第18話 大扉の先
「何だここ? あれ? 塔……だったよな?」
足を踏み入れるとそこは塔というよりかは密林の様相を見せていた。しかし後ろを振り返ると確かに入ってきた扉がある。
まるで異世界にでも転移したかのような感覚。思っていた中の様子ではない。恐らく広さも想像よりもはるかに大きいのだろう。
目を凝らすも終わりが見えない密林が広がっている。
「どうして植物が生えているの? ここ塔の中じゃないの?」
「うん? そりゃダンジョンだからじゃないか?」
俺が潜っていた『挑戦者の洞窟』も地下なのに太陽みたいな光があって植物が生えていたし。
「それは『挑戦者の洞窟』に限った話でしょう? 普通のダンジョンでは光が届かないから人口太陽が設置されていたりするけれどその光では植物はこんなに大きく成長しないものなの。一応光合成はするらしいけれど」
そういえば階層ごとに景色が変わるのは珍しい事なんだった。俺には寧ろそっちの方が慣れ親しんでいたんだけど。
「それで今からどうするつもりなの?」
「クエストを達成したいんだ。久しぶりだし」
俺はリボルバーをアイテムボックスの中から取り出し、腰につけているホルスターに差す。
最近、リボルバーを一々取り出すのが面倒だという事に気が付いた俺は探索者専用の武器屋に行って購入したホルスターだ。
ただ、探索であまり銃を使う人が珍しいのか何か変な目で見られたけど。
「それにしてもレッドドラゴンか~。大体赤いドラゴンなんだろうけど。白崎はどんな奴か知ってるか?」
「知らないよ。私は龍種の魔物はワイバーンしか相手にしたことが無いから」
「だよな~」
ドラゴンなんて創作物の中でしか聞いた事が無い。もしかすれば祖先は本物のドラゴンを真似て描いているのかもしれないが確証はないしな。
「ちょっくら探すか」
俺は足に力を溜めると、勢いよく地面を蹴り上空へ飛び出す。
「うわー、強そうな魔物が居るなー」
上空から見ると、遠くの方に明らかに強いだろこいつっていうレベルの魔物が見える。
それがレッドドラゴンなのかは分からないが、あんなものが自然に存在しているという事からこのダンジョンが他のダンジョンとは別格であることが伺える。
これは今日一日じゃ一階層目すらクリアできなさそうだな。
そのまま落下していき、うまく地面から着地する。
「思ってたよりこのダンジョン広そうだ。俺は残って探索するつもりだけど長くなりそうだし白崎は帰るか?」
「そりゃ帰りたいよ。明日は色々と撮影もあるし。ていうか頼みごとをしておいて一人で帰らせる気なの?」
「……それもそうだ」
クエストの更新が嬉しくてついつい探索する気満々だったけどよく考えりゃ頼みごとをしておいて何もせず一人で帰らせるなんてよくねえな。
一度来た場所だし、たぶん次からは転移石で飛べるだろうから今日の所は俺も帰るか。
「ごめんごめん。今日は帰ろう」
「帰るだけ? 今日のお礼があっても良いんじゃない?」
「……何か奢るよ」
幸いにも攻略者のクエストをこなす事で得た報酬を売りさばいてはいるからある程度、金はある。
しかし相手は登録者200万人越えの超人気ダンジョン配信者だ。はてさて俺の財布の中にある金で足りるのか否か。
ある意味怖いことを考えながら俺は白崎と共にダンジョンを後にするのであった。
♢
ダンジョンを後にして俺と白崎が向かったのは一軒の喫茶店であった。
正直、高級な鞄とか言われるんじゃないかと冷や冷やしていたが、喫茶店のドリンクとスイーツを奢るだけでよくなったのだ。
「あなた、本当に『ファースト』なんじゃないの?」
「違うと思うけどな」
頼んだコーヒーを口に運びながらそう答える。ランキングに表示されている名前が文字化けしている以上、誰が『ファースト』なのかは分からない。
ただ、俺には特別な異能が使えるわけでもなくただ殴ったり銃を撃ったりしているだけだ。
それなら向井とかの炎を操る異能とか白崎の氷を操る異能とかの方が強いように思う。
「でも実際にあの魔物を倒せたのはあなたよ?」
「龍牙さん達が元々蓄積していたダメージが大きかったから俺が倒せただけなんじゃないか?」
「だとしてもあんな威力だせてる時点で少なくともランキングに入っていないとおかしいよ。それにステータス数値も1億なら猶更ね」
ステータスの数値はまあ普通よりは高いんだろうなぁ。でも俺の場合はクエストの報酬で貰う事もあるからちゃんと鍛えての数値ではないし。
それにあれが何を意味するのかはよく分からん上にランキングの序列がどんな数値をもとに決まっているんカモ謎。
謎だらけなのだから分かる筈もない。
「取り敢えずステータスの数値が1億っていうのは言わない方が良いと思うよ。ダンジョン配信を始めるなら別だけどね」
「いや、それだよな~。まだ迷ってるんだよ」
俺がダンジョン配信を始めるか、それとも番人を倒したことを告白するかの二択。
う~ん、どっちの道に行ってもなんか変な感じになりそうなんだよな~。
「う~ん……じゃあもう一つ選択肢をあげるよ」
「マジ? どんなの?」
「ダンジョン配信を始めるか番人を倒したことを告白するか……」
そう言って少し間が空く。
今考えているからなのだろうな、なんて思っていると白崎は照れ臭そうにこう告げる。
「……私の事を守るか」
「へ?」
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