第19話 謎の存在

「あー、ビックリしたな」


 白崎と別れ俺は一人帰路に着く。私を守るかと聞かれて最初はどういう意味なのかを勘繰った。

 だけどどうやら本人的には自身の配信の準レギュラーにならないかっていう勧誘のつもりだったらしい。

 にしても言い方というものがあるだろう。一瞬だけでもドキッとした俺の純真無垢な俺のトキメキを返せ。


「シルクハットさんの言ってた分不相応な名誉ってのも気になるし。教えてくれたって良いのに」


 まあ多分、あんまり公の場で言ってはいけないものだったんだろうけど。

 取り敢えず、与えられた選択肢の中では白崎の配信の準レギュラーになるというのが一番光っている。

 いや、駄目だな。それじゃ、あの時とおんなじだ。

 逃げてばかり。逃げ道を与えられればすぐさまその選択肢に飛びついてしまうのは俺の悪い癖だ。


「よし、決めた」


 ようやくひとつの決断を下すと、俺は来た道を引き返していくのであった。





「押出! 見たか!」

「……んあ? 何だよ向井。そんなに、ふあ〜あ、慌てて」


 今日は珍しく朝早くに登校した俺はあまりにも早く登校してしまった事から暇すぎて寝ていた。

 そしてこうして謎にテンションの高い向井の大声によって起こされたのである。


「そりゃ慌てるだろ! 見ろよこの配信!」


 そうして向井から見せられた配信には1人の仮面を付けた男が映っていた。

 フード付きのロングコートを着ているその男が立っているのはとあるダンジョン内部。

 そこは俺も見覚えのあるあの『挑戦者の塔』だ。


『皆様、初めまして。ジョーカーと申します。今回は先日の番人の件について私からお伝えしたい事がございます』


 そう話を切り出すとジョーカーはゆっくりと歩き始める。


「これが何なんだよ」

「良いから見ろって」


 今起きたばかりの目には携帯の画面は明るすぎるため、薄目を開けて配信を見る。

 

『単刀直入に申し上げましょう。番人を倒したのはシロリンさんではありません。この私です』


 ジョーカーは続ける。


『シロリンさんには少しの間、匿ってもらってありました。全ては今日の日のために』


 ジョーカーがそう告げた次の瞬間景色がガラリと変化する。

 まるで瞬間移動でもしたかのようなその光景、映し出されたのは番人が守っていたあの大扉である。

 

『番人を倒した先に広がっている光景、皆様ご興味があるのではないでしょうか?』


 そう言うとジョーカーはスッと大きな扉へと触れる。


「見てろよ? こっから度肝抜かれるぜ?」

「……」


 向井の言葉を無視して俺は画面に見入る。

 心臓の音がどんどん大きくなっていくのがわかる。


『Ready for it ? イッツショータイム』


 ジョーカーはゆっくりとその大扉を開く。

 するとその先には煌々とした世界、そして何より天にも届く巨大な塔が立っていた。


『このダンジョンの名前が何故『挑戦者の塔』というのか。それはこの大扉までがただの入り口であっただけの事』


 ジョーカーはその大扉の先の幻想的な景色の中へとゆっくりと入り、カメラに向かって大きく両腕を広げる。


『さあ、私を追い越せるかな?』


 そうして配信は終了する。なるほどね。


「瞬間移動はするわ、前人未踏のダンジョンを見つけるわ、ダンジョン配信界隈で今超話題になってんだぜ? 初配信にして1000万再生を1日で突破するって聞いた事ないぜ」

「ふーん、そんなに凄いのか」

「おいおい、反応薄いな。眠いのか?」

「いや、まあ眠いだろ。寝てたんだし。ていうかお前ってそんなキャラだったか?」

「これは誰でも興奮するって! 巷じゃ『ファースト』はこいつ何じゃないかって話題になってんだぜ? 寧ろお前がそんなに冷静な方がおかしい」 


 まあなぁ、驚けって言われてもなぁ、なんだよな。だってこれ俺だし。

 結局あの後、配信を始める事は決めたのだが、オーディンとして配信を始めるかは迷っていた。

 迷いながらダンジョンでレッドドラゴンのクエストを終え、報酬として『ジョーカーマスク』という仮面を手に入れてこの方法を思い付いた。


 このジョーカーマスクは自分の身長や声を変えて他人になりすます事が出来る。

 これと以前手に入れた『隠密者の装束』とか言うフード付きのロングコートを着てあんな感じの演技をした。

 因みに隠密者の装束にもちゃんと気配を隠す効果が付いている。

 身バレ対策バッチリである。

 

 こうすれば白崎に迷惑をかける事もなく済ませられる。

 

 俺からすれば自分の演技を見てるだけっていう感じだったからあまり驚かないのも当然のことだ。

 ていうか改めて見るとカッコいいぜ。あの服装イカしてるよな?


「風貌も怪しいし配信タイトルはただの空白。いよいよミステリアスな存在だな」

 

 え、あれ怪しいの? カッコいいと思ったのに。

 因みに配信タイトルが空白なのはただのミスだ。

 本当なら『今回の件についての釈明』っていう題にするつもりだったのに……。


 こんなに再生されちまったら今後配信タイトルを全部空白にしないといけないじゃねえかよ。

 ふざけやがって。


「白崎もSNSで事実だって言ってるし、いよいよ本当だな」


 因みに白崎にはジョーカーになる前にいち早く伝えておいた。

 ちゃんと選んだぞって意味で。あと、ついでに配信内で名前を出して良いかの確認をしておいた。


 そんな時、俺の携帯に一通のメッセージが届く。


『今日会える? 会えるなら前の喫茶店に来て欲しいな』

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