第2話 実技演習

「今日は実戦形式の演習をする。ほら、ペアを作れー」

「仕方ねえ。向井、俺と……」

「向井君! 私と組まない?」

「向井君」

「向井君」


 俺は当然話す相手が向井しかいないため、ペアを組もうと話しかけようとしたところ、次から次へと現れる女子たちの軍勢によって失敗に終わる。

 おいおい、てめえ向井。こっち見て済まなさそうな顔してんじゃねえよ。余計に惨めになるだろうが。ていうか何でこの学校は訓練を女子と一緒にやるんだよ。

 そのせいで俺が向井と組めないじゃないか。


 ていってる場合ではない。向井とペアを組めなくなった俺にとってまさに死活問題である。

 ぐるりと周囲を見渡し、俺と同じくペアが組めていなような可哀そうな奴を探す。

 一人、一人、一人……いねえ。

 向井、そして白崎の周りには異常なほどに人が集まっていき、余計に俺の孤独感が増していく。


「なんだ押出。ペアを組む相手が居ないのか? 仕方ない、先生と組むか」

「……はい」


 そして俺は結局ペアを組めという号令によって先生と組むことになるという地獄の展開を迎えることになる。

 まあ別に菊池先生美人だし寧ろ勝ち組ってか?


「ではペア同士でまずは準備体操をしてもらう。それから5つある訓練室に順番に入って中に設けてある訓練用の魔物を二人で力を合わせて倒す。いつも通りのメニューだ。制限時間内に何体倒せたか、後で教えてもらうからな」

「「「はーい」」」


 どうやら今日は試験形式の実習みたいだな。いつもだったら訓練室っていうどれだけ異能を使っても壊れない特別な部屋の中でひたすら異能の扱いをマスターするって感じだけど、今日は本格的にダンジョン攻略の想定で実習を行うらしい。

 まあ俺としちゃ、異能の扱いって言っても『攻略者』にそんなもんはないからこういう実戦形式の訓練の方がありがたいな。


 準備体操を菊池先生と共に行うという非常にご褒美な時間を過ごした後、とうとう訓練の時間がやってくる。

 おっ、早速向井が訓練室に入ってくぞ。あいつの事だからかなり凄い結果を出すんだろうな。ん? 俺? 俺はもちろん先生と一緒だから一番最後さ。

 

 そして向井たちが訓練室の中へと入っていく。訓練室内部の様子は強化ガラス越しに見ることが出来る。

 案の定、向井の軽快な動き、そして強力な青い炎を操る異能は瞬く間に訓練用の魔物達を消し去っていく。


「すご~い、流石向井君」

「ちっ、ちょっとカッコよくて、ちょっと強くて、ちょっと完璧なだけじゃねえか」

「やっぱ向井は群を抜いて強いな。俺達じゃ太刀打ちできねえよ」


 他の生徒たちも訓練しているというのに皆が注目するのは向井の事ばかりだ。

 そして流石と言わんばかりに制限時間まであと数秒を残した状況で上限の魔物を倒しつくし、訓練室から向井が出てくる。


「お帰り。相変わらずすげえな、お前」

「おうよ。押出も頑張れよ」

「何をだよ」


 俺は菊池先生と組んでいる。そして生徒の訓練の邪魔をしてはならないという理由から当然菊池先生は補助しかしないことだろう。

 俺だけ実質一人、ソロ。ふざけんじゃねえよマジで。恥晒すだけじゃねえか。


「もちろん訓練をだよ」


 そう言うと向井は菊池先生の下へと記録を伝えに行く。

 そんな後ろ姿を見送っていると、生徒たちの方から感嘆の声が上がる。


「すげええええ! 配信の時と同じだ!」

「やっぱ強ええ。流石人気配信者様だ」

「白崎さん綺麗~」


 そこには訓練室内で氷を操り訓練用の魔物を駆逐していく白崎瑠衣の姿があった。

 その威力はすさまじく、ペアを組んでいる女子生徒が付いていけないのか微動だにしないまま白崎の事をボケーッと見つめている。

 そしてとうとう制限時間を大幅に残して魔物討伐数が上限へと到達するのであった。


「すげー、100体を3分ってどうなってんだ?」

「確か上級探索者の昇級試験でも100体を30分だよね?」

「高校生で上級探索者以上ってマジかよ」


 好奇な視線に晒されている最中、当の本人はというと特に気にしたそぶりも見せずに淡々と菊池先生へ結果を伝えに行く。

 いやはやバケモン中のバケモンだな。ダンジョン配信者として人気な理由は天使のようなビジュアルもそうだが、やはり実力も備わっているからなのだろう。

 そして興奮冷めやらない中、とうとう俺の番が回ってくる。


「押出。先生は少ししか援助はしない。でないと訓練の意味が無いからな」

「分かってますよ」


 俺が通う高校はダンジョン攻略者育成に特に力を入れており、この学校の先生は大体上級探索者の称号を持っている。

 上級探索者って言うのはダンジョン攻略の際に部隊の隊長を務めるために必要な資格であり、探索者全体のおよそ1%程度しかいないかなりのエリートである。

 そして漏れなく上級探索者である菊池先生が手出しをすれば俺が訓練にはならないと言うのは至極当然の事なのだ。


「頑張れよ」


 ニヤニヤと笑いながらこちらを見る向井にああんと言わんばかりの睨みを利かせると俺は訓練室の中へと入る。

 まあ別にスコアには拘らねえけど、ここで全部倒せた方がカッコいいよな~。


「いっちょやりますか」

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