第30話 対立
「皆様、今宵も私のショーに来ていただきありがとうございます」
今日も仮面を被り、ロングコートを羽織るとカメラをつけ挨拶をする。
『待ってたぞー』
『待ってたよ』
『イグナイトの件どうなってる?』
『配信感謝』
『イグナイトに喧嘩売られてんぞww』
いつものコメントに混じって明らかに異様なコメントが流れていく。
イグナイトの配信で攻撃的に俺の名前が出されたからだろう。
視聴者はジョーカーとイグナイトの対立を待ち望んでいるのだ。
それが知れただけでも今日の配信には意味があるものとなる。
俺は行動を起こしたくなかった訳じゃない。
視聴者が望まない行動を起こしたくなかっただけだ。
しかし、今大半の視聴者が求めているのは人類最強とジョーカーとの対立。
ならば請け負おうではないか。
俺は挑戦者の塔の二階層へと転移し、リボルバーを取り出す。
「やれやれ、どうやら血に飢えた獣に喧嘩を売られてしまったみたいですね」
イグナイトが潜っていたダンジョン。あれは実は俺が潜っている挑戦者の塔と同じダンジョンらしい。
イグナイトの配信が世界へと拡散された時、そのあまりにジョーカーの配信と同じ見た目のダンジョンであったため、話題となった。
実はジョーカーがアメリカの探索者なのではないか、もしくはイグナイトが日本に来ていたのではないかなどと。
しかし実際は同一のダンジョンが世界に複数以上存在しているのだと日本とアメリカの探索者協会から発表された。
同じダンジョンならば単純に力比べをするのにはうってつけである。
だからこそイグナイトは俺が攻略したのに対抗して一人で1階層を攻略して配信を終えたのであろう。
「真の実力者というものには興味ありませんが、受けて立ちましょう。そちらの方がきっと見ていて面白いでしょう?」
だから俺はそれを越えていく。目指すは2階層目の攻略だ。
目の前に広がるのは1階層の時と大して変わらない密林エリアだ。
辺りを警戒しながら走る。走らないと今日中にクリアは不可能なほど広いからな。
しばらく走り続けるも特に何の変哲もない風景が過ぎ去っていくだけ。
これじゃあせっかく息巻いてたのにイグナイトに対抗する姿が映すことが出来ないじゃないか!
半ばヤケクソになって走り続けるも、途中でとある事実に気が付く。
「……ふむ。この道。先程も通りましたね」
やけに大きな切り傷のある大木。それを何度か目にしてようやく俺が同じ場所を延々と走り回らされていることに気が付く。
『さっきと同じ場所?』
『そんなこと有り得るの?』
『錯覚? それともそういう能力?』
『ぶっ飛ばしちゃえ☆』
「それもそうですね」
俺はコメント欄のぶっ飛ばしちゃえという意見に同意すると、ホルスターからリボルバーを取り出し、切り傷の付いた大木に向ける。
「Good bye♪」
銃口から凄まじいエネルギーが束となって飛んでいく。
想定外の威力だな。前のクエストでステータスの数値が2倍になったからか、ステータスの影響をもろに受けるリボルバーの威力が大幅に上がってるみたいだな。
そして想定外に膨れ上がったエネルギーの塊は大木、大地、岩など数多ある風景を消し飛ばしていく。
うわ~、これ現実世界でやったらすんげー環境破壊で叩かれるんだろうなー。
『えっぐ……』
『やり過ぎで草ww』
『ダンジョンの一仕掛けに放つ攻撃じゃねえww』
『てか今の一撃で既にイグナイトより強いんじゃね?』
『どうだろ? 俺は同じくらいに思えたけど』
『いやあっちは武器なしであの力だぜ? 武器アリと武器ナシで同じくらいの力ならイグナイトの方が強いだろww』
『イグナイトはそもそも武器使ったりしないだろ? あれ以上強くなることが無いんなら結局二人の力は拮抗してるって言えるじゃん』
何かコメント欄が事あるごとにイグナイトと俺を比べてくるなぁ。まあ別に俺としては完璧究極的にクールな配信が出来れば良いとかいう自己満足でしかないから何とも思わないけど。
あ、でもここはプロレスなんだからちょっとかましとくか。
「なるほど、イグナイトさんの全力はこの程度なのですね。私としてはかなり手心を加えたつもりなのですが」
思っていたより強い一撃ではあったが、全力ではないことは確かなので俺は煽るようにそう告げる。
「さてと、見晴らしも良くなったところでこれ以上迷う事は無いと思いますが……」
そう言った俺の耳に僅かではあるが遠くの方から地響きのような物が聞こえてくる。
妙に魔物に遭遇しないなと思ってたけど、魔物があまり居ないんじゃなくて能力で閉じ込められていたから遭遇してなかったんだな。
そんでこっからが本番って訳だ。
「居ましたね。あれがこの階層の主でしょう」
『やっばくね?』
『配信越しで初めて魔物に怖いって思ったんだけど』
『人? 魔物?』
『あんなの見たことねえww』
遠くの方に高く聳え立つ二本の足が地面を踏みしめている。天にも昇る程背の高いまるで人のような巨大な何かがこちらに向かって歩いて来ているのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます