第12話 ファーストの正体とは
俺は戻って来るや否や周囲を見渡す。そしてこの短時間で白崎以外の全員が目の前の獅子によって戦闘不能にされた事実を知る。
大きさ的には俺がいつも相手にしているペガサスとかと同じくらいだ。
しかし、侮ってはいけない。奴は俺が死に物狂いで戦っても勝てないようなナンバーズを屠っている。
白崎もほとんど動けないだろう。俺だけで戦うしかない。
俺一人で勝てるかどうかは分からないけど、やるしかねえな。
「全力で行くぞ」
俺はアイテムボックスの中からリボルバーを取り出すと、番人に向ける。
「グオオオオッ!」
「うおおおっ!!!」
番人がこちらへと襲い掛かってきた瞬間に俺は持っていたリボルバーの引き金を引き、撃ち放つ。
そしてそのエネルギー弾は見事に番人の顔面に命中する。
「……何よ、あの力」
空間を揺るがす強大な衝撃波がダンジョン内に響き渡る。
番人を中心として四方八方に広がってゆく衝撃の波紋。
よし、かなりダメージを入れられたみたいだな。
俺はエネルギー弾を受け、仰け反っている番人を見てそう判断すると続いて番人の顔の前まで一瞬で移動し、拳を後ろに大きく引く。
「食らえ!」
そして番人の顔面目掛けて思い切り正拳突きをかますと、思いのほか番人の体が吹き飛んでいき、後方にある大きな扉へと体を打ち付けさせる。
うん? 何か思ってたより戦えてるか? 俺。
いやいやいや、油断するのは良くない。完全に仕留めるまでは。
なにせあのシルクハットさんがやられているんだ。俺如きが簡単に倒せる相手な筈がない。
俺は未だ立ち上がる気配のない番人に向かってリボルバーを向けると、今までで一番大きな力を込めて放つ。
「解放!」
リボルバーの撃鉄を弾き、引き金を引いた瞬間、番人よりも更に巨大な太さのエネルギーの光線が放たれる。
今まではエネルギー弾であったが、今放たれたのはまさに光線。
いつまでも供給されるエネルギーの塊が、大扉へと続く道をも飲み込み、崩壊させながら番人へと迫りゆく。
そして番人にそれが激突した次の瞬間。
ピカッと勢いよく発光したかと思うと番人を中心として凄まじい爆発が巻き起こる。
「あ、やべ。やり過ぎた」
爆発は道の崩落だけではなく足場として張られている氷にも影響が出始める。
そのせいでシルクハットさん達が奈落の底へと落ちていきそうになる。
俺は慌ててシルクハットさんとユージンさんを背負う。
しかし、人体の構造的にキングルーさんと黒猫さんの事を拾うことが出来ず、どうしようかと考えた時、氷の棒が生えていき、二人の身体に絡みつく。
「やり過ぎだよ」
俺が崩壊せずに残っている道の上に降り立つと、近くまで歩み寄ってきて白崎がそう告げてくる。
「そもそもあなたがこんなに強いんだったら全員傷付かなかったのに」
「ごめん。俺もまさか自分が勝てるとは思ってなかったんだ」
ましてやシルクハットさんが負けるような相手に対して、だ。
だってそうだろう? 俺はランキングにも載ってないようなごく普通の男子高校生だ。
高校生の中ではある程度強くはあるけど、上級探索者よりは弱いと思っていたのだ。
「冗談だよ。戻ってきてくれたし。助けてくれてありがとう。でも安心するのはまだ早いよ」
「へ?」
白崎がそう言った直後に走り始める。それと同時に道の崩落が始まる。
「おい、ちょっと待って」
「これは強い癖に先に逃げたあなたへの罰よ」
「いや、俺だけならまだしもシルクハットさんとユージンさんも居るんだって」
悪戯な笑みを浮かべる白崎を追いかけるべく俺は走り出す。後方では衝撃の余波によって崩れていく音が聞こえてくる。
そして無事に渡り終えた後、大扉へ続いていた道が崩落し終わる。
「……よかったー。一時はどうなる事かと思ったぜ」
「……」
目の前に居る俺の事を黙ったままじいっと見つめてくる白崎。
俺が逃げたことをまだ怒っているのだろう。俺も俺で自己嫌悪に陥っているくらいだからな。
「本当にすまなかった。俺の心が弱かったんだよ」
「そんなことはどうでも良いの。それよりも」
そう言うと、ズイッと体を近づけてきてこう告げてくる。
「あなたが『ファースト』でしょ?」
「『ファースト』?」
そう言われて俺は少しの間沈黙する。そしてその言葉の意味を記憶の片隅から掬いだし、それと同時に俺は猛烈に首を横に振る。
『ファースト』っていうのはランキングで唯一名前が分からない謎の存在である第1位を表す言葉だ。それが俺なわけ無いだろう。
「そんな訳ないそんな訳ない。だって俺、同じダンジョンにずっと潜ってただけだぜ?」
「そのダンジョンの名前って『挑戦者の洞窟』でしょう?」
「え? そう。そこだ。何で知ってんだ?」
「あなたが『一階層ごとに景色が変わるダンジョンがある』って言ってたじゃない。それって確認されている中では『挑戦者の洞窟』しかないの。言っておくけどあそこのダンジョンは今見つかっている中で最も攻略難易度が高いダンジョンなのよ?」
「え? でもその割には全然人が居なかったぞ?」
攻略難易度が高いのならある程度人が来るものだろう。
しかし、俺が潜っていたそのダンジョンはまったくもって人の気配がないのだ。
そう思って反論したが、呆れたように首を振ると白崎は続ける。
「難易度が低いから人が居ないんじゃなくて、難易度が
「え、そうなのか? でも俺ずっと最深層で籠もってたんだけど」
「あのダンジョンの最深層まで行ってたの……? 確か十階層めくらいまでしか探索した記録がないのに……」
「十階層? 最深層は百階層だぞ?」
「……もう良いわ。あなたと話していたらキリがないし。取り敢えず早く皆を病院へ連れて行かないといけないし」
そう言って白崎が話を切り上げる。
ていうかそれもそうだ。シルクハットさんなんかはかなり重傷だし急いで帰らないと。
「……でもまた今度絶対に話してもらうからね?」
「え? 大して話すことなんて無いけど」
「良いよね?」
「……はい」
こうして俺達は意識を失っている皆を連れてダンジョン内を駆けていく。
そんな中、俺の脳に突如としてこんな声が聞こえてきたのである。
『番人を倒しました。攻略者の鍵で大いなる試練への挑戦の道を開放してください』
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