第25話
「森谷先生の高校生の時の写真がみたい。スマホに入ってないの?」
「機種変したら消えた」
「何年に卒業したの? スマホあった?」
「何年に卒業したかは忘れたけど、スマホはあった。バカにすんな」
「なんで理系なのに、卒業年覚えてないの?」
「西暦は数字やけど、歴史やから文系や」
「卒業アルバムある?」
「かさ張るから実家にある」
「じゃあ、実家連れてって」
「却下」
「なんでー!」
「うるさい! 図書館いけばあるやろ! 仕事の邪魔すんな!」
「すぐ、図書館行ってくる!」
「課外授業、どうすんねん!」
「それよりも大事なんだもん!」
「もー、なんなん? また俺が怒られるやん」
……そう、泉が職員室に呼び出された後、俺が呼び出される。
なぜかって?泉に説教が通じないから。
ちゃんと言い聞かせろって教員は皆、俺に言ってくる。
「八つ当たりやん。保護者ちゃうで」
なんでそんなに、俺の写真がみたいん? 意味分からん。
静かになった保健室に、ため息をひとつ溢す。
「……ま、仕事するか」
◇
図書館ってはじめて来たなー
どこにあるか分からないから、図書館の人に聞いてみる事にした。
「すみません、卒業アルバムってどこにありますか?」
「何年のものですか?」
計算はニガテだけど、頭をフル回転させる。
高校卒業して、大学が四年でしょ?それから一年間、病院で働いているって言っていたから。
「たぶん、五年前だと思います」
「分かりました、探してお持ちしますので、そこの椅子に掛けてお待ちください」
五年前って事は先生、二十三歳? って事?
誕生日知らないなー。教えてくれるかなー?
好きな人の事、知りたいのは普通だよね?
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
受け取った卒業アルバム。
館内の開覧席を案内され、そこに座る。パラパラとページをめくっていく。
先生は理系って言ってたけど、特進かな?
だったら、後ろの方かも。
クラス毎に並べられた写真、めくっていくと特進クラス(理系)にあった。
『森谷蓮』の名前。
若い、っていうか変わってないじゃん。
昔からイケメンだったんだなー
◇
「先生、ただいまー」
「また来たん?」
「もっと喜んでよー」
「仕事の邪魔しないなら、喜んだるわ」
「みて! 高校生の先生の写真ゲットした!」
「は? ポケモンちゃうわ」
「図書館に卒業アルバムあって、つい写真撮った」
「つい、やない」
「照明が反射して中々上手く撮れなくて、何回もやりなおししてたらシャッター音が煩いって図書館を追い出されたの」
「またクレームくるやん、勘弁してや」
「本当は全部の写真をチェックして、先生の姿を残さずスマホに収めたかったのにー」
「卒業アルバム借りて来て、写真部の暗室借りればええやん」
「その手があった!」
「……あ、でも次の課外授業はじまるから」
「大至急、行ってくる!」
……しまった。知恵を与えてしまった。
やっている事は、犯罪スレスレやけど、動機が純粋やから、怒れんのよな。
だいぶ泉に甘いのは自覚している。しゃーない、また怒られてくるか。
「先生、ただいまー」
「おかえり」
「もっと嬉しそうにしてよ!」
「できるか!二回説教された後やこっちは!」
「なんで、怒られたの?」
「泉が課外授業サボったから。あと図書館で騒いだから。ちゃんと言い聞かせろって」
「普段から、先生に言ってくれれば、説教も一回で済むのにね?」
「泉が大人しくしてくれれば、ゼロ回で済むんやで?」
「暗室借りて、写真撮ってきた」
「……よかったな」
「ねえ、保健室のパソコンにバックアップ取らせて?」
「学校の備品やからあかんて。クラウドにバックアップすればええやん」
「クラウドにはすでに保存済み」
「じゃあ、なんでパソコン?」
「クラウドサーバがサイバーテロの被害にあったら困るから、念のため」
「国家機密でも握ってんの?」
「先生の写真が流出したら困る」
「困るのは俺や!」
「俺も困る。ライバルが増えたらイヤ!」
「なんのライバル?」
「あ、卒業アルバム家に持ち帰ってじっくり見たいから今日家まで送って欲しい」
「……なぜ?」
「重いから」
「諦めるっていう選択肢は無いんやな?」
「先生が実家に連れてってくれるなら諦める」
「おい、教師を脅すなや」
「じゃあ、よろしくね」
「しゃーないな、ちゃんと課外出るんやで?」
仕方なく、夜まで泉を保健室で預かり、俺の帰宅時間に合わせて家に送って行く。
「先生、送ってくれてありがとう」
「ちゃんと課題もするんやで?」
「先生を見つけきるっていう課題があるから」
「ウォーリーを探せ、ちゃうわ」
「返却、一週間後だから朝迎えに来て」
「なあ、そろそろ俺も先生だと思ってくれん?」
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