第2話
大人なんて信じない。特に学校の先生。
プライドが高くて、いつも偉そうに説教してきて、生徒の話なんて聞く耳を持たない。この学校の先生は特にそう。
若い、年齢の近い先生が少なくて考えの古いオジサンやオバサンばっかり。
何かあれば、『伝統校の~』とか、学校の名を汚すなとかそんなんばかり。
『博愛』が教育理念らしいけど、俺には摘要されないって、シスター(教頭)に言われたな。
俺、卒業まで耐えられるのかな……。
今日から高校二年生になる。
一年生の時とクラスが変わるから、友達づくりも一からやり直し。
担任の先生が変わったのは幸い。一年生の時の担任とは最後まで相性が悪かった。
それでもまだ学校にはいるから、どこかで鉢合わせたら嫌だなと思いながら始業式が行われる体育館へ向かう。
高等科だけでもかなりの人数がいるから、一番広い第一体育館でも、ぎゅうぎゅう。換気の為に窓を開けているからか少し肌寒い。学園の周りは緑豊かな自然に囲まれていて、花粉症の俺には辛い。
シスター(校長)の話は長い。優しい人だから、嫌いじゃないんだけど。
ちらりと先生たちの並ぶ列の方に目をやる。司会進行などを務めるのは生徒会のメンバー。
生徒会長、
あいつは特別選抜クラスだから頭が良いし、リーダーシップがあって、人望も厚い。そして顔も良い。昨年の生徒会役員選挙で、長谷部は九割近い生徒の票を集め当選した。女子にも男子にも支持者がいるって事だ。
あれは、他の候補者が可哀想だったな……。
そんなことを考えている内に、やっとシスター(校長)の話が終わった。
そのまま、シスター(校長)がステージに残り、三人の先生が登壇する。新しい先生らしい。ステージに立った三人を見て、生徒がどよめく。この学校には珍しい、若い、男の先生。
三人ともイケメン……。顔採用かと疑わしくなるくらい。
「英語教員、高橋樹。美術教員、間宮海斗。養護教諭、森谷蓮」
シスター(校長)が紹介していくけれど、最後の一人に生徒がざわつく。
養護教諭って保健室の先生らしい。男の先生って珍しくない?
三月までいた保健室の先生は女の先生だった。中学校も小学校もそうだ。
一人ずつ挨拶をしていく新任の先生たち。
髙橋樹先生は英語と日本語を交えて、明るく。間宮海斗先生は人懐っこい笑顔を浮かべて元気に。そして、森谷蓮先生はシンプルにクールに。
「森谷蓮です。よろしくお願いいたします」
そう、手短に挨拶したその声は、男にしてはちょっと高めで耳心地が良かった。
始業式が終わって、各自教室に戻る。
ホームルームが始まる前の教室は、さっきの新しい先生の話題で持ちきりだった。
誰が好みのタイプか、出身大学はどこなのか、年齢は、家族構成は、独身か既婚か……。
別にどうでもよくない?先生と付き合える訳じゃないし。まして、結婚なんてできる訳でもないのに。と内心ツッコミながら、花粉症対応に追われる。
担任の先生が教室に入ってきて、ホームルームが始まる。新しい担任の先生は柔道部の顧問らしい。体育会系の先生はちょっと苦手。考え方も見た目も暑苦しいもん。
しばらくすると、教室のドアがノックされる。
シスター(校長)と新任の先生たち。各クラスに挨拶に回っているらしい。生徒数が多いから、先生たちも大変だ。教壇の前に並ぶ新任の先生たち。三人並ぶと顔面が強くてアイドルみたい。
今日は本当に花粉症が酷い、ティッシュが手放せない。
先生の挨拶を聞くどころじゃない。って、あ……。
ポタっと、机に何かが垂れる。鼻をかみ過ぎて鼻血が出たらしい。とりあえずティッシュを詰めようと顔を上げたその時。
「顔あげんな、ティッシュ詰めるな!」
そう言うが早く、ティッシュを持つ手を森谷先生に掴まれた。驚いて見つめると、真剣な顔で見つめ返される。
「下向いて、鼻つまんで」
とりあえず、指示された通りにする。その間、机に垂れた血液を拭いて汚れたティッシュをてきぱきと片付けていく。なんていうか、手慣れている。
「顔上げると血液が口に流れ込んで具合悪くなるんよ。鼻血出たら下向いて鼻つまむ事。わかった?」
あ、関西弁なんだ。意外……。
「口の中、血液落ちてきてない? 大丈夫か?」
そう至近距離で覗き込まれる。近いって。
間近でみるその顔は、整いすぎていて、まつ毛長いし、いい匂いするし。
同性なのに、ドキドキした。
「十五分経っても鼻血止まらんかったら保健室来て。病院連れてったるわ」
そう言って、口角を上げて、頭をポンポンと叩いて。先生たちは教室を出て行った。
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