第29話 世界激震
「天院君。彼をどう見る?」
「背丈や声がまるで違いましたし、ジョーカーではないでしょう。先生のステータスの数値を超えていたのは少し気になりますが」
「まあすでに老いぼれた私の数値を超えていても何ら違和感は無いさ」
「そうでしょうか? 全然まだ現役の上級探索者としてもやっていけそうなのですが……先生はどうお考えなのですか?」
「私はだねぇ。これと言って何も分からんな! ハハハッ!」
天院の問いかけに対して豪快に笑い飛ばす柳生。それに対して天院は怪訝そうな視線を向ける。
何も考えていない、そう言っているようには見えないほどにその目は笑っておらず、鋭いままであったからである。
それは不確かな事は言わないが明らかに何かを疑っている眼差しである。
「兎にも角にも今日会えたのはかなりの収穫だったな……そういえば天院君。君に探索者学校のダンジョン実地訓練で引率の仕事があったんだった」
「え、初耳ですけど」
「いや、すまんすまん。忘れとった。わはははは」
「笑い事じゃないですけど」
天院からすれば引率の仕事など簡単にこなせるだろう。
ただ協会外部へと仕事で出るのであれば早く知っておくに越した事はない。
「資料は渡しとく。任せたぞ」
「……はい」
そうして不満げにしている天院に渡された資料。その資料の端っこの方には小さく天馬探索高校と書かれているのであった。
♢
『おい! イグナイトがダンジョン配信始めたってヤバくない!?』
『今まで写真でしか見たことなかったから実際に配信見るとヤベーな』
『なんでもアメリカの探索者協会が配信を始めるように言ったらしいな』
『てかタイトル喧嘩売ってんだろww! ジョーカーよりも強い、真の強者の実力がこちらです、だってよww』
『対抗心燃やしすぎww』
『いや面白いっていうかフツーに失礼だろ……』
『良いんじゃねえの? これで双方やり合ってくれた方が楽しいじゃん』
『そうそう。だってフツーにイグナイト、ジョーカーの事フォローしてんぜ? 目障りとかじゃなくてじゃれあいたいだけだろ。肝心のジョーカーはシロリンしかフォローしてないけどww』
ネットを開けば次から次へと人類最強の男と呼び声の高いイグナイト・ライオンハートの話題が飛び交っている。
今までメディアの露出を避け、黙々とダンジョン攻略の実績だけを重ね続けた男の初めての大々的な公共機関への露出。
それは海を越え、日本にまで広く伝わっていた。
初配信の再生回数は配信開始して数日にして数億回再生。
配信を開くと筋骨隆々な男の背中が映っている。
まるで見ていろとでも言いたいのか無言のまま魔物に向き合っている。
そして拳をゆっくりと引く。筋肉が引き締まっていくのが見てとれるほど隆起した筋。
次の瞬間、映し出された映像は拳から放たれた凄まじい衝撃波。
それは目の前の魔物どころか大地を削り、遠くに見える小高い丘すら吹き飛ばす。
「豪快」、その二文字がここまで似合うものはそうはいないだろう。
未だに地煙が収まらぬ衝撃の跡に背を向けてようやくカメラへその顔を見せる。
野心が沸るその顔には豪快な笑みが浮かんでいる。
「よお、ついてこれるか?」
そうして配信は激烈な勢いを止める事なくそのダンジョンの一階層目を攻略して終わる。
それもたった一人で。
『エグくね?』
『イグナイトの異能ってなんだったっけ?』
『確か
『イグナイトやっぱ強ええw』
『単芝定期』
『ジョーカーなんて比じゃないな』
『イグナイトのステータスは2000万ぐらいでジョーカーが1億ある時点でジョーカーの方が強いのは明白なんですがww?』
『そもそもイグナイトの数値は何年も前のまだルーキー時代の話だし今はもっと上がってるだろ』
『そうそう。それにジョーカーの1億もホントかどうか怪しいからね』
一通りコメント欄を見るとイグナイト支持が優勢でジョーカーについては懐疑的な視線を向ける人が多いみたいだ。
「どう反応したら良いものか」
俺はその一連の流れを見て頭を抱えていた。
どう立ち回ってもイグナイト格好いいってなりそうで癪なんだけどな。
「仕方ない、やるか」
俺は立ち上がるとクエスト画面を確認する。
『ユグドラシルの試練、第二階層を攻略する』
クエスト達成がてら配信するか。そう心に決めた俺はすぐ外へ駆け出すのであった。
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