第23話 コラボ配信の続き

『す、すげー』

『何? 強すぎない?』

『あの魔物見たことないんだけど、何て魔物?』

『見た目からしてドラゴンなんだろうなぁ』

『ドラゴンとかダンジョンで見た事ねえww』

『絶対強いだろうし、そんな魔物を簡単に倒せるジョーカーってホント何者なんだ?』


 コメント欄が流れていくのを横目で確認しながら俺は持っているリボルバーで上空を飛ぶレッドドラゴンを撃ち落としていく。


「ふー、これで十体目か。ここら辺は少し魔物の数が多いですね」

「ちょっと最初から飛ばし過ぎじゃない?」

「何を仰いますか。今日中にこのダンジョンの1階層目をクリアするのならこのくらい早く進まないと無理ですよ」


 上空に飛んだ時に見たあの広大な景色。アマゾンのジャングルが丸々一つすっぽりと収まりそうなくらい広いんだし。

 俺が以前潜り続けていた『挑戦者の洞窟』よりも遥かに広い。これだけ進んでもまだ端が見えないくらいなんだから。


「違うの。速すぎてドローンカメラが付いてこれてないのよ」

「おっと、それは良くないですね」


 配信初心者ならではの失敗なんだろうな~。全然カメラの事を意識してなかった。ていうかいつの間にかシロリンの俺に対する口調がタメ口になってるんだけど。


『速すぎてカメラが付いてこれないなんて聞いた事ねえww』

『配信者なんだからカメラ意識しろww』

『ジョーカーにも結構お茶目な所があるんだね』


 あ、配信初心者でもあまりしない失敗なのね。


「そういえばシロリンさんはまだ疲れていないですか? そこら辺で休憩でもしようと思いますが」

「そうね。ちょっと近くの水辺かなんかで休憩しましょう。その間、コメント欄からあなたへの質問とかもしたいし」


 そうして次に見つけた大きな湖のほとりにある岩に背を預け、二人して座る。


「それでは質問コーナーをしていきたいと思います。皆さん、ジョーカーさんもしくは私に聞きたいことがあればコメントで教えてください」


『ジョーカーの正体は?』

『ジョーカーってランキングに入ってるの?』

『ジョーカーの年齢は?』

『シロリン結婚してくれ』

『ジョーカーの異能ってどんなの?』


 ほとんどのコメントが俺に対するもので溢れかえる。何か一つ様子が違うものはあったけど。


「正体や年齢などの個人情報は教えられませんね。ランキングは入ってません。異能はとある条件を達成すれば便利な道具を貰うことが出来るといったあまり戦闘に向いていない異能ですかね」


 まあステータスの数値も貰う事はあるけど、シロリンみたいに戦闘に直結するとは言えないからな。


「私の攻撃手段は主にこのリボルバーですが、たまにこちらの槍を使うこともありますかね」


 そう言って俺はアイテムボックスの中から一振りの大きな槍を取り出す。『主神の槍』というもので、リボルバーを当てにくい敵に対してはこちらの槍で戦う事もある。


「ていうかそのリボルバーも槍も見たことないんだけど」

「あー、これは私の異能で手に入れたものですので。ですが一応ダンジョンから出土される物のはずですが」


 まあこれに関しては俺の感覚だけど。最初の方はタダの日常品で、クエストをこなすごとにドンドン品質が良くなっていき、最終的にはダンジョンから手に入るアイテムボックスなんかが報酬として出始めたからそう思ってるだけだし。

