第8話
車内ではずっと、車の話。長谷部が車とか機械好きなのはよく知っているけど、先生も負けじと知識を披露していた。この二人、相当話が合いそうだ。俺の家まで送ってもらい、二人で降りる。
「先生、送ってくれてありがとう」
「ええって、また明日な」
そう言って、車を発進させた。
長谷部を家に招いて、自室へと向かう。ベッドに腰を下ろして、長谷部を床のクッションに座らせる。
「で、話ってなに?」
「……うん」
勢いで家に招いたものの、まだ気持ちの整理がつかない。なんて切り出せば良いのだろう。
「ねえ、森谷先生って何かかっこいいっていうか可愛いよね。天然だし」
「あ、うん。そう、だね……」
「車にも詳しいし、雑学っていうか色んな事知ってるし。元看護師らしいから、処置とか的確だし。頼りになるんだけどさ……」
続く言葉を待ってみる。
「でも、放っておけない感じ? 無自覚な人たらしっていうか、女子だけじゃなくて男子にも人気あるみたいだよ」
ああ、やっぱりそうか。だって、同性の自分からみても先生は魅力的だと思う。だから、女子からみたら……。
「なに不安そうな顔してんの? 先生と親しくなりたいんじゃないの?」
「……な、んで、分かるの?」
「だって泉、分かりやすいんだもん。バレバレだよ。俺が先生と話している時とかずっと寂しそうな顔してるじゃん」
「……あー、そうなんだ」
「他人事みたいな反応だね。先生は鈍そうだから気付いていないと思うけど」
「……いや、気付かれても困るし」
「さっき森谷先生言っていたよね。いつまで学校に居られるか分からないって。迷っている暇あったら、行動してみたら?」
「でも、迷惑かけたくない。子供だって思われたくないし」
「年齢差は一生変わらないんだよ? それに迷惑か決めるのは先生じゃん」
「……でも」
俺たちは先生から見たら確かに子供だけど、変に大人ぶるより子供らしく素直に気持ちを表現した方が伝わるんじゃないか。長谷部はそう言う。
「森谷先生は小児科に勤めていたから、子供の方が接し慣れているんじゃない?」
「確かに」
「題して、森谷先生の母性本能をくすぐる作戦!」
「ねえ、森谷先生は男性だよ?」
「知らないの? 男性にも母性本能ってあるんだよ?」
「そうなの?」
子供のお世話をしている内に目覚める様になるんだって、森谷先生が言っていたとか。既に目覚めていそうだ。
「絶対、子供の方が有利だって」
そう言って、長谷部がパチリとウインクする。
「子供らしくって、具体的にはどうすれば良いんだろう?」
「何も意識しなくていいんじゃん? 好きとか、嬉しいとか、構って欲しいとか、自分の中に浮かんだ感情をそのままストレートに伝えるの」
「……好き、って、正直まだ良く分かんないんだけど」
「じゃあ、分かる様になるまで側に居てみれば? 一緒に過ごしている内に、段々理解できる様な気がするな」
「そう、なのかな?」
「上手く行くかは泉と森谷先生次第だけど、大人と子供、同性同士、先生と生徒……。ダメで元々じゃん。可能性がゼロじゃない限り諦めなくて良いと思うな。森谷先生の言葉を借りれば、学校生活を彩る想い出を作るためってとこかな」
ああ、そうだ。確かに、そんな事を言っていた。
あの日から、ずっと心が死んでいた。無色透明だった景色が少し色付き始めている。まだ、その色が何色かハッキリ分からない。
だけど、確かに芽生えた感情――――その名前は?
「蒼太、ありがとう。なんかスッキリした」
「そうみたいだね。親友として、陰ながら応援するよ」
やっぱり、持つべきものは親友だ。
「あ、でも、車の話をするのは許してね? あそこまで詳しく話できる人って中々居なくてさ」
「逆にちょっと引く位、詳しかったよね。前世、車屋なんじゃないかってくらい」
「あはは。そういうのだよ。そういう、何気ないワードチョイスが泉の良い所だと思うから。自信持ってよ」
……なるほど。よし。どうなるか、分からないけど。まずは、行動あるのみ、だ。
学校に行く楽しみが増えた。
明日が待ち遠しいなんて、もしかしたら、初めてかもしれない。
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