第13話 試練

『ニュースです。挑戦者の塔にて過去何人もの探索者を葬った大扉の番人が倒されました。倒した人物はなんとあの有名ダンジョン配信者、シロリンさんとのことです』


 ダンジョン探索から二日経過した朝、ニュースではシロリンの配信について報道されていた。

 配信の映像も映され、俺の顔もバッチリと映されている。

 とうとう俺もTVデビューか。ご飯を頬張りながらニュースを見入り、一人静かにTVに出ている自分に満足する。


「あら? あれって迅?」

「そうなんだよ、母さん。俺もとうとう有名人の仲間入りなんだ」

「ただ友達の配信に映っただけでしょ? 運良かったわね〜」


 いや、違うんだよ母さん。いや? 違くないな。友達かどうかは置いておいて俺はただ白崎の配信に映っただけか。

 そして運が良かったというのも否定しきれない。たまたま白崎が声を掛けてくれたからテレビに映れただけだし。


『ではここで配信に出演していた皆様にインタビューを行なっていきたいと思います。まずは登録者数100万人越えのチャンネルを誇る人気配信者、黒猫さんです』


 それからニュースの中ではあの日、一緒にダンジョン配信を行った人達の顔が映されていく。

 え、出演者の皆様にインタビュー?

 

「じゃあ何で俺のとこにインタビュー来てねえんだよ!」

「そりゃアンタ、別に有名人じゃないからでしょ。馬鹿なこと言ってないで早く食べて学校に行きなさい」


 母さんにそう言われて時計を見ると時刻は8時50分であった。


「うそん」

 

 しまった、今日は結構早く起きたはずなのに初のTVデビューに興奮して時間を忘れてしまっていた。

 俺は急いで味噌汁とご飯をかき込むと鞄持って立ち上がり、玄関へ走る。


「いっでぎまふ」

「はいはい、いってらっしゃい」


 外へ出て勢いよく走る。走りながらクエスト画面を開く。


『門番撃破達成。鍵を用いてへと続く大扉を開錠する』


 前はただ漠然とダンジョンの鍵を開くって書かれていただけなのにあの日を境により細かい文言へと変わっていた。

 門番っていうのはあの獅子の魔物だろ? それで大扉っていうのはあの獅子の後ろにあった大扉の事だ。それでユグドラシルってのは何だ?


 それに俺あの大扉に続く道、めちゃくちゃ壊してなかったっけ?

 確か数百メートルはあるよな? ジャンプしたら届くか?


 クエスト画面を開きながら見えてきた曲がり角を曲がった次の瞬間、突然視界がぐらりと歪む。

 いや正確に言えば視界が歪んだんじゃない。地面が揺れているのだ。

 同時に携帯から通知音が鳴る。見ると画面には震度4の地震が発生したと書かれている。


 その時であった。まるで飛行機へ乗った時に感じるあの耳鳴りのような音が響いたかと思うと、脳に直接言葉が浮かび上がってくる。


『我が試練に立ち向かわんとする者が少数であった国家を一つ地図上から消滅させた。これは忠告である』


 確かにそう俺の脳内で響き渡ったのだ。これが『神の声』って奴なのか?

 確証が無いため、周囲を見渡すと俺と同じ行動をとっている人を見つけ、現実であると理解する。

 ていうか国家を一つ消滅させた? さっきの地震はその反動って事なのか?


『引き続き試練に心してかかるが良い。この試練は貴殿らに与えた贖罪の機会であることをゆめゆめ忘れるでない』


 そう告げると、脳内に響き渡った声が聞こえなくなる。


「痛っ」


 普段とは違う脳の機能が働いていたためか、少しして軽い鈍痛が襲う。


「来るべき時までに試練を達成できなければ未曾有の大災害が襲う、か」


 『神の声』事件から何年も経過した今、人々はその文言を少し忘れかけていた。

 

 俺が暮らすこの国はダンジョン探索に力を入れている方だ。ただ、中には神の声自体を疑問視する声も上がっており、ダンジョン探索にあまり力を入れていない国もあった。


「……何だよコレ」


 速報として挙がったヘリの上から撮られたであろう一枚の画像を見て俺は思わず声に出す。

 その画像に示されていたのは大海の中、妙に大きな穴が空いている様子であった。

 その大きな穴こそが神によって天罰が下され、消滅した国家なのだろう。


 文字通り、地図上からすらも消え去ったその国の様子を見て俺は背中に悪寒が走るのを感じ取る。

 もしもこれが俺が今住んでいるこの国に降り注いだら……。


「うん? ちょっと待てよ? 試練って言ってたよな?」


 いつも神と自称するこの声が言っている試練という言葉はダンジョンの事を指しているものだと思っていた。

 ただ偶然か、俺のクエストに表示されている文言ではダンジョンとは明確に区別して『ユグドラシルの試練』と書かれている。


「もしかして」


 それに気が付いた俺は取り敢えず今日の放課後、もう一度あのダンジョンへ戻ってみようと心に誓い、学校への道を足早に進んでいくのであった。

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