 ちなみに大扉を開けっていうクエスト、大分時間が経過した後に達成したけどその後の報酬には何も響かなかった。

 多分あれは特殊なクエストだったんだろうな。


『エネルギー弾を放つ銃なんて聞いた事ねえww』

『そんなヤバそうな武器が出てくるダンジョンってどこのダンジョンだよww』

『多分あれって売ったら相当高そうだよな?』


 まあリボルバーとかこの槍はカッコいいから持ってるけど別に今まで散々クエストで手に入れた報酬は売ってきたし、金はそんなに今は要らないかな。


「このリボルバーは自分のステータスの数値を使って放つっていうよく分からない仕組みなんですよ。そもそもステータスっていうのが未だによく分かってませんしね」

「試しに私にも使わせて」

「良いですよ」


 俺はシロリンにリボルバーを渡す。


『シロリンがどれだけ強いのが撃てるか気になる』

『シロリンって確か数百万とかだったよね? ランキングに入ってるシロリンならもっと凄いんじゃない?』


 コメント欄から期待の声が多数上がる。

 俺自身も他人がこのリボルバーを撃ったところを見たことが無いから実は気になってたんだよな。


「行くよ」


 撃鉄を弾き、シロリンがリボルバーの引き金を引いた次の瞬間、半径10cm程度のエネルギー弾が放たれる。

 俺のよりかはずいぶん小さいが、しかし威力は十分なようで近くにあった背丈よりも大きな岩を貫通する。

 そして着弾した場所には広範にわたって氷の膜が張り巡らされている。


「あなたのより大分小さいね」

「いや威力は十分凄いですよ。それに見てください。私のとは違ってエネルギー弾に属性が付与されてますし」


 やはり異能の力によって弾の属性が変化するんだなと感心する。


『シロリンであの大きさ……あんな太い光線を出せるジョーカー凄すぎない?』

『少なくともシロリンの百倍くらい……って億!?』

『いやいや流石にそこまではいかないだろ。多分ジョーカーが属性を付与していない分出力を大きく出来るんだよ』

『それに慣れもあるだろうしね』


「ああ、私のステータス数値は1億ほどですよ?」


 そういえば言ってなかったなと思って俺はそう告げる。その瞬間、シロリンが何故か呆れたような顔をこちらに向けてくる。


『1億っ!?』

『は? 強すぎんだろww』

『ランキング2位でも2000万くらいじゃなかったっけ?』

『もうジョーカーがランキング1位だろこれww』


 一瞬、何かいけない事でもやっちまったかなんて思ったが別にステータスの数値を知られても特定されないから大丈夫かと思い改める。

 だって学校とかでもステータスの数値測ってないしな。


「もうちょっと情報の出し方には気を付けた方が良いわ。私は本名がバレてるからあれだけど」

「す、すみません。気を付けます」


 やっぱり駄目だったらしい。

 そうして少しの間シロリンはリボルバーを撃ち続ける。どうやらエネルギーの弾を撃つという感覚が新しいとのことでハマってしまったらしい。


「これ良いね。楽しいよ」

「ハハハッ、そう言ってもらえるとありがたいですよ」


 そうしてそろそろ探索を始めるかと俺が腰を上げてリボルバーで楽しんでいるシロリンの方へ歩き始めた時、ゴポゴポッという泡が水面に浮きあがってくるようなそんな音が湖から聞こえてくる。

 何だろうとそちらの方へ向いた次の瞬間、激しい音と共に何かの大きな影が湖面へ姿を現す。レッドドラゴンなんかよりも巨大な姿。

 龍の様にも見えるそれは口元に強大な水のエネルギーを蓄えたかと思うと、一気に凄まじい水流を放つ。

 それが狙う先はリボルバーで遊んでいるシロリンであった。


「危ない!」


 俺は勢いよく飛び出すとシロリンを押してその場から離れさせ、拳を握る。

 すぐそこまで迫りくる攻撃を前にして俺が取った選択肢はこちらからも衝撃を与えて相殺させること。


「ハアアアアッ!」


 思い切り力を振り絞った拳は迫りくる水流のど真ん中を撃ち抜き、俺を中心にして二手に分かたれる。

 二手に分かたれた後も勢いが衰える事は無い。

 大地を削り取りながらしばらくしてようやくその勢いが失われる。


「……こいつ、強いな」


 レッドドラゴンの攻撃程度ならば殴ったら相殺できる。ただ今回はそれが出来なかった。

 俺が対峙した魔物の中で今までで一番強い敵だ。

 そう悟った俺は気を引き締めて目の前の敵を睥睨するのであった。

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