第14話 人気者
「よお! 見たぜ? 押出」
「見た? あぁ。あの配信か?」
相変わらず始業の会に間に合う事なく、堂々と遅刻した俺が席に着くと、開口一番に向井がそう言ってくる。
「お前、コメント欄で大分いじられてたな。良かったじゃねーか。ひゅー、人気者」
「あのなあ、人気者はあんなに配信の端っこで映ってるだけの一般人の事を言わねえんだよ」
「ていうか心配したぜ? よくあんな強そうな魔物に襲われて生きてたな。配信が途中で切れた時にはもう不安だったぜ?」
「俺にじゃないだろ?」
「いやお前にもだよ。何でお前だけ外すことがあるんだ」
向井の言う通り、配信上では番人に襲われているところで途切れ、安否が分からなかったためネット上では多くの心配する声が上がっていたらしい。
「ていうかお前、冗談じゃなくてホントに人気者だぜ? ほれ、見てみろよ」
そう言って向井が携帯の画面を見せてくる。そこにはあの配信の短い切り抜き動画が表示されていた。
その再生回数はまさかの一千万回越え、そして何よりも驚きなのがそこに俺の顔が映っていたのである。
『危ない!』
そう言って番人の攻撃から白崎を守る俺の姿が映されていた。そうか、あの配信が切れる前の映像ってこのシーンだったか。
その動画のコメント欄を遡っていくと、そこには今までされたこともないような俺へのコメントが連なっていた。
『やるじゃん、オーディン君。見直したよ』
『配信の中じゃ何の取り柄もなかったのに最後カッコよすぎんだろ』
『シロリンを助けてくれてありがとう! オーディン君が居なかったらと思うとぞっとしちゃう』
「……すご」
「だろ?」
そう言って向井はニヤリと得意げに笑いかけてくる。ダンジョン配信ってなんか良いな。俺みたいな脇役でもこんな評価をしてもらえるだなんて。
まあほとんど白崎のお陰だけど。
「まさかナンバーズを屠るくらい強い番人を白崎が倒すだなんてな。あいつやっぱ強すぎるぜ」
そう言えば番人は白崎が倒したことになっている。理由は単純で、俺が倒したことにすると何か一人だけ逃げた癖に称賛される形になって嫌だったからだ。
それなら最初から最後まで戦っていた白崎が倒したことにすればよい。
まあ、俺が倒したって言ったらそもそも称賛が来るかどうか分からないけど。
「てかそんなことより『神の声』だろ。ニュース見たか? エライことになってんぞ」
「見た見た。やべーよな、あれ。これでますます各国がランキングに載ってる探索者たちを本格的に他国から引き抜こうと躍起になってるらしいな」
「マジか。そしたら白崎なんかめちゃくちゃ勧誘来るんじゃねえか?」
「来るだろうな。多分、この国の政府も自国の優秀な探索者が引き抜かれないよう何かしら対策は講じるだろうな」
他国に引き抜かれてしまえばたとえ国外のダンジョン探索を手伝ってよいとしても、元居た国のダンジョン探索には結局あまり手が回らなくなるだろう。
したがって引き抜かれてしまえばその探索者はもう国内での活動がほとんど出来ないと判断するべきなのだ。まあ、大規模なダンジョン探索とかなら国が合同で行う可能性もあるが。
「それもあっていよいよ『ファースト』が誰なのか、どこの国に居るのかっていうのがすげー言われてるな」
向井の『ファースト』という言葉で体が一瞬ビクッと動く。
白崎が俺に向けて『ファースト』と言い放ったこと。それがどうにも俺の脳裏に焼き付いて離れない。
俺が『ファースト』なのか?
そんな自分に酔っているかのような気持ちの悪い自問自答を繰り返しているばかりであった。
誰かがいいえ違いますと答えてくれればどれほど良かった事だろうか。
「どうした? 押出」
「ん? ああ、いや、白崎は今日来るのかなって思って」
「来るわけないだろ。さっきまでテレビ出てたんだし。てかそもそもさっきの地震で電車止まってるし多分、今日授業無くなってすぐ帰ることになるぞ?」
「それならラッキーなんだけどな」
授業が無くなればすぐにでもあのダンジョンに向かうことが出来る。いつまで経っても更新されない俺のクエスト画面。
そこに表示されている『ユグドラシルの試練』とやらが果たして神の言う試練と同一の物なのか。
もし同一の物だとしたらもしもそれの攻略を達成出来たら未曽有の大災害とやらは防げるのか。
疑問が尽きぬままに、ただ適当に向井と話していた時、教室の扉をガラリと開く音が聞こえる。
入ってきたのは驚くことに朝のテレビ番組に出演していた白崎瑠衣であった。
教室内がその意外な人物の登場に騒めくのも無視し、こちらへと歩いてきてこう告げるのである。
「押出君、話があるわ」
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