアイテムボックスの中から『主神の槍』を取り出すと巨人の顔めがけて思い切り放り投げる。
手から離れればまるで生き物のように巨人が払うのを避けていき、そして遂には巨人の顔に突き刺さる。
あの槍で貫通しないのかよ!?
少し戸惑いながらも俺は巨人の体を駆け上がっていき、顔目掛けてリボルバーを構える。
そして撃鉄を弾くと、引き金を引く。
巨大なエネルギーが渦巻き、一本の太い線の輪郭を辿って巨人の顔に激突する。
苦悶の声を上げて巨人は無造作に拳を振るう。
適当に打ち出された攻撃が簡単に当たる筈もなく、ヒラリヒラリと蝶々のように避けながら、刺さっている主神の槍を握る。
「申し訳ありませんが、返して貰いますね」
そう言うと勢いよく槍を引き抜き、そのまま薙刀へと形を変えて横薙ぎに大きく振るう。
一閃。放たれた斬撃は巨人の顔面に大きな切り傷を残し、その勢いを失う。
『かってえええ!!!!』
『今までの魔物と格がちげえww』
『え、これって倒せんの?』
今までがサクサク倒せていたからだろう。コメント欄ではその多くが俺の攻撃にビクともしない巨人の防御力に関するものが飛び交う。
俺からしてもこの巨人は今まで戦ってきた魔物の中で一番硬いし、たぶん強い。
俺が顔面を斬りつけている間、巨人の手の方向から大きな力が蓄えられていくのを感じていた。
危険を察知し、素早く飛びのく。
刹那、俺の身体を凄まじい勢いの炎が掠める。
見ると、巨人の手にはいつの間にやら炎に包まれた剣が握られていたのである。
その炎の剣は一振りすれば周囲が密林であることも相まって広範にわたって燃やし尽くしていく。
近くにある小川は干上がり、木々は一瞬で燃えカスとなってその場に積もる。
たった一振りで焦土の大地と化したその風景はまさに圧巻の一言である。
攻撃力だけで言えば俺を遥かに超えているだろう。
「強すぎますね」
このダンジョンに来てから初めて生まれた魔物への恐怖心。それこそ一番最初にクエストをこなすためダンジョンを潜った時に感じたあの恐怖心と同じくらいの。
「皆さん、敵は今までで一番強い魔物です。ですが、私にかかればそんなのは大したことではない。それをご覧に入れましょう。それでは……」
燃え盛る剣を握りしめる巨人に向けて俺はリボルバーを向ける。
「Ready for it ?」
そう言うと全身全霊の力を込めた一撃を放つ。
ステータス数値2億を余すことなく使ったその一撃は反動も凄まじく、俺の周辺の大地が割れていく。
そうして打ち出された光線に対し、巨人はその手に持つ焔の剣を振りかざす。
両者の攻撃が交わった時、世界が白い光と赤い光の二色に覆われる。
一方は鋭く洗練された力で、もう一方は世界を滅ぼさんとするほどに獰猛で豪快な力。
『すんご』
『凄すぎ!!』
『いやこれカメラ大丈夫? 壊れない?』
『おい皆急いで目に焼き付けとけ! カメラの耐久が終わる前に!』
『どう考えても両方とも化け物すぎるww』
『イグナイトなんて比じゃねえわwwお前がファーストだ、ジョーカー』
『イグナイト? こっちはジョーカー様だぞ?』
盛大に盛り上がるコメント欄を見て俺は仮面の裏側でニヤリとほくそ笑む。そうそう、こういうのが見たかったんだよな。
未だ衝突し続けるリボルバーの銃撃と炎の剣。
永遠に続くかと思われた双方の攻撃はしかして突然に終焉を迎える。
その身には収まりきらんほどのエネルギーを撃つ側へ留め、外部から更なる強力なエネルギーを受け続けた巨人の剣が半ばからポッキリと折れたのである。
それから威力を失った巨人の攻撃は徐々に押されていき、やがて巨人の体はエネルギーの渦へと飲み込まれていく。
「グオオオオオオッ!!!!」
獣のような叫び声をあげて体が吹き飛びそうになるのを両足で踏ん張って耐える。しかし、そのエネルギーの渦に耐えかねた体が徐々に崩壊を始める。
かろうじて防御に徹していた腕が、腕が消滅すれば次は胴体が。
天にも届くほどの巨体はやがて膝をついて半分の高さになり、遂には地面へと倒れ伏す。
ズーンと地面へと沈む重厚な音が周囲に響き渡る。
そして巨人はそこからピクリとも動く事は無かった。
俺は遂に巨人を倒せたことを理解すると、カメラの方を向く。
「どうでしょう? これを見れば私に噛みついてきた方と私、どちらが強いかは明白ではないですか?」
『うおおおお!!!! かっけええええ!』
『イグナイトがあの巨人に勝てるとは思えんし、ジョーカーの完全勝利だなww』
『なんかもう人類の命運はジョーカーに託されてんだなって分かるよね』
『ジョーカー! お前がナンバーワンだ!』
コメントの流れが通常の10倍くらいに膨れ上がる。
流れゆくコメントを満足げに眺めていると、俺の頭の中に声が響き渡る。
『クエスト達成。報酬を送ります』
そうすると俺の手元には一本の剣が落ちてくる。何だろう? この剣。
まあいい、取り敢えずクエスト達成ってことは多分ここから3階層に続く道がどこかにある筈だけど。
そう思って周囲を見渡すと目の前に倒れている巨人の体が突然白い光を放ち始める。
あまりの眩しさに思わず目を閉じてしまう。仮面越しでもこんなにキツいのかよ!
そして次に目を開いた時には目の前に一本の螺旋階段が遠くダンジョンの天井へと続いていた。
「これが次の階層という事ですかね。何とも妙な演出ですが、今回の配信はここまでとなります。それでは皆様、Have a good time♪」
そう言って俺はその日、配信を閉じるのであった。
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