第8話 配信映え
『シロリンとシルクハットが強すぎるなwwww』
『他の人達も強いんだけどね~』
『二人はランキング入りしてるし、シルクハットに至っては配信者内最強だしなぁ』
『配信者の中で唯一ナンバーズなんだっけ?』
配信が始まるとコメント欄ではそういったシロリンとシルクハットさんを称賛するコメントが流れてくる。
まあ、シルクハットさんに関しては別格だよなぁ。敵のステータスを吸収して自分の力とする異能『ステータスドレイン』は正直チートみたいなもんだし。
ちなみに『ナンバーズ』というのはランキング内の1位から9位の人のことを意味する。大体そこら辺の人は毎日切り替わるランキング内でほとんど順位が上下しないことから特別扱いをされることとなった。
まあ、1位はもっと不変すぎるから『ファースト』って呼ばれてるんだけど。
「オーディン君、シロリンは僕が貰うよ?」
「ん?」
俺が人気配信者たちの活躍をボーっと見届けている中、突然シルクハットさんが俺にそう声を掛けてくる。
別に俺に宣言しなくとも貰っていけば良いではないか、そう思っていたがふとコメントを見て気が付く。
『おい、俺達のシロリンを盗るな!』
『ホントだ! 小僧! シルクハットから取り返せ!』
『対立構造ってか? 燃えるな』
なるほど、あの言葉は本心ではなく配信を盛り上げるための冗談って事か。そんなら俺の返す言葉は一つである。
「ふん、シロリンはお前なんかにはやらねえよ」
「言うねえ、なら僕の狩る速度には簡単に付いてこられるよね?」
その瞬間、俺の目の前からシルクハットさんが消える。そして数瞬後、近くに居た魔物のほとんどが地面へと頽れる。
「どうだい?」
へえ、
思いのほか速かったせいで最初の一瞬だけ見逃しちゃった。
「すごいな。まさか対面が強いだけじゃなくて速さも
「ある程度?」
「あ、いや。
「その程度?」
あれ? 何が正解だ?
焦ってコメント欄を見る。
『速すぎww流石、探索者最速だぜww』
『探索者最速に対してある程度速いですねとか生意気すぎなんよ』
ああ、なるほど。探索者最速なんだ。
褒めたというのに道理で反応が鈍いと思った。
「は、速すぎっす先輩!」
「ハハハッ、だろう? 僕の自慢のスピードだよ」
なるほど、これが正解の反応か! よしよし、大分理解してきたぞ~。
「でも君の反応を見るに君なら
でで、でた~。これがいわゆる配信内での対立って技術だ~。
あ、これ習ったところだという爽快さを伴いながら笑顔でこう返事する。
「アハハッ、あんくらいなら俺でも簡単にできるよ」
なるべく相手を下げるように、かつ冗談だとわかるような声音を意識する。
何か演者みたいで楽しいな~ってまあ演者みたいなもんか。
ていうかこのシルクハットっていう配信者さん、めちゃくちゃ優しいな。シロリンはそりゃあ呼んだ側だし接してくれるけど、他の配信者は俺のことなど眼中にない感じで配信を進めているのに対してシルクハットさんはやけに気にかけてくれる。
「マジで? ぜひやってみてくれないかい?」
「おうともよ!」
俺が意気揚々とシルクハットさんがやったように魔物を狩りに行こうと地面を蹴り上げると、突然俺の目の前に氷の壁が出来上がる。
「ちょっとシルクハットさん。あまりオーディン君を虐めないであげてください。彼、一般人なんですよ?」
「おっと、それはすまない。ついつい」
「オーディン君もだよ。何よ、私を取り合うって。勝手に決めないでくれる?」
「……ごべんなさい」
既に顔面を氷の壁に衝突させて赤く腫らしていた俺は口の中切れてんなー、なんて呑気に考えながらプンスカしているシロリンに謝罪する。
『男たちの悪ふざけもここまでか』
『面白かったぞオーディン君』
『シルクハットさんとオーディン君の絡み、おもろいな』
オーディン君って何回も聞いてたらおでん君みたいに聞こえるなーとぼんやり考えながら皆の元に戻っていくと、すぐさまシロリンが駆け寄ってくる。
「って、ごめんなさい!? まさかちょうどオーディン君に当たるとは思わなかったの」
「大丈夫大丈夫」
寸前で止まろうとしたけど、なんかこっちの方が面白そうだなと思って顔をわざとぶつけただけだから。
うん、だから決して止まれなかったわけじゃないから。本当だからね? マジだぜ、マジ。
「さてと、そろそろ最深層だね」
「そうですね、シルクハットさん。ここで皆さんに注意事項があります」
そうしてシルクハットさんとシロリンがこちらに注意喚起を始める。
二人以外はこのダンジョンが初めてなのか、興味深そうに耳を傾けている。
「次の階層の奥には番人と呼ばれる巨大な獅子の魔物が居ます。ですが決して近づかない様にしてください。過去、あの魔物に喧嘩を売った者はだれ一人として生き残っていません。そう、ナンバーズですら」
シロリンがそう告げると一斉にゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえる。
「まあでも安心して。基本的に喧嘩を売りさえしなければ襲ってこないどころか全く動かない置物みたいになってるから。あの番人にさえ触れなかったらここは僕達の力なら安全だし。でも配信だし、姿をカメラに収めたいは収めたいだろう。ここを提案したのもそれが目的だからね」
へえ、このダンジョンってシルクハットさんが提案したんだ。だから何だという話ではないけど。
そうして俺達は次の階層、最深層へと足を踏み入れるのであった。
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