第28話 確信
「ジョーカーについて何か知っていることはありますかな?」
柳生さんが直球で切り出してくる。
知っているどころか俺が本人なわけだが、知っていないという意思を示すべく首を横に振る。
「もちろん私はジョーカーについて多少知っていることはあります。しかし彼は私の命の恩人であるため、秘密を口にすることはできません」
配信でコラボしていることが周知の事実としてある白崎は柳生さんの質問にそう返す。
命の恩人……今まで白崎の口から聞いた事が無かったその言葉はどこか俺の心をくすぐるものがある。
普段の白崎はツンツンしているからか余計にむず痒い。
「まあそのお返事は予想しておりました。元々、藁にも縋る思いで貴方がたを呼んだものですから。ジョーカーについて聞くのはここで諦めましょう」
お? 中々潔く引き下がるな。もうちょっと粘ってくるかと思ったけど……それはそれでなんか違くないですか?
もうちょっと俺(ジョーカー)に興味持てよおおおお!
「ただ、ジョーカーについて聞く代わりにお願い事をしても宜しいでしょうか? もうすぐ探索者協会で実施しようと思っている『挑戦者の塔』の大規模攻略部隊。それに白崎さんも参加してほしいのです。もちろん配信可能です。それにつきましてジョーカーにもこれに参加するよう伝えていただきたく思いまして」
「ジョーカーも参加ですか……」
茶を飲む仕草に交えてこちらを見てくる白崎。恐らくこれくらいなら良いのではないかという意思表示であると認識した俺はゆっくりと目を閉じる。
元々、決めていた合図だ。はい、なら目を閉じていいえ、なら無視する。
「本人にも聞いてみなければわかりませんが、一応お伝えさせていただきます」
「本当かい? それは良かったです。これも断られてしまったらいよいよジョーカーと探索者協会との繋がりが無くなってしまうもんですから。あ、そうそう。それと実はお二人に面白い物を見せようかと思っておりまして」
そう言うと柳生さんは何やら得体のしれない物体を取り出す。金属製で筒状の物体だ。何だろう? 大きさも加味したら万華鏡みたいだけど。
「魔法筒ですね」
「白崎さんはご存じでしたか。かなり希少価値は高い筈なのですが」
「この前、運よく手に入れることが出来まして」
白崎はその物体が何であるか知っているようである。俺だけ置いてけぼりを食らっている最中、柳生さんの瞳がこちらへ向く。
「これは自分よりもステータスが低い方であれば数値を覗き見ることが出来るという少し変わった道具でしてね。これで押出君のステータスの数値を見せていただきたいのです。恐らく探索者登録をしていただいた時よりも大幅に上がっている気がしますので」
「俺のステータスの数値をですか? 別に良いですけど」
「え、良いの?」
「ん? 別にいいだろ。減るもんじゃねえし」
何なら教えても良いんだけどな。白崎いわく滅茶苦茶高いらしいから見られて恥ずかしい事は無い。それにステータスが見られたところで俺がジョーカーと結び付けられる根拠は何もないし。
「ありがとうございます。それでは失礼して……ほう。これは驚いた。私程度では見えませんか」
「本当ですか!?」
柳生さんの言葉で隣にいた天院さんが驚きの声を上げる。
おお、これ意外と気分良いな。あまりにも蚊帳の外過ぎて今日俺って何しに来たんだろうって途中まで思ってたけど、まさか最後にこんなイベントが起こるなんて。
「まさか先生よりもステータスが高いなんて……」
「まあ流石に天院君が見てくれたら見えるだろう。そうでなければランキングに名前がある筈だからね。良いかい?」
「ちょっと待ってください」
俺が了承しようとすると、隣から待ったをかける声が飛び出してくる。
「申し訳ありませんが押出君は私の配信に出てくれた唯の一般人。これ以上の詮索は止めていただきたいです」
「これはこれは失礼いたしました。私よりも高い数値と知って、つい興奮してしまいましたね」
白崎の言葉に素直に応じて柳生さんは持っていた魔法筒を机の上に置きなおす。
「流石に天院君が見ればステータスの数値が分かってしまうでしょうからね。そこは個人情報、ということで」
「ハハハッ、そうですね」
コメント欄で言われていたことを思い出す。ランキング2位でもステータスの数値が2000万だという話。
ただ、俺のステータスはあの破格なクエスト報酬のお陰で現在は2億ある。天院さんが見ても俺の数値は見えないだろう。
これでランキングに名前が載るんじゃないかとウキウキしていたが結局先週と並んでいる名前は変わらなかった。
あのランキングはステータスの数値だけじゃないのか、なんて考えていたけど流石にそれくらいの差が開いていてランキングに名前が載らないのはおかしい。
いや自分で言うのもなんだけど。
だから最近、白崎から言われたファーストっていうのが本当なんじゃないかなんて思い始めている。
馬鹿にされそうだから誰にも言わず胸の内に秘めているけどな!
神様も神様だ。俺じゃないなら俺じゃないでさっさとファーストの文字化けを直しやがれ!
「ただ押出さんも有望な若手探索者であることが分かったのは我々にとっても収穫ですな。以降、よろしく頼みますよ?」
「まあまずは上級探索者にならないといけませんけどね」
それから少し他愛もない会話をしてお開きの流れとなる。
「いやはやもうこんな時間になりましたか。これ以上引き留めても悪いのでもうここいらにしましょうか」
「あ、最後に質問しても良いですか?」
「構いませんよ。何ですかな?」
「過去にステータスの数値が低い人の方がランキングが上位になった例ってありますか?」
「ありませんな。ランキングが現れた時から一度たりとも」
柳生さんはそう断言する。そんなことはあり得ないと言う様に。
答えてくれた柳生さんに礼を告げる。そして俺の中で抱いていた疑問がほぼ確信へと至る。
「今日はありがとうございました。吉報をお待ちしておりますね」
柳生さんが最後にそう告げ、俺と白崎は会長部屋を後にするのであった。
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