第9話 絶望の配信

 最深層に到着するも、そこは今までと変わりなくただの薄暗い洞窟が広がっていた。初めての他のダンジョンでの最深層。


 俺がよく潜っている『挑戦者の洞窟』では一階層一階層景色が変わっていったが、ここはそんなこともなくただ漫然と同じ景色が続いているだけだったな。

 他のダンジョンもこんな感じなんだろうか? ちょっと聞いてみよっと。


「ユージンさん、ダンジョンってどこもこんなに景色が変わらないものなんですか? いつも潜っているダンジョンとはちょっと違っていて」


 それとない世間話である。ただ何となく気になったていうのと塔と言いつつ洞窟しかないじゃねえかという気持ちから少し聞いてみただけという他愛もない問いかけである。

 そしてそれ相応の適当な返事が来るかと思っていたが実際の反応は違っていた。


「いやいやいや、オーディン君。景色が変わるダンジョンなんて聞いたことないよ。基本的にダンジョンってこんなかんじの薄暗い洞窟しかないイメージだけど」

「え、でも確かに俺がいつも潜ってるダンジョンは階層ごとに景色が変わるんだけどな」

「そんなダンジョン聞いたことないな」


 まさかの一刀両断である。そうか、普通のダンジョンは景色変わらないんだ。


「いや、景色が変わるダンジョンの話、聞いたことあるよ」

「私もありますね」


 ここでまさかのシロリンとシルクハットさんから助太刀が入る。


「まあ難易度が馬鹿みたいに高いから誰も行かないらしいけどね」

「ですね。私が聞いた話でも10階層までが限界だと聞きましたし」


 ふむ、なるほど。誰も来ないっていうのは同じだけど難易度が馬鹿みたいに高いっていうのだけが違うところだな。

 あのダンジョン、全然10階層までなら余裕だし。


「このダンジョンと名前が似ていることからたまに間違えて行ってしまう人がいるらしいです。名前は似ていても難易度が全然違うので、皆さんもダンジョン探索をする際はお気をつけて」


 そう言ってシロリンが配信の向こう側に居る視聴者へと注意喚起をする。

 インフルエンサーともなれば下手な発言で誰かが馬鹿な事をしてしまわないよう、こうして時折「私は言いましたよ」感を出すのは大事なんだろうな。

 自分から聞いたくせにやけに他人事にそれを見守る。そしてダンジョンの名前を思い出す。『挑戦者の塔』と『挑戦者の洞窟』。

 似てる……気もする。うん、気のせいだな。


「あ、皆さん見えました。あれがこのダンジョンの番人と呼ばれる獅子の魔物です。刺激しない様に気を付けてくださいね」


 少し先を行くと洞窟とは打って変わって大きな谷があり、その上を手すりのない岩道が大きな扉へと続いている。

 その大きな扉の前に立つ巨大な獅子こそが番人だという。

 他に魔物は見当たらない。なるほど、ここが終着点って訳だな。


「配信を見ている皆さん。今回の配信はここまでです。今日は五人の多種多様な珍しい異能を使う方々と一緒にダンジョン探索を行っていきました。楽しんで頂けたでしょうか?」


 最後に大きな扉へと少し近付いて番人を背に、シロリンが配信を終わらせようと視聴者に質問を投げかけ始める。


「ふふん、また誘ってくれると助かるわ、シロリン。いっつもコラボしてくれなかったから私寂しかったの」

「そうだね。ていうか配信者最強の二人に会えて僕は満足だよ」


 配信の終わりを察した黒猫さんとユージンさんがそう感想を述べる。


『楽しかったよー!』

『またこの配信見たい』

『オーディン、次は頑張れよwwww』


「……はい」


 コメントで言われている通り、今日の俺の見どころはほとんどと言っていい程なかった。

 配信での身の振舞い方がよく分からなかったのだ。それを迷っている間にシロリンやシルクハットさん達が魔物を討伐していった。


 途中からやることなさ過ぎてすげーとかやるーとかほとんどガヤに徹していた気がするし配信内での活躍は百歩譲って通行人程度だろう。


「それでは皆さん。今日も配信見てくれてありがとうございました。また会いましょ……」


『あれ? 後ろの奴動いてない?』

『ホントだ。やばい、逃げて!』


 シロリンが締めくくる挨拶をしようとしたタイミングでコメント欄が突然騒がしくなりはじめる。

 コメント欄の異常な速さからそれがどれだけ緊迫している状況なのか分かるだろう。


「嘘……だろ?」

「どういうこと!? 刺激しなかったら動かないんじゃないの!?」

「やばいやばいやばい!」


 後ろを振り返るとそこには不気味な光を纏った視線でこちらを睥睨する巨大な獅子の魔物が居た。

 その口には青白い焔を蓄えている。


「危ない!」


 咄嗟の判断で俺はシロリンの手を引く。次の瞬間、そのシロリンが立っていた場所を青白い炎の光線が通り過ぎてゆく。

 そして配信を映し出していたドローンカメラは光線に巻き込まれ、消滅する。


「ありがとっ」

「礼は良いぜ。この先、俺は何の役にも立てねえしよ」


 今、番人の攻撃によって俺とシロリン。そして他の配信者という形で分かれてしまった。

 そして運が悪いことに番人はこちらを睨みつけている。

 やれやれ、どうしたものか。

 

 こうして俺のダンジョン配信デビューは一転して絶望から始まるのであった。

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