第7話 シロリンの配信

「皆さん。おはようございます。シロリンの配信に来ていただきありがとうございます。今日は少しスペシャルな回となっております」


 配信だというにもかかわらず白崎は相変わらずダウナーである。彼女が人気が出た理由、それは普段はクールなのにおっちょこちょいな面が目立つというギャップである。

 ……ってさっきそこに居る配信者さんに聞いた。名前的にはもうちょいテンション高そうなのに。彼女なりの深夜テンションで配信を始めたのだろうか?


「まずは皆さん知ってる方もいらっしゃいますでしょう。配信者であり上級探索者の黒猫さんです」

「にゃは~。皆、にゃっはろ~。黒猫だよ☆! シロリンには実力では勝てないので代わりに今日は皆を虜にしに来ました~」


 白崎さんとは真反対のキャラクターである黒猫さん。確か登録者数100万人越えの有名配信者だったよな?

 ていうか別に俺以外の人達は全員大物配信者で何故か俺だけ一般人なのである。

 何で?


「……そして最後は私が通っている高校のただの同級生、オーディン君です」

「あ、どうも。オーディンです」


 てなんだオーディンッて! 流石に本名は不味いだろうから適当に俺の名前を考えておいてくれって頼んだは良いものの、まさか神の名を付けるとは思わんかった!

 いや、シロリンというネーミングセンスから察するべきだったか?


 そんなことを考えていると、視界に次から次へと流れてくる文章が現れていく。これが配信者目線でのコメントか。

 ドローンカメラから発される白い光から映写されているようで、邪魔にならないくらいの薄さで視界に表示されている。


『オーディンってwwww』

『何だその中二病みたいな名前wwww』

『おい、シロリンと同じ高校に通ってるなんて羨ましいかよ!』


 思った通りオーディンという名前に対する嘲笑のコメントが流れていく。

 この名前、俺が考えたみたいに思ってるのかもしれないけど、本当に刺さるのってシロリンなんじゃ……。


「え、あまり格好よくなかったでしょうか? 私が考えたのですが……」


 そして思った通り、シロリンこと白崎が少し落ち込んだような表情でこちらを覗き込んでくる。


「ごめんなさい。オーディンってあんまり良くなかったかも」


『え、シロリンだったの?』

『めちゃくちゃ良い名前だと思う!』

『おい、そこの男! 分かってんだろうな!』

『オーディン、うん。格好良い気がしてきたよ』

『おい、そこのお前。フリじゃねえぞ! ちゃんとしろ!』


 あまりにも理不尽な言葉の刃が俺に突き刺さってくる。お前らが生んだ火種だろうが! 何で俺がこんなに言われなきゃならねえ!

 ていうか俺じゃないと分かった瞬間、すんげー掌返しだし。

 まあ良い。顔まで晒してんのにこんなくだらない事で炎上したら俺の今後が破綻するため、対処することとする。


「大丈夫大丈夫。何か子供っぽくて可愛らしいと思うぞ」

「え、やっぱり子供っぽいかな?」


『おい、何だそのフォローは! ふざけてんのか!』

『ガキが……嘗めてると潰すぞ』

『てめえ! 1回、義務教育からやり直せ! 俺が教えてやる!』


 うん、盛大にフォローの仕方を間違えたみたい。さてと、どこかに穴を掘って隠れようかな。なんか暴徒と化したコメント欄が具現化して襲い掛かってきそうだし。


「シロリン。大丈夫さ。そんなに子供っぽいとは思わないよ」

「うん。カッコいい名前じゃないか。北欧神話の主神の名前で活動している人なんて滅多に居ないし、配信者としては良いと思うよ」


 そして俺とは桁違いの人間力を持ち合わせているイケメン配信者であるユージンさんとキングルーさんがシロリンを鼓舞している。

 まあでもキングルーさんの言うこんな名前で活動している人なんて滅多に居ないとかいうセリフは俺とどっこいどっこいだと思うんだ。


「ありがとうございます。ですが、彼が満足しなければ意味が無いと思いますので」

「いや大丈夫大丈夫。めちゃくちゃ良い名前だ! オーディン。カッコいい!」


 正直、改名したいよ。これから俺がネット活動するにあたってオーディンから変えたらおかしいじゃん? つまり、ネットではずっとオーディンなわけだ。

 それも登録者数200万人の場所でそう呼ばれてる訳だから。

 でもそれ以上に俺は自分の身が恋しい。

 これでもしも俺が自分で名前を付けた日には、ネットでは愚か、実生活にも支障をきたしそうだし。


「ほっ、良かったです。それでは今回の配信ではこのメンバーでこちらのダンジョン、『挑戦者の塔』の攻略に挑みます」


『挑戦者の塔か。結構強いな』

『オーディン君大丈夫なの? 一般人だよね?』

『ただの学生で上級探索者でもないし、ましてやランキングにも載ってないんだろ?』

『いや、まあ他のメンツが強すぎるし何とかなるんじゃない?』


 酷い言われようである。まあ予想していたけど。

 こうして俺の初めてのダンジョン配信が始まるのであった(他人の配信で)。

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