第15話 選択肢

「押出君、正直に言った方が良いと思うわよ」


 開口一番に白崎がそう告げる。正直に、というのは間違いなく番人を倒したことについてであろう。


「皆疑ってるもの。それこそシルクハットさんも。だって万全の状態を整えたシルクハットさんが負けた魔物を私一人で倒したっていうのは無理があるもの」

「いや、でもなあ。一番頑張っていたのが白崎とか他の人達なのに俺がかっぱらっていくってのもなぁ」


 俺は真っ先に逃げたし、その栄光を一人で一身に受けるというのは信条にそぐわない。別に目立つのはすき、好きじゃないんだからね!


「じゃあこれは? シルクハットさん達の与えたダメージがかなり効いていて止めを刺しただけだったっていう」

「それも無理。だって明らかにピンピンしてたもの」


 ふむ。難しいものだ。


「それとシルクハットさんがあなたに会いたがってたわ」

「うん? それって」

「完全に疑われてるわね」


 まあでも別にシルクハットさんにバレても別に良いんだけど。問題はシルクハットさんだけでなく他の人達にもバレてしまうという点にある。

 今度は白崎さんが俺の功績を横取りしたと思われてしまう可能性があるのか。


「もうホントに取材依頼が多くて困ってるわ。何せ過去にナンバーズでも撃破できなかった撃破不可魔物に数えられていたから」

「す、すみません」

「それは良いの。元々は私のせいであんなことが起きたんだもの。でも正当な力には正当な評価がされるべきだと思うの。そこで私から提案があるんだけど良いかな?」


 ちらりとこちらを見やる白崎。有無を言わせぬその顔に俺は思わずゴクリと生唾を呑む。


「あなたが自分でダンジョン配信を始めるというのはどう?」

「え、俺が?」

「そうそう。何か目立ちたいみたいだしちょうど良いんじゃない? オーディンって名前でやって良いからさ」


 なるほど。ダンジョン配信か……いや無理だろ。


「やりたいのは山々だけどさ、俺なんかが始めても何の反響もないだろ?」

「そんなことないと思うよ。圧倒的な力を持つダンジョン配信者は優先してサイトに表示される回数が増えるし」

「圧倒的な力なんて俺は持ってないぞ?」

「まだそんな事言って。じゃあステータス数値を教えてよ」


 ステータス数値か。そういや最近大台に乗ってからあまり見てなかったけど。

 そう思い、俺はステータスの数値を表示し確認する。


「大体1億くらいかな?」

「い、い、い、い!?」


 俺が大体の数値を告げると、白崎がおかしな声を出したまま固まり目を見開いてこちらを見てくる。

 そういや他人のステータスの数値なんて聞いたことなかったから俺の数値がどれくらいなのか全く知らないな。

 もしかしてあまりにも低い数値に驚いているのではないだろうか? 1億って数字、ゲームとかだったら無双できるくらいの数値だから結構自信あったんだけどな。


「……ごめんなさい。少し取り乱しちゃった。1億って本気で言ってるの?」

「え? あ、うん」

「あのね、現ランキング2位でも2000万程度なの。それがどれほど凄いことなのか分かってるの?」

「いや、あんまり」


 だって今まで他人のステータスなんて気にしたことなかったし。もちろん、比較もしたことが無い。

 今、ランキング2位でも2000万しかないという事を聞いて驚いているのだ。


「まあランキングがステータスの値だけで変動するわけじゃないかもしれないからあなたがファーストと断ずるのはまだ早いけど」

「そうだな。だって俺まだ上級探索者ですらないし」


 そもそも上級探索者の称号を得るための資格すら達成していない。つい先日のダンジョン配信で二個目のダンジョンの最深層まで潜ったから後一個でいけるけど普通に面倒くさい。


「ま、取り敢えずダンジョン配信を始めるか番人を倒したのは自分ですって申し出るか決めてね。あ、返事はシルクハットさんと待ち合わせしてるからその時に聞かせて。集合場所と時間はあとで送るから。それじゃまたね」


 そう言うと白崎は俺に背を向けて歩いていく。別に同じ教室に戻るんだから一緒に戻ればいいじゃないかと思いながら俺は白崎の背中を追いかける。

 

「あ、あと言い忘れてたけど私もう帰るよ?」

「え?」

「言ったでしょ? 誰かさんのせいで忙しいって。じゃ今度こそまたね」


 教室の前まで来た白崎はもう一度俺に向かってそう告げるとそのまま階段を下っていく。

 そして俺はその後、最大の二択に頭を悩ませることになるのであった。

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