第28話
「おー、平日なのに混んどるな」
病院に着いて、駐車場を探す先生。
「悪い、空いている所が入り口から遠いから、受付済まして車イス借りてくるな。このまま、車内で待っててくれん?」
「いいよ、歩ける」
「腫れたら通院も長引くんやで? 大人しく安静にしとき。エンジン掛けとくから、盗まれない様に番犬になっててな」
「なんでエンジン掛けとくの?」
「エアコン止まるやん? また熱中症なりたいんか?」
そう言って、颯爽と入り口に向かっていった。
なんで、そんなに優しいんだろう?
病院のお金が戻ってくるなんて知らなかった。しかも、遡って請求できるなんて。
母さんの負担になるって、通院も手術もあんなに悩んだのに。
誰も教えてくれなかったなんて。
もっと早く、森谷先生に出会っていたら、こんなに苦しまなくてよかったのかな。
コンコン、と窓を叩く音がした。
先生が戻ってきた様だ。
「お待たせ」
「俺、先生より重いよ? 大丈夫?」
「そう言うと思って、男性スタッフ連れてきた。抱っこしてもらえ」
そうだ、身長も体重もバレてるんだった。しかし、準備が良いな。
男性スタッフの肩を借りて車イスに座る。
院内に入り整形外科へ向かう。森谷先生が手慣れた様子で車イスを押してくれる。
「吉野先生に直接電話して、休憩返上で診察してやってって頼んだんよ」
「え⁉ 悪いよ!」
「去年は、お互いに手が足りない時に協力し合っていたから、俺の教え子って事でな、今回はサービスしてもらったわ」
俺のせいで、色々な人に迷惑かけてしまっている。
「何浮かない顔しとるん?」
「……いいのかなって」
「何が?」
「俺のせいなのに、色んな人巻き込んで」
「何で泉のせいなん? 怪我するくらい必至で練習してたんと違うの?」
まるで、ずっと見ていてくれたかの様な言い方をしてくれた。
あの頃の気持ち、誰にも言った事なかったけど、初めて言ってみたいと思った。
「あんな? 子供は日本の宝なんよ。泉が歩けなくなったら日本の損失なんや。やから、その足は、国家予算を全額投じても治す価値がある」
「そんなに高いの?」
「足りなければ、俺が払ったる。医療ローン組めるくらいの年収はある」
「……そう、なんだ」
嬉しかった。ただ、嬉しかった。やっぱり、この人は優しくて、カッコいい。
俺の欲しい言葉をくれる――――また、新しい色が、生まれた。
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