第3話 実力
「え、せっかくあんだけやったのに注目されないことってあります?」
「……ドンマイだ押出」
5分で100体を撃破するという中々の好成績を収めたというのにもかかわらず、訓練室から意気揚々と出てきた俺の目の前に広がっていたのは白崎と向井の周囲に集まる生徒たちの姿であった。
誰も俺になんて注目していない。それもそうだろう。いつもの訓練では大した結果を出せてないんだから。
いや、てか不得意分野だっただけだし! 今回は得意分野だったから今までの失態を払拭できるはずだったのに!
「というか本当にすごかったぞ、押出。お前がまさかこれほどの実力者だったとはな。もしかしたら私よりも強いんじゃないか?」
「いや先生。慰めは良いですよー。どうせ俺なんて蛆虫以下のクソみたいな才能しかないんです」
「いやいや本当にそう思っているんだって。無駄なポーズさえとっていなければ白崎よりも早かったんだし」
「む、む、む、無駄なポーズ? ガーン」
訓練室内部からは外の様子は見えないため、注目されているだろうと思った俺は1体倒すごとに格好つけていたわけだが、それが無駄だっただなんて!?
「これで落ち込むのか。難しいな」
菊池先生が何かつぶやいているが俺には聞こえない。いや確かに美人な菊池先生に褒められるのは嬉しいが、それはあくまで慰めに過ぎないという事が分かっているため余計に惨めになるのだ。
「取り敢えず全員終わったな。それじゃ次の実技演習に移るぞ!」
午前中いっぱいを使って行われる実技演習。俺の学校ではダンジョン攻略に重きを置いた学校のため座学はあまり存在しない。
「よっ、押出」
「向井か。お前は良いよな。才能にも恵まれて顔にも恵まれてよ」
「な、何だ? この授業の間でお前に何があった?」
「気にするな。持たざる者の嘆きだよ」
そうして訓練魔物を撃破する実習演習の後は異能の訓練という俺が最も苦手としている実習演習が始まり、ただただ三角座りで皆を見守るのであった。
♢
「く~っ、やっと終わった~。さてと、家に帰ったら今日の分のクエストをさっさと終わらせるか~」
クエスト画面を開き、今日のクエストを再度確認する。『腕立て伏せ100回、腹筋200回』。ただただ筋肉に物を言わすだけのクエストだ。
正直筋トレ自体はステータスがかなり高くなっているため身体的なきつさはない。ただただ時間を無為に過ごすという精神的なきつさだけがある。
だだ、俺の異能『攻略者』はこれだけではない。実はクエストを終わらせるごとに更なるクエストが生まれるのである。
そのため、基本的に暇なときは1日に一気に5個くらいクエストをこなすこともある。
「クエストって何?」
俺が独り言をブツクサ言っていた時、突然そうやって俺に話しかけてくる声が聞こえる。
思わずびくりと体を震わせて後ろを振り返るとそこには白崎瑠衣の姿があった。
「し、白崎?」
「ねえ、クエストって何?」
あまりに唐突に話しかけられて脳内がパニックになる。話したことなんて殆んどないし、何なら俺の事なんて認識していないだろうと思ってた。
「えっと、確か
あ、全然認識してなかった。うん、ある意味安心したよね。
「いや押出だけど」
「あ、ごめんなさい」
「別に良いよ。後クエストって言うのは俺の異能で生み出される日々のミッションみたいなもんだよ」
「へ~、そんな異能あるんだ~。いや今日の授業で何の異能も使わずに私と同じくらいの成績だったからすごく気になって。もし良ければなんだけど、今度私の配信に出てくれない?」
「え? 白崎の配信ってつまり『シロリン』の配信に出るって事?」
「うん。今、珍しい異能を持っている人と二人でダンジョン攻略をするっていう企画やってるの。そこに出演してくれないかな~って」
マジか。白崎がやってるダンジョン配信者『シロリン』って確か登録者数が200万人を超える大型チャンネルだよな?
そんなところに出られるなんて中々ない。しかし、俺の異能があまりにも配信映えしない。
何てったってテキトーに殴って倒すだけなんだし。
「俺で良いのか? 無様な姿を晒すだけだと思うぞ?」
「大丈夫だよ。配信場所は上級探索者でなくても攻略できるダンジョンだから。少なくとも今日の成績を出せる押出君なら余裕だと思う」
ていってもな~、シロリンの配信をたま~に見ると結構ランクの高そうなダンジョンにばっかり行ってるイメージなんだよな。
俺がクエストのためにいつも潜っているのは最深層といっても誰も興味を示さないような初級者ダンジョンの最深層だしなぁ。
いや、ここでもしもシロリンの配信で成功すれば俺もダンジョン配信者としての道が開けるかもしれない!
考えあぐねた結果、俺は白崎に了承の返事をするのであった。
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