ユグドラシルの攻略者~俺にだけ課せられたクエストをこなすためにダンジョン最深層にばかり籠もっていたら、地上では常にランキング1位の謎の探索者になっていた~
飛鳥カキ
第1話 珍しい人物
『おはようございます。本日のランキングは以下の様になります』
いつもの様に朝ご飯を食べていると、ニュース速報が流れてくる。
現代社会に突如現れたダンジョンという魔物達の巣窟。
塔型や洞窟型など様々な形のダンジョンが存在し、そのどれもが豊富な資源で溢れていた。
人々はダンジョンの出現と同時に『異能』と呼ばれる人知を超えた能力に目覚め、その力を使って一獲千金を狙ってダンジョンの中へと潜っていた。
彼らの事を『探索者』と呼び、次第に職業としてすら馴染んできたある日、世界中でとある珍事件が起こる。
それは『神の声』と呼ばれるもの。
『欲にまみれた我が子らよ。其方らには試練を与えた。世界各地に日毎に変わる我が試練を最も攻略している百名の名を記す碑を立てる。その者達を支援し、我が試練を見事制覇してみせよ。来る時までに制覇できなければ未曽有の大災害が襲うであろう』
こうして神と名乗る者によって世界各地に立てられた碑こそが冒頭のニュースで言われていた『ランキング』というものだ。
このランキングはダンジョン攻略度合いによるもので決められていると言われるが、具体的にどの数値で測られているのかは謎のままである。
一説では異能と共に個々人に付与されている『ステータス』というダンジョン攻略のための数値が関係しているのではないかとは囁かれているがそれも定かではない。
『依然としてランキング1位の名前は文字化けしており、誰か分かりませんねぇ。一体どんな人物なのでしょうか?』
『私は神自身ではないかと考えております』
テレビの中ではランキングの1位についての議論が展開されている。
他の名前はちゃんと書かれているのに何故か1位の名前だけ文字化けしており、読めなくなってしまっているのだ。
これはダンジョン探索者の間で最も大きな謎を残している。
まあ、ただの男子高校生の俺には関係ない事だけど。
「迅、テレビ見てないで早く食べちゃいなさい。もう出る時間よ」
「え、ホントだ。やっべ」
母さんに言われて俺は時計を確認すると、8時50分を指していた。始業は9時、そしてここから学校までは走って10分くらいだ。
今でないと遅刻確定である。
俺は味噌汁を一気にかきこむと、パンを口にくわえ、鞄を手に玄関へと走る。
「行ってくる!」
「はいはい、いってらっしゃい」
パンを口に咥えて走りながら俺は今日の『クエスト』を確認する。
『腕立て伏せ100回、腹筋200回』
「うへ~、普通にキツイ奴じゃん。まあ良いけどさぁ」
ダンジョン出現と同時に俺に与えられた異能は『攻略者』というもので、先程のクエストというのは毎日与えられるノルマみたいなものだ。
別にやらなかったら何かあるわけでもないけど、報酬のランクが下がるため継続してこなす必要がある。
毎日ログインボーナス的な感覚で俺は毎日切り替わるクエストをこなし続けていた。
クエストは今日みたいに筋トレみたいなものもあるが、たまにダンジョンでのモンスター討伐とかもあるからそれがゲームみたいで楽しい。
そしてクエストを確認すると、次は自分のステータスの数値を確認する。
基本的には500とか1000とかいう数字が記載されているだけで特に何ともない。
ただ、昨日のクエストの報酬がステータス数値の上昇であったため、ちゃんとその分が貰えているのかを見たかったのである。
「おっ、やっと大台に乗ったな」
俺は報酬がちゃんと受け取れていることを確認すると、ステータスを視界から消し、一気にパンを食い切る。
異能が使えるようになってからこうしてステータスの画面やクエストなどの異能に必要なデータが透明な板となって視界に顕現させることが出来るようになった。
基本的には他人からは見えないらしいけど、見せたい時は見せれるから名刺交換みたいな感じでステータスの数値だけ渡し合うなんてのが探索者の間では一般的らしい。
まあ探索者とかはそりゃあね、強いだろうからさ。
俺なんかは弱いだろうから絶対に見せたくない。
だって他の異能を見ると炎を操ったり氷を操ったりと華やかな力があるのに対して俺は普通に殴るだけだしな。
この異能に覚醒した時はハズレとしか思わなかった。まあ楽しいから今は満足してるけど。
「よし、ギリギリセーフ!」
「ギリギリセーフじゃないぞ、押出。1分遅刻だ」
「あ、すみません」
教室に入るなり担任の菊池先生に窘められ、俺はぺこりと頭を下げる。
相変わらず美人だなぁ、おい。眼福眼福。
「よお、押出。お前また遅刻かよ」
「昨日はともかく今日はたまたまだよ。テレビに集中しすぎちまった」
話しかけてきたのは俺が唯一このクラスで会話を交わす
冴えない俺とは違って、イケメンの高身長、更には強い異能持ちであり高いステータスを誇るというスペック化け物である。
俺が唯一勝てるところと言えば足の速さくらいなものだろう。
「てかよ、あれ見ろよ。
「え、マジかよ。珍しいな」
白崎瑠衣。最近、ランキングという物が現れてから、政府が提供を始めたダンジョン配信というサービス。
ダンジョン攻略を行う様子をカメラを使って配信するといったものなのだが、ダンジョン攻略を促進させるため世界中の政府がダンジョン配信のために金を出資しているのである。
再生回数と配信のチャンネル登録者数に応じてお金が支払われる。
力を入れているだけあって超人気配信者であれば億万長者にもなれるだろう。
そして今、俺達が話題に出した白崎瑠衣というのは登録者数200万人越えの超人気ダンジョン配信者なのである。
普段は仕事が忙しくて学校には来られないため、今日みたいに登校してくるのはかなり珍しいのである。
まあとはいっても俺みたいなやつが話しかけられるわけもないんだけどな。
「今日は朝から実技だぞ。皆、訓練着に着替えろ」
そういや今日の1時限目は実技演習だったな。ダンジョンが発生してから新たに追加されたダンジョン攻略特化の実技授業。
実技演習が成績の大半を占めるためここで頑張らないと留年になってしまう。
「じゃあ着替えに行くか押出」
「あいよ」
そうして俺は向井と共に男子更衣室へと向かうのであった。
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