第29話
診察室に入った。
吉野先生と看護師さんが迎えてくれる。
「阿部くん、久しぶりだね」
「あ、はい」
「阿部くんが怪我したから診てくれって、森谷くんから電話もらってね、驚いたよ」
「……ごめんなさい」
「気にする事ないよ。じゃあ足みせてね」
スラックスの裾を捲って、左足首を見せる。
「あー、腫れているね。痛かったろ?」
「はい、少し」
「森谷くんの判断は正しかったと思う。このまま放置していたら、定期的な通院か、安静の為に入院が必要だった。応急処置もちゃんとできているね。しっかり先生しているじゃん」
アイコンタクトをとる先生たち。仲良しなんだなぁ。
「念の為、X線検査しておこう」
「え? またX線!」
「紫外線の友達(嘘)って言ったやん。しっかり、かっこいい写真(靱帯) 撮ってもらい」
「あれ? ピアスは?」
「取らないと、焼け死ぬ(大嘘)」
「ウソでしょ? 前より強力なの⁉」
「……森谷くん」
「去年、吉野先生が言っていた高校生にもなって注射が怖くて車イスで逃げ回ってる奴がいるって、もしかして」
「ああ、阿部くんの事」
「やっぱり、泉やったんか」
先生が爆笑している。学校にいる時は難しい顔しているもんな。
去年、入院している時、先生もこの病院のどこかに居たんだ。
なんだ、ひとりじゃなかったんだ。
「靭帯は大丈夫そうだね。痛み止めと湿布を処方するから、腫れが引くまでは安静にしてね」
「……どれくらい?」
「念の為、一週間は運動しないで欲しいな」
「……そうですか」
「吉野先生、学校と保護者に説明する為の診断書と、後で持参するので災害共済請求の為に、昨年の通院と入院・手術についての診断書の作成もお願いします」
「わかった対応しよう」
「ありがとうございます」
「学校側も何も言わないし、阿部くん一人で通院する事多いし不思議に思っていたけど、やっぱり学校管理下での怪我なんだ?」
「……ごめんなさい」
「阿部くんは何も悪くないから」
頭をなでてくれた。
その後、先生が受付で何かを話して、薬局で薬と湿布を受け取って車に戻る。
「帰るでー」
「お腹空いた」
「ドライブスルー寄るか? 俺も腹減った。もう午後三時やしな」
「何でドライブスルー?」
「俺一人じゃ泉を支え切れんもん」
「車、汚れちゃうよ?」
「非常事態やし仕方ないから車内での飲食を許可したる。その代わり、最新の注意を払う様に! ええか?」
「うん」
「そうや、泉の母さん何時頃帰ってくる?」
「わかんない、けど、遅いよ?」
「直接話しせんとあかん事あるから、いつが都合良いか聞いておいてくれん?」
「……え? 結婚?」
「ちゃうわ! 学校内で怪我したんやから、謝罪と状況説明と今後の対応について話しをせんといかんのや!」
「別にいらないよ?」
「あのアホ教師が、去年説明も謝罪もしてないやろうから、母さん心配しとるやろ?」
真面目な話を茶化した事を反省する。
「泉の母さん、学校に不信感持ってるかもしれんし。大人として当然のケジメや」
他にも、災害共済請求について説明と書類の記入とをお願いしたいらしい。
必要書類は森谷先生が取り寄せて持参するって。
「学校側の責任を立証できれば損害賠償の訴えを起こす事も可能や。私立高校やから、教職員個人にも追及できるんや。払えるかは別やけどな。その説明もしとかんと」
「そうなの?」
「あのアホ教師の罪を全部立証できた後になるけどな。逃がしてやるつもりはない」
「どうやって?」
「それは秘密」
不敵に笑う先生。
なにか策があるんだろうか?
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